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なぜ日本の弓は巨大なのか:私たちが弓道に惹かれる理由②

三省堂のデイリーコンサイス国語辞典(無料で利用できるありがたい国語辞典)を引くと、弓(ゆみ)についてはただこう書かれている。

ゆみ 2 [弓](1) 矢を射る武器. (2) 弓道. (3) 楽器の弦をこする弓形のもの. ▼バイオリンの~

ここでいう道具としての弓は当然(1)になるが、弓とは矢を射る武器であり、それ以上の細かい定義はない。材質がどうで、大きさがどうで、という決まりに縛られず、矢を射るならばそれは弓だということだ。

世界中それぞれに弓という道具があり、そしてその中でも日本の弓はとりわけ特徴的なものだった。日本の弓は、とにかく巨大なのだ。

今回も弓道教本第一巻より、日本の弓について考えていきたい。(※昭和28年の本となり、内容に?もあるが原著を尊重する)

日本の弓はどのぐらい大きいのか

弓道教本によれば、世界の弓はだいたい1メートル前後ぐらいのものが多かったようだ。

世界の諸民族が持っている弓は、たいてい91cm~1.21m、やや長いものも1.51~1.82mである。(弓道教本 第一巻30頁)

一方で、私たち日本人が使っている弓は
小柄な方が使う「並寸」で221cm、私が使っている「伸寸」では227cmにる。だいたい2倍ぐらい大きいわけだ。

そして日本の弓でも体格にあわせて「並寸」と「伸寸」等を使い分けるように、弓の長さと使う人の体格は深く関係している。
そんな中で、世界の中でも体格の小さいほうである私たち日本人が、2倍の大きさの弓を使っているのは異例中の異例だ。

短い弓のメリット

世界中で短い弓が使われているのにはやはり理由がある。
弓道教本によれば、短い弓には次のようなメリットがあるそうだ。

①短弓であるならば 持ち運びに都合が良い
②短弓であるならば 縦にも横にも構えられる
③短弓であるならば 握る位置を真ん中にでき取り扱いが容易い
(弓道教本28頁,31頁より抜粋)

まとめると、短い弓のほうが実用性が高いといえそうだ。

裏返せば長い弓は実用性に欠けるともいえる。

体格に合ってない上に実用性もない、なぜ日本の弓は巨大になものになったのだろうか。

弓に芸術性を求めた日本人

ここで謎を解くカギになってくるのが、前回紹介させて頂いた“日本は弓を神聖視する文化圏にあった”ことだ。

弓を神聖視する日本において、その尊崇性はたいへん重要な要素でした。つまり単なる武器としてだけではなく、“リスペクト出来るかどうか=美しいかどうか”という芸術性が求められたのだ。

そして大きな大きな長弓はその“弓体の美”を讃えられ、神聖なものとされたと弓道教本では書かれている。つまり、日本の弓が大きいのはそれが美しかったからといえる。

“弓体の美”について、昭和22年の書籍「礼の美」で、長谷川如是閑氏はつぎのように礼賛している。

第一、日本の弓のあの美しい形はどこからできたか。世界に弓をもたない人種はないが日本の弓のように美しい曲線をもった弓はない。
世界の弓の弧線は皆平凡な蒲鉾形で中心に握りがあるが、日本の弓は中心から下で全身の約三分の一の辺に握りがあって、その上下がそれぞれ特殊な美しい曲線――反り――をもっている。弾力の強さを、適当に弓の全長に分配するために、その曲線に柔剛がある。握りの上下は強く男性的で、上方末弭(うらはず)に近い辺は柔らかく女性的である。それ故、その末弭に近い反りを「姫反り」と呼んでいる。全体が剛と柔の微妙な調和をなして、まことに美しい曲線となっている。(弓道教本 第一巻31頁,"礼の美"紹介箇所)

ここでは弓の曲線について述べられている。
とはいえ「世界中でこんなに美しい弓は日本だけ!」というのはちょっと言いすぎな気もする。

いずれにせよ、そう持ち上げたくなるぐらいに日本人が日本の弓に大きな尊崇の念を抱いてきたことは間違いなさそうだ。

私たちが弓道に惹かれる理由

大きな大きな日本の弓は、高い芸術性を持ちリスペクトの対象となってきた。私たちが弓道に惹かれる理由、その一つがこうした弓に対する尊崇の念だと弓道教本は述べている。

「弓を横に倒してはいけない」「弓をまたいではいけない」というマナーが弓道界にはあるが、そういった弓に対する敬意、ある種の厳かさが弓道に特別感を持たせ、その魅力の一つとなっているのかもしれない。

世界の中には弓の歴史の途絶えてしまった地域も多くある。
武器としての弓が銃にとって代わられて何百年経つ中で、こうして今も愛される日本の弓、日本の弓道は特別な存在だ。

日本の文化のひとつとして、これからも弓道が愛されていくことを一人の弓道家として願っている。

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