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2022年の印刷雑誌の運営とは。雑誌記事のストーリーを語る上で日本が素晴らしい場所である理由とは | STORIED Magazine

京都のインディーズ印刷雑誌『STORIED』の編集者兼共同設立者であるレイチェル・デイビス氏に、2022年も印刷物を存続させるための秘訣についてお話を伺いました。

Rachel Davies, STORIED EIC

デジタルネイティブが運営し、主にデジタル領域で仕事をするエージェンシーにとって、デジタルメディアが一般的になる前の時代を勝手に語ることは、ほとんど皮肉なことのように思われます。

私たちはインターネットが大好きで、それなしでは生活することができません。オンラインメディアは無形で、無限で、流動的で、そこに存在しなくても、欲しいものにアクセスすることができます。しかし、誰でも手に入れることができ、すでに持っているものを誰が欲しがるのでしょうか?

何度も何度も、決めセリフのように言われてきたことですが、新しい本や雑誌の表紙をパカッと開いたときの感動に勝るものはありません。しかし、この感覚は、新しいものに触れてセロトニンを分泌させているからというだけではなく、カバンに入っている本の中に、哲学、芸術、文化、人生、物語などの世界が確かに含まれているという概念が、この感動の理由なのです。

まるで魔法のごとく、印刷物は言葉の持つ超自然的な力に気づかせてくれます。ページ上に印刷された洗練された文字たちは、不格好なVR技術などを必要とせずに、私たちをいとも簡単に異世界へと連れていってくれます。ご存じの方もいるかと思いますが、Y+Lのオフィスには本当に沢山の本や雑誌が山積みになっています。それらは私たちのインスピレーションの泉であり、だからこそ、印刷という魔法を守り続ける人たちと一緒に仕事ができるチャンスがあることはとても幸運だと感じています。

STORIED Magazine

STORIED Magazineは、私たちがストーリーの制作依頼を受ける前にファンになった最新のインディーズ雑誌の一つでした。レイチェル・デイヴィスと塚本ハナによって創刊されたこの雑誌は、「日本の人々、場所、文化からインスピレーションを得る、雑誌兼ジャーナルオンラインプラットフォーム」と呼ばれています。

京都から発信されるSTORIED Magazineは、京都の街そのものであり、洗練されたエレガンス、非の打ち所のないビジュアルセンス、伝統的なものの良さをバランスよく取り入れた雑誌です。日本在住の優れた英文ライターや写真家が、日本でいま最も関心が高い人物と対談しており、日本を拠点とするジャーナリズムの素晴らしさを体現しています。

パンデミックの真っ只中に、完全にインディペンデントで立ち上げたオフラインの雑誌を世界中に流通させることは、簡単なことではなかったでしょう。この雑誌の創刊者であるレイチェル・デイビス氏に、なぜ印刷物が重要なのか、2022年現在の雑誌作りに何が必要なのか、なぜ日本が雑誌のストーリーを探すのに相応しい場所なのかを詳しく伺いました。 

ご自身のこと、経歴、そして日本に来ることになった経緯について教えてください。

ノッティンガム大学で神経科学のBSCとトランスレーショナル・ニューロイメージングのMSCを取得した後、私は研究の世界は自分には向いていないと考え、よりクリエイティブな業界に身を置きました。代理店では、モエ・ヘネシーなど大手のクライアントもありましたが、主に新興蒸留所のために、高級蒸留酒とシャンパンの分野でPR、イベント、マーケティングの仕事をするようになりました。

私は独学で写真を学び、文才を養いました。そして、物語を語ることが大好きです。父は本が好きで、よく辞書を読んで楽しんでいました。活字や文章を書くのが好きなのも、父から受け継いだものです。人の話を聞くのも好きだし、自分より面白い人から学びたいといつも思っています。

最初の3、4年は、フリーランスのジャーナリストや写真家として仕事をしていました。主にイギリスとアメリカのメディア向けに執筆し、コピーライティングやイメージの作成など、ブランドの仕事もしました。ブランドの仕事が増えるにつれ、観光局やユネスコ世界遺産などの仕事をするようになり、日本ではあまり知られていない場所を意識するようになり、のめり込んでいきました。

Garden Lab Office, STORIED’s Kyoto HQ

また、日本のものづくりに興味を持つようになり、国内でも知られていないような素晴らしい職人たちがたくさんいることに気づきました。そんな人たちの話を雑誌に投稿すると、90%以上が「万人うけしない」と断られるんです。京都、東京、奈良、日光で、同じような内容での英語の記事がたくさん出ているのを見ると、とても悲しくなりました。また、京都に2週間くらい滞在したことのある人たちのいわゆる「インサイダーガイド」を読むと、本当に残念な気持ちになるんです。私は京都に5年半滞在しており、ガイドを書く資格はあると思います、ただこの街についてまだまだ学ぶことがたくさんあるとも感じています。

日本をよく知っている人たちと一緒に、多くの人が知らないような場所や話題についての、貴重で美しい物語を読者に提供したいと思ったのです。パンデミックに見舞われたとき、私は通常の旅行記事や写真の仕事をすべて失ったため、STORIED Magazineを立ち上げるための時間を作ることができました。

STORIED Magazineはどのような進化を遂げ、どのように始まり、現在に至っているのでしょうか?

数年前にSTORIED Magazineを始めることを思いついたのですが、時間も自信もなく、、共同創業者の塚本ハナ(POJ Studioマアナホームズの経営者)とは京都で出会いました。私たちは、文化、旅行、デザインのバックグラウンドを生かし、STORIED Magazineを立ち上げるのに最適な相手だと気づきました。

私たちは、エディトリアルデザイン、写真、ストーリーテリング、心豊かな暮らしへの計り知れない愛と経験を共に持っています。また、私たちは同時に素晴らしい友人になったので、一緒にやってみようと考えました。

デザイン面はすべてハナが担当し、コンテンツや営業はすべて私が行なっています。現在、第4弾を制作中です。パンデミックによる問題や、今年の日本の大雪の影響で旅行が中止になったこともあり、遅れていますが、もうすぐ出すことができると思います。

STORIED Magazineの各号は、京都、島、杉といったテーマに基づいていますが、「1号、春・夏号」などではなく、このようにテーマを絞ったのはなぜでしょうか?

日本全国からたくさんの素晴らしいストーリーが集まっているので、その中から自分たちが目指すべきものを少しでも絞り込みたかったんです。そうでなければ、アイデアが溢れかえり、企画が難しくなっていたと思います。1つの作品集に集中し、次に進むこともできます。

STORIED V 1–3

STORIED Magazineの創刊号はどのようなプロセスで作られるのですか?コンセプトから印刷まで。

毎回がミッションですね(笑)人に会って、お話しさせてもらい、私たちのビジョンを信頼してもらい、彼らのストーリーを伝えることを許可してもらうための流れはとても大変です。四半期ごとのリリースも大変で、いつもとんでもない締め切りに追われていますよ。でも、今、第4弾に入って、ある程度体制が整ったかなと思っています。

一般的には、事前にテーマを設定し、ストーリーのアイデアを探し、協力者に声をかけ、撮影やインタビューを依頼し、すべてを組み立てます。コンテンツが完成し、サインをもらったら、デザインに入ります。そしてその後、印刷に入ります。印刷している2週間の間に販売し​​、同じことを繰り返します。

日本について、またクリエイティブな面でどのようなことに感動を覚えましたか?

日本は美しい国であるということです。伝統的な建築物や自然の風景には、心を奪われるものがあります。さらに、文化的な歴史や、神道と仏教が絡み合った日常生活も魅力的です。今は誰もが信仰深い宗教家というわけではありませんが、それでも人々の日常生活に大きな影響を与えており、それが日本を非常に興味深い場所にしていると思います。そして、イギリスとは全く違います。

Oki Islands

STORIED Magazineは、あなたが「スローでサステナブルなジャーナリズム」と呼ぶものの祭典ですが、そのコンセプトについて少し説明していただけますか?

3年後に手に取ったときにも、そのときと同じようにストーリーが展開できるよう、「タイムレス」なコンテンツになるよう心がけています。私たちは、インタビューした人や訪れた場所を知りたいと考えています。

私たちは、意味のあるストーリーを伝え、読者が知らなかったことを教えたり、世界を少し違った角度から見るきっかけになれればと願っています。

京都に住んでいる時に、*オーバーツーリズムの影響を目の当たりにしたのです。私は、ガイドブックに載っているような古い場所に行くのではなく、どこに行くのか、なぜ行くのかを考え、異なる方法で旅をするよう人々に働きかけをしたいのです。

*オーバーツーリズム:特定の観光地において、訪問客の著しい増加等が、地域住民の生活や自然環境、景観等に対して受忍限度を超える負の影響をもたらしたり、観光客の満足度を著しく低下させるような状況。

私は、旅行が日常的な生活と同じか、それ以上に責任があり、サステナブルなものであってほしいと思います。私たちは、地球、国、そして人々に対して、これを奨励する責任があると感じています。

Inspiration behind the cover of V3 ‘Cedar’

なぜ日本はこのようなジャーナリズムがうまく機能しているのでしょうか?

工芸品であれ、旅に関するものであれ、ここには信じられないような物語がたくさんあります。千年前から続く文化、そして千年前と変わらない伝統。ゆっくりと時間をかけて、すべてを受け入れることができるのです。

「スロー&サステナブル・ジャーナリズム」の他の形態/出版物で好きなものはありますか?(基本的に、あなたが好きな他の出版物を教えてください。)

Lodestars AnthologyFool Magは、STORIED Magazineを始めるにあたって、大きなインスピレーションを与えてくれました。

Lodestars Magazine, image from website

STORIED Magazineは世界中の素晴らしい場所で販売されていますが、販売店はどのように見つけたのですか?

私は本当に活字が好きで、活字のために生きています(笑)
何年も前からインディーズ雑誌の読者で、行く先々でインディーズ書店を探し回っているんです。

私は沢山の場所をよく知っていましたし、リサーチも好きなので(何時間もかけて)、リストを作って連絡を取り始めました。そして、最初の雑誌を発行した後、500部余分に印刷し、サンプルを送るための「マーケティング」として使用しました。自分たちが作っているものを本当に信じていたので、見てもらえれば買ってもらえると思ったんです。その結果、素晴らしい反響をいただき、現在では素晴らしい小売業者と仕事をさせていただいています。

日本のイノベーター、メーカー、クリエイターからインスピレーションを受けている人はいますか?なぜそのような人たちに興味を持ち、インスピレーションを受けるのでしょうか?

私がSTORIED Magazineで取材した皆さんです。ありきたりな表現に聞こえてしまうかもしれませんが、本当に心からそう思っています。特にウッドワークスCUEの今田さん(Vol.2)とSOMAの河合さん(Vol.3)には、モノづくりだけでなく、サステナビリティや仕事に対する姿勢に畏敬の念を覚えました。私の共同創業者であるハナも、MAANAでやったことは本当に素晴らしいことだと思い、誇りに思っています。

あなたが考える、優れたストーリー、写真、インタビューの被写体とは何ですか?

これは難しいのですが、私は新しいことを教えてくれる物語を高く評価しています。普段は語られないようなこと、あるいは以前語られたストーリーを別の角度から捉えたものなどです。私たちの物語もそうでありたいと思います。例えば、Vol.3では、「森林(しんりん)」を取り上げたのですが、これはもう語り尽くされた感があるので、地域社会への貢献や実際の森林の持続可能性に焦点を当てました。

Goto islands, water issue

今の時代に物理的な出版物を作るというのは、どのようなプロセスですか?どのように受け止められていると思いますか?

正直言って、本当に大変です。とてもお金がかかるし、予想以上に時間がかかります。印刷に出す前には確信を持てないといけないし、印刷されてしまえば永久保存版になってしまう。オンラインは簡単に変更し、更新することができますが、印刷物はそうではありません。でも、私は手に取ってもらえるような美しいものを作るのが好きなんです。私は実はテクノロジー恐怖症で、コンピューターが苦手なんです。

2022年以降、紙媒体の役割はどのようになるとお考えですか?

右肩下がりの業界ですし、なぜそう呼ばれているかその理由はよくわかります。しかし、インディーズ雑誌は、業界の中で唯一、まだ成長している分野です。しかし、それが続くかどうかはわかりません。本当に難しい市場であることは確かですね。

STORIED Magazineの今後の計画や抱負をお聞かせください。

四半期ごとのリリースから移行しています。何か別のものを準備中ですが、今のところ、Vol.4をリリースするまで詳細は伏せておき、楽しみにしていただければと思います。

STORIED Magazine と レイチェルに関して
Website:
storiedmag.com
Instagram:
@storiedmag|@racheletdavies
Stockists:

Interview: Lucy Dayman (Y+L Projects)
Photography from STORIED

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