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「デジタルプロダクション」とは?サービス内容と企業がデジタルプロダクションを必要とするワケ|Y+L Projects

インタビューのお相手は東京を拠点に活動するデジタルプロダクション、Garden EightでWebディレクターを努める酒井菜津子さん。数々の賞を受賞しているプロダクションスタジオの日々の業務やクリエイティビティへのアプローチ、そして今日本の企業がオンライン上で国際的な存在感を示すことの重要性についての考えを探ってみました。

はじめに

小さな独立系エージェンシーで働くことの醍醐味として、何にも縛られない自分だけの国を築けることに加えて、似たような境遇の組織やチームと仲間意識のあるお付き合いができることがあります。Y+Lも、東京を拠点として活動しているデジタルプロダクション、Garden Eightの生み出す作品の長年のファンです。

Garden Eightのウェブサイト構築のアプローチは、テクノロジーと効果的なコミュニケーションを融合させたクリエイティビティを根幹としています。Garden Eightがデザインしたサイトを訪れてみると、そこではまさに、ウェブページと言うものの概念を超え、デジタルの庭園でどっぷりと遊んでいるような感覚を覚えます。オンラインの世界をキュレーションするために、その世界を知り尽くす身として、より没入型のアプローチを取っているために実現できる技術です。だからこそ、昨年Y+Lにお声がけいただいた際には、我々もエージェンシーとして正しいことをしていると言う証明のように感じました。

DDD Hotelのサイトをスクロールしていると、まるで美しくデザインされたライフスタイルマガジンや建築雑誌のページをめくっているような錯覚すら覚えます。エレガントで控えめながらも実用的で、それでいて洗練されたレイアウトと色使いはため息が出るほど美しいです。独立系ゲーム会社のShapefarmのオンラインスペースでは、威圧感を与えることなく明るく大胆な世界観を表現しています。計算された色選びと、アニメーションと静止画の絶妙な使い分けが、コンピューターのモニターに命を吹き込み、決して大袈裟になることなくユーザーがそのページの主人公であるように感じさせるページを構築しています。

我々Y+Lはデジタル領域以外でも活動をしていますが、例に漏れず、デジタルの分野においては間違いなく大きなインスピレーション源となっています。デジタル分野においてだけでなく、エージェンシーとしてもGarden Eightのクリエイティビティや会社のカルチャーへのアプローチは刺激になります。

そんなGarden Eightについてより深く知るために、会社のキーメンバーであり、年数以上に経験豊富かつ刺激的で情熱的な、クリエイティブ業界に欠かせない存在であるWebディレクターの酒井さんにお話を伺いました。

Natsuko Sakai - Web director Credit: Kim Marcelo

まずは、酒井さんご自身について簡単に自己紹介をお願いします。ご出身や経歴、興味のあることやお仕事について教えてください。

Garden Eight には3〜4年前に新卒で入社しました。大学ではデザインとは程遠い文学を専攻していました。英文学から始まり、アジアの文化に魅了され、インド文学を学ぶようになりました。

文学を学ぶうちに、言語はコミュニケーションツールであるという概念に興味がわき、コミュニケーションツールとしての言語をもっと探求したいと思うようになりました。言語と向き合ううちに、ビジュアルデザインもまたコミュニケーションに不可欠であり、影響を与えるツールであるということを視覚的に体感しました。その体験から、よりデザインの世界にのめり込むようになりました。

それからと言うもの、周りの人にデザイナーになりたいと言い始めました。中でもデジタルデザインに興味があったことを知った友人が、Garden Eightを紹介してくれました。リサーチをする中で多くの素晴らしいエージェンシーと出会いましたが、私にとってはGarden Eightが最も魅力的に感じました。

当時Garden Eightでは5人が働いていて、私が働き始めた時から今までメンバーは変わっていません。Garden Eightの共同創業者たちはここで働いて10年以上になり、他の2名も8年か9年目になります。

インターンとして働き始めた時は、デザインに関する知識が全くありませんでしたが、Garden Eightの共同創業者である野間さんから沢山のことを教わりました。

インド文学を掘り下げる中で出会った、お気に入りの著者や本はありますか?

アニター・デサイとジュンパ・ラヒリが好きです。小説をベースにした映画も沢山あり、ボリウッド*映画はとてもおすすめです。

*ボリウッド:ボリウッド(英: Bollywood、ヒンディー語: बॉलीवुड、ウルドゥー語: بالیوڈ‎)とは、インド・ムンバイのインド映画産業全般につけられた俗称。 ムンバイの旧称「ボンベイ」の頭文字「ボ」と、アメリカ映画産業の中心地「ハリウッド」を合わせてつけられた。

酒井さんはGarden EightでWebディレクターとしてご活躍中ですが、Garden Eightがどんなことをしている会社なのか、会社でのご自身の役割は何かをお伺いできますか?

デザイナーのインターンからウェブディレクターになったことは、自然な流れでした。ちょうど同時期に、会社はより多くのプロジェクトのお話をいただけるようになっていましたが、当時はディレクターが野間さんしかいませんでした。他のメンバーはデザイナー・ディペロッパーだったので、ディレクター不足と言うこともあり、自然な流れでディレクターになりました。

WEBディレクターの仕事って?

「Webディレクター」のお仕事について詳しく教えてください。

Garden Eightでは、基本的にデザインと開発以外のほとんど全てを行っています。書類作成からクライアントとの商談、サイトの構成の検討、デザインのディレクション、企画も行います。

コミュニケーションは必要不可欠なスキルで、クライアントと良好な関係を築く上でもまずはコミュニケーションを第一に考えています。

Natsuko in conversation with Y+L. Credit: Kim Marcelo

Garden Eightはこれまで、デジタル部門でさまざまな賞を受賞しています。ほんの一例を挙げても、Awwwardsの「Site of the Day」を19回、「Site of the Month」を1回、FWA(Favourite Website Awards)の「FWA of the Day」を11回獲得など、受賞作品も多くあります。

新しいオンラインのプラットフォームをつくる際は、賞を意識しますか?それとも結果的に受賞に繋がりましたか?

結果的に受賞に繋がっています。私たちはいつも自分たちのためでなく、クライアントのために仕事をしようとしています。クライアントの中には、自社のWebサイトに賞がほしいという目的を持って依頼をくださるケースもあり、そういった場合には多少意識しますが、賞を取ることを目的にはしていません。最高のアウトプットをクライアントに届けることが私たちの使命です。これはエゴではなく、私たちはデザイナーなのでこうあるべきだと考えています。

Garden Eight’s profile on Awwwards

オンライン上での存在感を示すために、会社・個人・組織それぞれにとって最も重要な要素は何だと思いますか?

何より、Webサイトの目的が重要だと考えます。目的はサイトのインターフェース以上に大切です。デザインはコミュニケーションのひとつの形なので、オンラインプレゼンスは会社にとって重大な意味を持ちますよね。

クライアントが既に目的を持っている場合の方が、デザインのディレクションや彼らが伝えたいことをWebサイトに落とし込むのが難しくないように思います。

多くの場合、クライアントからはリブランディングを目的として依頼があります。しかし、基本的に私たちはあくまでWebサイトに携わることが多く、会社のアイデンティティの部分については多くの場合関与しません。

既に強固なブランドアイデンティティーがあるクライアントとの仕事はやり易いですか?それとも挑戦ですか?

私たちはあまりクライアントを選びません。規模が大きくても小さくても、特にこだわりはありません。クライアントが元々はっきりとしたデザインディレクションのアイディアを持っている場合の方が、私たちにとっては挑戦的な取り組みになりますね。設立間もない会社がクライアントの場合もまた別の難しさがありますが、まだアイディアが固まっていない荒削りの状態から作品を生み出すチャレンジは刺激的で楽しいです。

クライアントは選ばないとのことですが、新規クライアントの獲得はどのようにしていますか?

基本的に、私たちから営業はしていません。ほとんどのクライアントはご紹介からです。面白いことをされている方々や、活動に共感できる方々がクライアントのほとんどです。ありがたいことに、最近は世界中のクライアントからたくさんの依頼や相談をいただいています。

仕事のながれ

新しいクライアントと新規プロジェクトを始める際の、会社としての仕事の流れを教えてください。

まず、クライアントが実現したいことやスケジュール、予算を探ります。その上でご縁がありそうであれば、プロジェクトに関するより詳細な情報や、一緒にお仕事ができる可能性についてミーティングを設けます(通常はオンラインです)。もしクライアントが専門的なスキルを求めている場合は、やりがいがあると感じます。反対に、他の会社でも解決できそうな案件の場合は、お断りすることもあります。

SquarespaceやWixのように、最近はWebサイトのDIY化を進めるサービスも広がっています。このようなプラットフォームはWebデザインの在り方に影響を与えていると思いますか?

良い影響を与えていると思いますし、賛成です。なんと言っても便利ですし。こういったプラットフォームの目的はコミュニケーションだと考えているので、ツールとして、価値があるものだと思います。

では、SquarespaceやWixなどのサービスを利用して自分でWebサイトの制作している人や企業が、Garden Eightのような専門家に制作依頼を切り替えるタイミングはどのような時だと考えますか?

視覚的な表現によりフォーカスしたいと思った時が、切り替え時じゃないでしょうか。ブランドや会社を始めたばかりでまだ明確な指針が定まっていないクライアントには、まずSquarespaceやWixでWebサイトを作ってみることをおすすめすることもあります。

Garden eight 地下撮影スタジオにて

日本とデンマークの文化

2020年にコペンハーゲンでGarden Eightのヨーロッパ支部をローンチする際には、酒井さんもサポートされていますよね。どのような経緯でコペンハーゲンでスタジオをオープンすることになり、酒井さんご自身はそこで何をしたのか、またモチベーションなどをお聞きしたいです。

私が入社した時点で、会社にはデンマークでのビジネスの繋がりがいくつかありました。それもあり、デンマークにスタジオを設立することを考えていました。

約5〜6年前、現地調査やインスピレーション探しとしてデザイナーチームが1ヶ月間のデンマーク旅行へ行きました。その当時はまだ海外へ拡大する意思決定はしなかったそうです。けれど私の入社後も、会社はまだデンマークへ進出することに興味がありました。当時、私はまだヨーロッパに行ったことがなく、アジア好きが高じてバックパッカーとして東南アジア周辺を旅していました。実は、デンマークの場所すら知りませんでした。私がチームに入った時にはすでに会社は事業拡大のアイディアを持っていたので、自然な流れでデンマーク行きが決まりました。

実際にデンマークのことを知るにつれて私が最も好きだと感じた点は、人々の多様性と建築、そしてデザインです。政府のWebサイトですら情報が整理され美しくデザインされているのを見て、非常に感銘を受けました。

デンマーク滞在から数ヶ月が経ったころ、新型コロナウイルスの拡大により帰国することになりました。帰国に関しては財政的な観点からの経営判断ではなく、むしろクリエイティブな意思決定でした。

酒井さんは過去のインタビューで「デンマークのデザインは日本人が持つ本来のミニマリズムの考え方にピタリとはまります。(中略)デンマークでは、人間とは、人であることはどう言うことか、に対してとても深い理解があります。そして、それこそがデザイン中心のアプローチ方法の核となっているのです。」とおっしゃっています。日本とデンマークのデザインや文化のどのような要素が似ていたり、補い合っていると思いますか?

デンマークのデザイナーたちと話していて気付いたことの一つとして、日本でもデンマークでも、職人への感謝の心があるという点がとても似ていると思います。ミニマリストとしてのアプローチも似ています。例えば、多くのWebサイトやテレビCM、屋外広告はとても情報量が多く煩雑に感じますが、日本の伝統的な文化はシンプルな美しさを良しとするミニマリズムの考えが根源にあります。

日本とデンマーク、それぞれの文化の大きな違いはありますか?酒井さんにとって興味深いと感じるような違いがあれば教えてください。

ビジネスとクラフトマンシップのバランスが良いと感じました。日本では、どちらか一方に偏ることが多いように思います。オフィスにいる時間を数えるのではなく、深く集中した仕事をすることです。Garden Eightの仕事に対するアプローチと少し似ている部分がありますね。また、デンマークはブランド力のある国だと感じました。幸福な国の印象だと日本の方々からもよく聞きますが、それは本当だと思います。でももちろん、どの国にも闇の部分はありますよね。ただ、そのダークサイドよりも何がいいのかを見せるのがとても上手なので、希望が持てて良いなと思いました。また、帰宅ラッシュが午後の4時ぐらいです。オフィスの明かりが午後の8時についているのを見た友人が、ブラック企業だ!と言っていたのを覚えています。デンマーク人にとって、家族で過ごす時間はとても重要で、とにかく早く家に帰ります。

今後について

日本のクリエイティブの会社にとって、現代においては国外でもビジネスを展開することが重要だと思いますか?またその理由はなぜでしょう?

インターネットには国境がないので、よりインターナショナルな視点を取り入れるのは自然だと思います。日本の市場は縮小傾向にあることもあり、世界に目を向けることがより必要になってきています。「日本」は国として、今の日本文化をもっとパワフルに見せることができるはずです。

Outside Garden Eight offices. Credit: Garden Eight

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インタビュアー: Lucy Dayman
日本語訳: Midori Nakajima, Minami Kido
Photographer: Kim Marcelo

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