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コットンからファッション業界の環境改善のためにできることとは?Materra社の共同創設者、エド・ブライアル氏にインタビュー

サステナブルなコットン製造のスタートアップ、Materraの共同設立者でCEOであるエドワード・ブライアル氏に、ファッション業界が人類そして地球と共存するために必要な変化について話を伺いました。

ファッションおよびアパレル業界は、地球上で最も収益性が高く破壊的な業界のひとつです。世界的には、年間1兆5,300億米ドルの経済効果を生み出していますが、生地の廃棄は毎年9,200 万トンに上ります。ファストファッションを含め、短期間で消費者の需要を満たすために安く流行りの服を生産するビジネスモデルが、この状況を作り出している大きな要因です。消費者中心のこのビジネスモデルは、生産過程に関わる縫製工場や素材の生産農家のことは全く考えていません。

しかし、変化への希望はあります。業界について、そしてイノベーションが業界にできることの理解を深めるために、サステナブルな綿花の栽培に取り組んでいるスタートアップのMaterraで共同創設者兼CEOを務めるエドに話を聞きました。Materraがどのように天然資源としての綿と、綿を取り巻く農家・衣料品ブランド・消費者との間にある溝を埋めようとしているのかをを教えてくれました。

© Materra

ファッション業界では広告、コミュニケーション、ブランドの認知度が重要であるため、消費者、クリエイター、デザイナー、思想家としての私たちにも、変化を促す責任があります。私たちはクリエイティブエージェンシーとして、PIPATCHARA(リサイクルしたペットボトルの蓋を再利用したハンドバッグ等も展開するエシカルブランド)のような持続可能性と品質に重点を置いたブランドとの仕事に誇りを持っており、クリエイティブエージェンシーの立場からもファッション業界を変えるためにできることは他にもあると思っています。

このインタビューを通じて私たちに気づきがあったのと同じように、この記事によって皆さんの中でも意識の変化があることを願います。消費者としてだけでなく、コミュニケーターやクリエーターとしても、いつも着ている服がどこから来たのか、制作過程にはどれだけの人が関わっているのか、意識的にネット・ポジティブなファッションに貢献するにはどうすればよいか、考えるキッカケになれば幸いです。

© Materra

備考:ちなみに、エドと玉田曜一郎(YLの共同設立者兼CEO)の出会いは、2016年東京・下北沢にあるコーヒースタンド、ベアポンド エスプレッソに遡ります。小ぢんまりとした店内でコーヒーを待っている際に、曜一郎が小脇に抱えていたスケートボードがキッカケでスケボー好き同士の会話が始まり、今では気心知れた友情が芽生えています。

スケートボードの話題からデザインやクリエイティブ・イノベーションまで、情熱には新たな可能性を生み出す力があります。今回、Y+L Projectsはエドから彼自身、そしてMaterraの活動について話を伺うことができました。

Materraについての詳細はこちらです:


ご自身について、簡単に自己紹介をお願いします。
MaterraのCEOで、3人いる共同創設者のひとりです。常に3人で密に仕事をしています。

農場経営とファッション業界への参入までは長い道のりでした。と言うのも、僕のこれまでの経歴ですが、まず短期でコンセプチュアル・アートの仕事に携わった後に機械工学を学び、その時に物がどのように作られ、どこから来るのかを学びました。

その後、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(王立美術院)とインペリアル・カレッジでデザインを学び、更には東京の慶應義塾大学とブルックリンのプラット・インスティテュートへと進学しました。学生時代は、社会的影響と持続可能性に対する様々な専門分野からのアプローチに必要な感覚と言うか、野心を育んでいました。

中東、極東、南アジア、ヨーロッパ向けの新しいテクノロジーを使った実験的デザインにも携わりました。その経験を経てサステナビリティの世界にシフトし始め、ケニアで農業インフラのイノベーションを展開するスタートアップとも仕事をしました。

他の2人も似たような背景があって、次第に社会的にも、持続可能で環境にも影響を与える大きな可能性を秘めたプロジェクトについてよく話すようになりました。

エドワード・ブライアル氏 © Materra

コットンに目をつけたキッカケは?そしてどのようにMaterra設立へと繋がったのでしょうか?
僕は原材料のルーツや、原料がどこから来るのかに興味があります。中には酷い栽培方法もありますが、綿は汚れた作物ではありません。寿命が来たら正しく処理をすれば、天然繊維なので修復して土に還すことができます。

2018年の冬の間、地下室の環境制御下で、水耕栽培*も取り入れながら綿の栽培を開始しました。はるかに少ない水で栽培し、廃水の再循環もできるため、非常に効率的です。

怪しいピンクのライトを設置し、まるで大麻を育てているような装備でした。それでも、数個の綿の芽を育てるにはそれで十分でした。そして思ったのです。これならやれるかもしれない、と。 

© Materra

2019年にはロンドン東部で実験を拡大し、ブランドへの売り込みも開始しました。ほとんどのブランドは原材料の取り扱い方を知りません。それでも、業界が地球と服を作る人との関係を考え直そうとしている時だったので、非常に興味を持っていることはわかっていました。

いくらか助成金が出たので、プロジェクトにより集中できました。その年の終わりまでに2つのアクセラレータープログラム(AP)を修了し、プレシードの資金を確保しました。更に、グッチやバレンシアガを所有するケリング、トミーヒルフィガーを所有するPVH、カルバン・クライン、そしてインドで2番目に大きな工場のArvindとのトライアルも確約できました。

Materra創設者左からエドワード・ブライアル氏、ジョン・ ベルトラーソ氏、エドワード・ヒル氏 © Materra

今の綿産業の主な課題は何だと思いますか?
綿産業は依然として細分化されており、ブランドが素材の原産国を知ることすら一般的ではありません。信頼と透明性は非常に大きな課題です。 昨年、インドでオーガニックコットンの不正認定というちょっとしたスキャンダルがありました。

その他の課題として、今や気候の緊急事態に直面しており、農業は気候変動の最大の要因のひとつです。昨今の生活費の高騰により、これまでよりも少ない利益率で農業を営んでも、農場経営の費用がより高価になっています。

© Materra

Materraで働く皆さんについてと、どのような会社なのかを教えていただけますか?
メンバーは、植物科学者、データエンジニア、ソフトウェア開発者、実際の綿農家など、多岐にわたる専門分野の新卒の若手や経験豊富な専門家の集団です。機械やテクノロジープラットフォームの構築も可能でありながら、人間中心の設計プロジェクトも遂行できます。

© Materra

僕たちの取り組みとしては、現在、ファッション業界向けに3つのサービス分野があります。

  • まず、水耕栽培や再生農法などの農業システムの設計です。農家が畑の生物多様性の再構築と、自然な農場の回復力に焦点を当てている部分です。 

  • 次に、農家の農場での意思決定をサポートするファーム・インテリジェンス・プラットフォームです。僕らの農学*とデータチームの力が集結します。

  • 最後に、データの透明性です。小規模農家システム向けに数値化可能な方法でグラウンドトゥルースデータを作成します。ブロックチェーンなどのテクノロジーを駆使した他の企業と協力して、トレーサビリティとサプライチェーンの追跡に取り組みます。

たとえば、オーストラリアとアメリカには大規模な農場があるため、すべての綿花をひとつの農場から集めることができ、多くの綿花がどこから来たのかを簡単に追跡できます。一方、アフリカや南アジアなどの地域では、何百万もの小規模綿農家がいます。僕たちは、小規模農家も確実にデータベースに取り込まれ、ブランドが自社の原料がどこから来ているかを把握し、農家がサステナビリティ・プレミアムから公正な分け前を受け取ることができるように取り組んでいます。

© Materra

ネット・ポジティブとは?Materraのネット・ポジティブなファッション業界に向けての取り組みを教えてください。
ネット・ポジティブのコンセプトは、次の世代に引き継ぐ時に、生まれた時よりも地球を良い環境にするということです。ファッション業界で言うと、地球が毎年再生できる資源よりも使用量を少なく抑えることを意味します。基本的に、害を減らせば良いと言うことではなく、良いことを多くすると言うことです。

僕らの農場は環境への影響と土地利用を最小限に抑え、地域の生物多様性を再構築するための再野生化や再植林など、より再生可能な土地の条件のためにスペースを作っています。

ネット・ポジティブのもうひとつの側面は、農業従事者への認知度の向上と報酬の提供など、携わる人へのプラスの影響です。僕らが着るものすべての基となる原料を作る人々に、どう還元するのかを考え直さなければなりません。

© Materra

ネット・ポジティブなファッションに貢献するために、私たちが消費者としてできる事はありますか?
修理、再利用、中古品の購入、そして可能な限りリサイクルを心がける事です。修理をすることが習慣になると、自分の物とのつながりがより深いものになります。ですので、僕自身も修理が大好きです。

新しいものを買わなければならないときは、ブランドの産地表示ラベルをしっかり確認し、品質が確保されたものを探してください。たった3回の着用でダメになってしまうようなものは購入しないでください。

消費者はそう言ったアプローチから変えることができると思います。ひいては、それが業界への強いメッセージにもなります。業界全体を変えるには多角的なアプローチでなければならず、誰もが自分の行動やビジネスの運営を変えるためにできる限り努力する必要があります。

本質的に、状況を変えようとするのであれば、生産者にもより多くの賃金を支払い、人の消費との関係を再検討する必要があります。地球上の天然資源には限りがあるように、人間の尊厳も有限な資源と考えることができるのではないでしょうか。 

ブランドは、これらの欠かせない素材がより高価で取引される必要性を受け入れ、消費者としては、使い捨ての衣服なんてものは存在しないと考えなければなりません。

Photo by Thom Bradley on Unsplash

インドにあるMaterraのパイロットファームについて詳しく教えてください。その後の計画についても伺えますか? 
2021年に荷物をまとめてインドに数か月間赴き、最初の農場を立ち上げました。ブランドとの提携により環境制御型農業への実験的アプローチを開発し、僕らの技術をイギリスからインドに移行しています。

この年はインドでの挑戦的な一年でした。コロナウイルスの危機を乗り越え、農場の運営と運営維持をお願いできる素晴らしい人々を雇用でき、非常に幸運でした。

今は更に高度な農業試験を実施しており、再生型農業システムの試験運用も行っています。計画としては今後数シーズン以内に、水耕栽培綿と再生綿の両方を、検証可能な影響データと併せて世界中の顧客に提供できるようになります。


© Materra 

これまでにアグリテック*のスタートアップとして直面した最大の課題は何ですか?
外国でビジネスを一から起こし、ビジネスに関わる周辺業務を整えるのはとても大変です。古くからある確立された市場に入ると慣例と慣行がすでに定着しているため、別の方法を試すよう説得することすら困難になり得ます。

ですが、Fashion for Goodのようなプラットフォームにより、業界で働く人は素材や革新的なソリューションについて手軽に学ぶことができます。

気候の緊急事態の背景は、僕らはどのように素材を調達し、自らを養い、世界中を移動し、生活をしていくのかを再考しなければならないことを意味しています。そのため、極めて予測不能な未来に備えると同時に新しいものを開発することは、本当に難しい課題です。 

Photographer Dhruvin Shah (Agency ALF)

より多くの人がサステナビリティの分野に興味を持ち、その分野を目指すようになるためにはどうすればよいでしょうか?
サステナビリティの分野での人材は以前よりは採用しやすくなっていますが、金融やコンサル業界のような組織とは依然として競合しています。ロンドンや東京のようなビルに囲まれた都会は、ただひたすらに続く都市なだけです。自然から切り離されたような環境では、自分たちが何を失っているのかすらわかりません。

このような環境にこそ、その価値を可視化するために、人に伝えるための物語とより良いサステナビリティマーケティングが必要なのです。

その他には、自然に自由にアクセスし、森の中を散歩したりキャンプをしたり、自分が食べている物がどこから来ているかを学んだりすることです。これはとてもわかりやすい方法ですね。自然と触れることで、では農場では何が使われているのだろう? 自分の体にはどんな物が入ることになるのだろう?と考えるキッカケになります。

他の2人も含めて僕たちは、子供たちがまだ小さいうちから学校で教えなければいけないと常に声をあげています。これも非常に重要なことです。

© Materra

アグリテックやサステナビリティの分野で自分のビジネスを考えている、または始めたばかりの人にアドバイスをお願いします。
僕らもまだ会社としてシードの段階なので、誰かにアドバイスをするのはいつも変な感じです。 

誰に向けたビジネスであれ、持続可能な調達の裏にある本当の動機を探り、自社製品をより適切に調整できるようにすることが重要です。自分がやっていることを相手が理解できるように伝えることができれば、すべてが少し順調になります。製品を本当に欲しがっていて、喜んで広めてくれる顧客がいれば、資金調達もしやすくなるでしょう。

立ち上がりましょう。農業の未来のために多くの色んなことを試しているので、検証結果が出るのを待っている時間はありません。ゆっくりとした生産プロセスや検証サイクルではいられないのです。

取り組んでいるビジネスの中で、持続可能ではない分野についてよく考えてください。制限について、自分自身と一緒に働いている人にオープンで正直になりましょう。そしてその制限を管理する立場になるのです。そうすれば、スケーリングを開始したときに、せっかくやっている事のプラスの影響を打ち消すような方法で悪い面を増やしてしまうようなことはしないはずです。

© Materra

この仕事をするモチベーションは何ですか?
僕たちは気候変動の危機と闘い、誰の生活も悪化させないための会社に時間を費やしたいのです。考え方としては非常にシンプルで、世界で最も影響力のある産業のひとつであることから農業に行きつきました。

今、僕を奮い立たせているのは、最高のチームがいるということです。 経験豊富なスペシャリストから若いメンバーまで、情熱を注いでこのプログラムに取り組んでくれる仲間がいる、と言うのは素晴らしいことです。

Photographer Dhruvin Shah (Agency ALF)

個人的に目指している、またはMaterraと近い価値観を持っていると感じる企業や組織はありますか?
有名どころですが、パタゴニアは業界を先導しています。まだ完璧ではなく、消費者向けのブランド故に、より多くの服を販売しなければいけないビジネスモデルではありますが、ブランドの価値観と、より多くの人々を自然に連れ出そうとしているところは本当に尊敬しています。消費者に物との関係を見直すように促している精神は、本当に重要です。

Fair Phoneにもとても共感します。可能な限り倫理的にスマートフォンを製造しているオランダの会社です。100%倫理的な会社にすることは不可能だと思いますが、彼らは自分たちが取り組んでいることの限界についても透明性を打ち出しています。

コットンと綿花栽培の未来はどうなると思いますか?
サプライチェーンのどの過程を取ってもより良い関係を築き、天然繊維に戻ることです。 

未来の理想としては、誰もが自分の持ち物がどこから来ているかを知っており、「自社製品の綿の産地を知らない」と言うことを容認できるブランドがなくなることです。どこから来て、どのような影響を与えているかを知り、農家と協力して影響を改善するための計画に取り組むようになることを望みます。 

© Materra

用語リスト: 

  • *アグリテック = 農業技術、農業の効率と生産量を改善するための技術の使用

  • *農学 = 土壌管理と作物生産の科学

  • *水耕栽培 = 土壌を使用しない植物の栽培方法、栄養豊富な水を使用して行われることが多い

  • ネット・ポジティブなファッション業界 = 生態系を枯渇させるのではなく育てる、より良い素材を使用し、廃棄物ゼロを念頭に置いて製品を設計すること。詳しくは、net-positive fashionをご覧ください。

Materraについての詳細:

参照 

翻訳・編集: 中島 碧 (Editing and Translation from English by Midori Nakajima)


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