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バルバロス・エルキョセ

トルコ:ターキッシュ・クラリネットの名手(1)

ジャズ界に与えたターキッシュ・クラリネットの衝撃

歴史に残るターキッシュ・クラリネット名プレイヤー紹介。第一回目は、バルバロス・エルキョセ(Barbaros Erkose)。

バルバロスは、1936年トルコ北西部のブルサで生まれた。ロマの家系である。父はウード奏者として知られ、また作曲家としても名を残した音楽家。また祖父、叔父、兄たちも演奏家であり、エルキョセ家は音楽一家であった。

12歳の頃までには学校をやめ演奏活動を開始。この頃、サフェト・ギュンデゲール(Saffet Gundeger, 1922-1994 )の教えを受けたという。その後、1961年にはトルコ放送局(TRT)オーディションに合格、家族とともにイスタンブールへと拠点を移す。

トルコ国外のミュージシャンとの演奏も多く、ジャズ・リスナーにもよく知られたチュニジア出身のウード奏者、アヌアル・ブラヒム(Anouar Brahem, 1957-)との共演が有名だ。

特殊なトルコのクラリネットによる表現のうちシリアスな部分は、彼の演奏によって世界に知らしめられたと言って良いだろう。

冒頭に挙げた動画が、アヌアル・ブラヒムとの演奏。一曲目のタイトルにもなっているアルバム「Astrakan Cafe」(アストラハン・カフェ, 2000年, ECM)は筆者の愛聴盤でもある。

そのフレーズは、タンギング(音の区切り)が弱めで伸びやかなのが特徴である。一般的なオリエンタルの象徴としての"蛇つかいの笛"と言ったときに想像される音色は、まさにこんな感じと思われる。

そのフレーズに見合うように、音色もきらびやかと言うよりは落ち着いた印象。全体的に技巧をひけらかすのではなく、抑制された味わいで曲を奏でている。

トルコ古典曲の「シャナーズ・ロンガ」を聴き比べてみる。ちなみにこの曲、2000年ごろ中国の女子十二楽坊によって「自由」という曲名で演奏され、テレビCMで良く流れていた。

筆者の考える最高のテクニシャン、セリム・セスレル(Selim Sesler, 1957-2014)演奏の同曲はこちら。音のキレ、音の明るさ、音数がずいぶんと異なるが、どちらにもそれぞれの良さがあると感じられる。

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〔参考文献〕

Wikipedia「Barbaros Erköse」 https://en.wikipedia.org/wiki/Barbaros_Erköse

関口義人『トルコ音楽の700年 オスマン帝国からイスタンブールの21世紀へ』 2016年 DU BOOKS ISBN 9784866470061

関口義人『オリエンタル・ジプシー』2008年 青土社 ISBN 9784791764297

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(1)バルバロス・エルキョセ(Barbaros Erkose, 1936-)
(2)ムスタファ・カンドゥラル(Mustafa Kandirali, 1930-2021)
(3)セリム・セスレル(Selim Sesler, 1957-2014)
(4)番外:ターキッシュ・クラリネット前史
(5)シュクリュ・トゥナール(Sukru Tunar, 1907-1962)
(6)セルカン・チャウリ(Serkan Cagri, 1976-)
(7)ヒュスヌ・シェンレンディリジ(Husnu Senlendirici, 1976-)

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