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福盛進也トリオ - For 2 Akis

Shinya Fukumori Trio / For 2 Akis

大阪府出身、全くと言っていいほど無名なドラマーである福盛進也のECMデビュー作を山本邦山の「銀界」以来の日本産フォーキー・ジャズというと大袈裟だろうか。マンフレート・アイヒャー主催のECMが掲げるテーマの一つに、「”ある地域の音楽"をアイヒャー・プロデュース、ECMというパッケージで世界に届ける」ということがあげられる(『Jazz The New Chapter 2』参照)。和ジャズの名盤:山本邦山による「銀界」、古くから続く日本の伝統音楽をジャズに昇華させた傑作だが、アイヒャーはそれを聴いてすぐに、その作品でペンを取っていた菊池雅章にコンタクトをとったという(『ECMの真実』参照)。

福盛進也は今作「For 2 Akis」で主に昭和歌謡とその時に親しまれた曲を取り上げている。アメリカでは伝統音楽やルーツを現代的な解釈で再び取り上げる”アメリカーナ”と呼ばれるムーヴメントが盛んだが、この作品も一種のアメリカーナ的と言えるだろう(日本人により日本の曲を取り上げているからジャパニズムだろうか?)。この作品で取り上げられる「荒城の月」、「星めぐりの歌」や「愛燦燦」は、今ではテレビの懐メロ特番や教科書の中でしか馴染みがない。しかしアイヒャーと福盛トリオは、これらの曲を”ある地域の音楽”として世界に届けると同時に、平成生まれの私や、リアルタイムに聴いていた人たちにも改めて届けてくれた。

メンバーはテナー・サックスのマシュー・ボーデネイヴ、澤野工房からのリリースで知られるピアノのウォルター・ラングとドラムの福盛だ。ベースレスというバンドの重心が軽くなる編成となっているが、それが浮遊感と透明感を生み、メロディーやハーモニー、曲のもつ暖かさまでもがはっきりと伝わる。

この作品のハイライト的曲「愛燦燦」では、美しいメロディをより一層美しく弾けるラングと、吹き過ぎることなく歌詞をも聴こえてくるくらい優しくゆっくりと語りかける様なボーデネイヴ、点と点を結びバンドを詩的に彩りコントロールするポール・モチアン的な包容力を感じる福盛のドラミングよるこのトリオの魅力を感動すら覚えるほど感じる。

作品で日本の昭和歌謡という”ある地域の音楽"が、ECMという世界で最も美しい封筒にいれて世界中に届けられた。日本人による新たな名盤の誕生だと思う人は、きっとわたしだけではないはず。

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