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コワーキングスペースとプレイスメイキング

園田 聡氏の著書「プレイスメイキング: アクティビティ・ファーストの都市デザイン」で紹介されているプレイスメイキングの考え方は、コワーキングスペースなどの場作りにも通じるものがある。

そこで本記事ではコワーキングスペースの場づくりや価値提供について、プレイスメイキングの考え方を参考に考察する。


プレイスメイキング自体は公共空間を誰もが自由に使いこなせる居場所に変えるための考え方や手法だが、著書の中で紹介されているように

「単なる空間としてのスペースではなく、人々の居場所であるプレイスと呼べる場所をいかに作っていくか」
「本質は、愛着や居心地のよさといった心理的価値をいかに空間に吹き込むか」

を考え、実現するためにプロセスをデザインすることなので、本質的なところではコワーキングスペースの場作りを設計し運営していく上でも参考になるだろう。

園田氏は同著の中で「センス・オブ・プレイス」という言葉も紹介しているが、日本語で言うと「場所性、場所らしさ」になるらしい。

その場所の独自性と捉えれば良いだろう。

センス・オブ・プレイスのより具体的な定義としては

「単にその場所の空間的特徴を表すものではなく、その場所がうまれた背景やそこでの活動や歴史の堆積によって形成されたその場所独特の文化をも包括していること」

構成要素には
「空間的枠組み(物理的要素)、表層的価値(心理的要素)、活動(機能的要素)」がある。

コワーキングスペースに当てはめてみると、

  • 空間的枠組み:建物の外観、内装、オフィスチェアや什器など

  • 表層的価値:オーナーが独立して起業した経験を背景にした創業支援や士業や経営コンサルなど本業を活かしたビジネス支援などコワーキングの運営背景やわかりやすさ、認知しやすい魅力

  • 活動:空間利用や利用者の動線、BGMや交流イベントなど

といったところだろう。

ここ数年でコワーキングスペースと名のつく空間は急増したが、
実態はかなりバラつきがあり、

建物・空間の有効活用を目的として、リモートワークの作業ができる机と椅子だけを並べたような単純なスペースもあれば、先にオーナーや運営者のやりたいことがあり、それを実現する場所としてコワーキングという場作りをしているところもある。

中にはお洒落な内装や什器などハード面だけをアピールし、そこでどういう人たちがどういう活動をしているのかが全然見えてこないスペースもあるが、
そういうところはよっぽどアクセスの利便性が良いなどがないと、大体が集客に苦労しているように見える。

建築家のヤン・ゲールが都市計画のデザインについて指摘するのと同様に、
コワーキングにおいても活動→空間→建築という順序で場作りを計画しないと
「豊かな活動が生まれる可能性はない」のだ。

「プレイスメイキング」著者の園田氏は、その本の中でプレイスメイキングを進める上で10のフェーズを紹介しているが、

まず最初のフェーズが「なぜやるかを共有する」だという。
その次に、その場所の潜在力を発掘し、成功への仮説を立てるのだと。

場所ありきではいけないのだ。

場所の潜在力という意味では、
その地域ではどういう人たちが多く住んでいるのか、どういった人たちに利用してもらいたいのか、ということもコワーキングにおいては重要だと思う。
それにより空間の設計も変わってくるはずだ。

それとプレイスメイキングでは、デザイン思考と似たようなプロセスとして
「段階的に試行し、試行の結果を検証する」というのがある。

コワーキングも活気があるところは、常に何か新しいことにチャレンジしているように思う。

それはイベントであったり、レイアウトを少し変えることだったり、ほんのささやかな変化だったりするが、それでも少しずつ何かを試し、積極的に情報発信している。

SNSやWEBサイトを見ると情報発信のボリュームと更新状況で何となく察せられるので、活気のあるコワーキングスペースを利用したい方は参考にすると良い。

「プレイスメイキング」で紹介されているPPS(Project for Public Spaces)のチェックシートはその場所の状況や利用者の様子の観察を中心とした評価項目のリストだが、
そのままコワーキングスペースの分析にも当てはまりそうなのでチェックシートを少し筆者なりに解釈し作成してみた。

園田 聡氏「プレイスメイキング: アクティビティ・ファーストの都市デザイン」の
「PPSによるチェック・シートの例」を基に筆者が作成

もちろんコワーキングの本質はこれにとどまらず、特に協働などの活動把握は観察だけでは限界があるので、さらに詳しく知るには運営者や利用者に聞く、インタビューするなどの補完が必要である。

また、

「それぞれの場所は人々が携われる活動や行為をできるだけ多く(10以上)提供すべきである」

という前述のPPSによるメソッドも紹介されていて、場作りや、その場の雰囲気を知るヒントになるかもしれない(10にこだわる必要はないが)。

コワーキングスペースに置き換えると、例えば以下のようになる。

ワクワクするコワーキングの10の活動

・偶然の出会いがある(コミュニティマネージャー等が紹介してくれる)
・仕事(受発注)や協業がうまれる
・創作活動や仕事をする
・資格などの自習や読書をする
・交流会や勉強会に参加する
・同僚とのミーティング
・リモートでのオンライン会議
・利用者同士や運営スタッフとの雑談
・地域活動やクラブ活動に参加する
・夕方以降のBarタイム、演奏会、TV観戦などエンターテイメントを満喫する

コワーキングにおいても大事なのは「アクティビティ・ファースト」だ。

上記のような利用者同士や運営者とのインタラクティブなやり取りやプロセスへの参画によって、園田氏が著書でも書いている「その場所への愛着が醸成され、自らの手で作り出し獲得できるものへと変わる」のだ。

これからの働き方は今よりももっと多様化し、働く場所や所属する組織がフレキシブルになり、コミュニティへの帰属意識は希薄化する。
そのような時代に求められるコワーキングスペースの場づくりや価値とは何か、引き続き考えていきたいと思う。


本記事は、園田 聡氏「プレイスメイキング: アクティビティ・ファーストの都市デザイン」にインスピレーションを得て、コワーキングスペースに応用し考察したものである。「」に記載したものは基本的に著書からの引用である。

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