淀み、そして春
君を追いかける、自転車を走らせた3月のことを思い出しながら揺られる中央線快速、午後2時。永遠に降りることのない街を眺めながら、きっとここにあるはずの知らない暮らしに夢だけを残して僕は行く。新しい暮らし、ワンルームの薄暗い台所には人の気配がしなくて、なんだか急に寂しくなって、思い出たちと一緒にお散歩に出かけたくなる。
セピア色のカラーコンタクトはどこ?/僕の視界を染めるために/クリアコンタクトの真ん中に一滴/薄茶色のペンを探す/そして小さい丸を塗る
「やっぱりぼやけたままでした」
君に会える気がする、カーテンレース越しに見るやわらかな陽射しに騙されたままの僕。知らない街、引越し業者のトラックに運ばれてゆく桜の花びらは、やっぱりここに舞い戻ってくるのに。コンクリートの上で小さく揺れては集まって、淀む、淀み続ける、風が吹くまで。人たちは進む、それを前だと疑いもせず、風の流れを作っていく。なんとなく身を任せて流れる。誰にも出会いたくないのに、また出会いたいだけだよ。春が出会いの季節なら、何一つピンとこない僕たちは、何度だって再会する。
ーーー淀み、そして春。
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