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連作短歌

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2021年10月の記事一覧

連作短歌「詩と息」(12首)

コンビニを出れば夜。このコンビニは卒業したら来ないコンビニ いきものの夜の星座のしずかさの川の蛇行の夜のいきもの 虫時雨おおきなあくびをしたあとに君とみおろす北斗七星 ゆめのなかでゆめをみているゆめをみた他人に興味がないのがばれた 遠い窓 座っていると見えなくて立つとほんのり匂う木犀 水筒のフタがコップになるようにいまも天真爛漫ですか 後ろから読む短篇集そのように昨日と今日が全く違う 埋めるのはかんたんなこと満たすのはむずかしいこと 花を買わない 風化してしま

連作短歌「世界中が君になっても」

流れ着く港を選ぶことなんて世界の中じゃ眩しいことさ 教室の後ろの席から君が投げた白い時計を、僕が、摑んだ 君の右、僕の左を卒業の証明として流れるお寿司

連作短歌「生成について」

現状を肯定しようとするような言葉ばかりが湧き上がってきます もう何も同じではない花束を抱えたときの刺激ときたら 大丈夫 だれかにとってやさしさを意味してくれる十本の線

連作短歌「湾曲について」

顔を隠す丸を小さくしていくとピエロの赤い鼻っぽくなる 今わからないことが二十年後とかに判るようになることがあるらしい 卑屈さが似ている人と三年も一緒にいればいろいろよぎる

連作短歌「乾杯」

むかしむかし発掘されたガラケーを梅酒に浸して無限に嫁ぐ カーテンを未来に過去と会いに来て平泳ぎには愛が速すぎ 要するに犬が二人で手を繋ぎ傘を丸めて公園を消す

連作短歌「紙にアクリル」

板に油彩、言わないことに決めたことめっちゃ言ってた次の朝には 「咬まれた?」と訊いてもなにも答えずにゾンビになりつつあるあたたかさ 紙にアクリル、パスタにパスタ、さくらばな。人見知りだけ長生きできる

連作短歌「ぽじとねが」

片足を突っ込んだくらいのことでもうこんなにもがんじがらめだ なんかしてせめて記憶に残ろうと思った時点でなんかちがった 今すでに知り合っている人たちの中から浮かび上がってくる色

連作短歌「パンとサーカス」

じゃんけんで負ければいつも後攻を選んだようなセンチメンタル 「お聴きください。きのこ帝国で『中央線』」わっはっはっはっはっはっはっは もう誰も勝てないような勢いで私は一本道へ踏み出す

連作短歌「Together and alone」

手にメモを、書いていたのに忘れてた、大事なやつとそうじゃないやつ 怒ったり嫌いになったりできるほど深入りしてもされてもいない 飛行機が濃霧で飛べないことなどがなんとなく良い 今日も誰かが

連作短歌「夜から夜へ」(10首)

あたりまえみたいにおもっていたけれどあげたマフラーしてくれている 永遠と書いてとわって読んでほしい永遠と書いてとわって読むね ねこ飼ってないのにきみは毛だらけのパーカー着ているなんでだろうな 間違って消えてしまったものたちが転送される星があります 手をゆびと読み間違えた恋人のイメージを経由する言語観 曲がりくねっているのが道ならいいけれど川ならぼくも連れて行ってよ 知ってるのに知らないって言う恋人とたぶんもう来ない代々木公園 トラウマは消すんじゃなくて上塗りをす

連作短歌「音楽室だった」(10首)

君が笑って僕も笑っていたときの音楽室のようなひだまり はじめてを取り戻せない僕たちは数えることもやめてしまって もう僕の言い淀むときの沈黙も待っていてはくれないんですね 覚え合うことはそれぞれ別だけどいつか一緒に忘れ合おうね 音漏れをしてるかどうか訊いてくる距離とか声とかさりげなさとか さよならがいちばんエモい フラッシュの影がフィクションみたいに暗い 世界には君と似ている人たちがたくさんいるなと思えてきます 噓みたいな歌詞だったのでもう一度歌ってみたのが最後の

連作短歌「チーズソーセージカレー」(10首)

有休をのがしてのがして冬が来てチーズソーセージカレー食いてー ひさしぶりに行くとセルフになっていた 雨じゃないのに雨のにおいだ こけるときの視界をすごく覚えていてちいさなバグのように恋人 壊れてるカメラを買うのが趣味ですか私さむさにはつよいんですよ 渋谷区の立派に育った街路樹を切る仕事だから仕事だからね むかし鳥飼っててんけど死んじゃってその日に受験受かった話 なんとなく来てみてふたりで眺めてる前方後円墳  と距離感 この視界どう考えても私のじゃないんだ、け、ど

連作短歌「青い光」(10首)

ジオラマの海辺の街に夜が来てこのままずっと夜なのかもしれない 約束を破ってみたり破られたりおたがいに破りあってみたり 砂浜に手紙が来たり面影を感じたりふと泣いてみせたり 同僚が立ったはずみにころがったマウスの青い光が夢に 休日に通勤定期を利用して海のにおいのしそうな駅へ 植物園でしか蛍みたことない芥川賞よんだことない 神社からまっすぐ伸びる坂道の先がどう考えても海だ 砂浜で遊ぶこどもたちが笑う走っていって遠くでも笑う 視るは入る 知ってるような息ぎれと知らない

連作短歌「ひとっとび」

たくさんのチェックポイントを踏まされる古き良きレギュレーションですねこれ 馴染めないイライラ感に現在の僕の感じは作られました サブクエをコンプしてゆく生きかたはあくまで事後的な見つけかた