M&Aでグループジョインしたスタートアップのプロダクト責任者が、マルチプロダクトを展開するベンチャーに入って見えている景色をまとめる

🎄この記事は HRBrainアドベントカレンダー2023 5日目の記事です🎄

こんにちは、HRBrainでPdMをしている加藤です。

welldayという会社でVPoEという名のプロダクト責任者をしていましたが、今年の10月にM&AによりHRBrainにジョインしました。なのでまだ比較的入りたて状態なのですが、HRBrain社はお世辞なしでマジでみんないい人で優しくしてくれるので、おかげで早く馴染めている気がしています。

毎年アドベントカレンダーは何を書くかで悩むのですが、今年は自分の今の立ち位置がそれなりにコンテンツになるかもと思い、それをネタに書きたいと思います。元wellday、現HRBrainの人間として、入社2ヶ月弱という良くも悪くもフラットな視点で、HRBrainについて見えていることを言語化する感じです。どんな課題があって、今後どう面白そうかを伝えられたらいいなと思っています。

wellday → HRBrainでの変化、いまの景色

welldayからHRBrainへの変化はいくつもありますが、特に大きいと感じたのは会社の持つプロダクトが1つから複数になったということ、それから200人弱の組織の一員になったことです。welldayのときは1つのプロダクトしかなく、会社≒プロダクトのような状態だったのでこれは大きな変化でした。そして、welldayのコアメンバーは5人だったのに対して、HRBrainは200人弱。一気に40倍くらいの大所帯になりました。HRBrainではプロダクトごとにチームが分かれているので、welldayチームも同じように1つのプロダクトチームとして受け入れていただいたようなイメージです。

複数プロダクトを開発・提供する環境にジョインしてから強く感じているのは、プロダクトの提供価値には「足し算」と「掛け算」があるということです。足し算の価値とは、それぞれのプロダクトが単品で価値を提供していくということ。掛け算の価値とは、プロダクト同士の掛け合わせによって単体では生めなかった価値を提供するということです。プロダクトごとにより良い価値提供をすることは相変わらず重要ですが、それと同等、あるいは今後の我々にとってそれ以上に重要になってくるのは、単品プロダクトの集合体では生めなかった価値をプロダクト群としていかに生み出していくかということです。

足し算と掛け算の提供価値

これは、全てのプロダクトを滑らかにつなげて誰でもなんでも使える魔法のツールにする、という話ではありません。プロダクト群の部分集合を一種のパッケージとして捉えて、提供価値を最大化するストーリーとそれを実現する組み合わせを見つけるということです。組み合わせは当然既存のプロダクトをベースとして考えるものの、それには限りません。今ないピースを見つけそれを獲得するのも全然ありで、社内の新規事業はもちろんのこと、M&Aも候補になります。現にwelldayはその一環で仲間入りさせていただいたものと捉えています。

プロダクト群の提供価値を最大化するストーリーとそれを実現する組み合わせを見つける

複数プロダクトを提供する上で、別にそこまで掛け算を意識せず、足し算だけ(単品プロダクトの集合体)でもいいのではないか、という意見もあると思います。しかし、自分はことHRTechの領域においては明確にそれではダメだと考えています。

仮に、プロダクトがそれぞれ全く別の領域のものであって、その連携をユーザーが期待しないならば問題はありません。むしろ変に連携したら意味がわからないので、相互に独立した状態が望ましいと思います。あるいは、競合を寄せ付けないほど各プロダクトが単品で強く、連携などしなくても圧倒的強者で居続けられるならば優先度は低いかもしれません。そうでないならば、市場の選択によって遅かれ早かれ単品プロダクトの集合体ではいられなくなります。ユーザーはラクで良いものを選ぶからです。多いというのはそれだけで分かりづらく面倒なので、そのままにしておいたら自然淘汰されてしまうという話です。

この前提に立つと、関連した複数プロダクトを提供している時点で、プロダクトに求められる課題解決の次元が自動的に1つ上がっているとも言えます。単品のプロダクトの集合体としてできることは言わば「あたりまえ」になり、そこから先の価値創造が求められているということです。単純に「全部あります!」というのは、極端な話「このパーツ全部組み立てると車になります!」と言っているのと近いのかもしれません。お客さんはパーツが欲しいのではなく車が欲しいので「いや組み立ててくれや…」となるわけです。

また、市場が複数プロダクト前提の競争環境の場合、単品での競争はお互いに真似しやすいので差が付きづらく、やがては同質化していってしまうので長期的に得られる利益が構造上少なくなります。この戦いを意地でも避けて独自ポジションを確立することこそがプロダクト戦略(文字通り戦いを略す)における至上命題であることは疑いようがありません。

プロダクトが提供できる価値の次元を一つ上げるには、プロダクトそのもののあり方とそれを実現するプロダクト組織の状態それぞれについて目指す状態があると考えています。

  1. 組み合わせによって価値を生むプロダクト群であること

  2. 1を最速で実現するために、一貫性とスピードを両立したプロダクト開発組織であること

簡単なテーマではないですが、ここがまさに今後のHRBrainの面白いポイントだと思っていて、それぞれ自分の考えを書いていこうと思います。

組み合わせによって価値を生むプロダクト群

HRBrainは「マルチプロダクト戦略」を掲げていますが、自分は「マルチプロダクト」を単品プロダクトの集合体ではなく「組み合わせによって価値を生むプロダクト群」だと考えています。

単品プロダクトの集合体から、マルチプロダクトになるための考え方はシンプルで、組み合わせることでしか生まれない効用を見つけることです。
我々が提供しているのは基本的にBtoBのSaaSなので、効用は業務にプロダクトが導入された結果ユーザーが「享受できる価値 / かかるコスト」で考えます(※経済学で言うところの「効用」の定義とは異なると思いますが、どうかご容赦ください)。コストには人件費などの業務にかかるコストはもちろん、プロダクトの利用料金も当然含まれます。

この計算式は個人的に気に入っていて、つまりプロダクトによって得られる価値が小さい場合、コストは限りなくゼロにならないとユーザーは嬉しくないので買わないということです。価値は絶対評価だけでなく相対評価もあるので、一定価値があっても類似製品との差がわからないならばユーザーはなるべく安く手に入る方がいいと感じます。逆に圧倒的な価値がある場合はいくらコストがかかろうが欲しいと思うということでもあります。これは単品のプロダクトであっても基本的には同じ考え方ができます。

プロダクトの組み合わせによって、コストが減るか、あるいは付加価値が生まれる例には、パッと思いつくだけですが例えば以下のようなものがあります。

  • コストが劇的に減る

    • 被っていた業務が共通化されて業務時間が節約される

    • API連携により自動化されてその業務に張っていた人件費等が浮く

  • 付加価値が生まれる(使えば使うほど、新たな価値が裏側で生まれていく仕組み)

    • 統合されたデータから今まで得られなかったインサイトが得られる

    • 今まで捨てていた、あるいは放置していた情報から、全く違うところに転用可能なアウトプットが得られる

組み合わせる場合も効用は大きければ大きいほど良いのは変わりません。生まれる効用が大きいほど、単品ではなく組み合わせで使う理由になるからです。プロダクト提供側としては、そのような効用が発生する組み合わせとストーリーを見つけたいと考えます。

新しいプロダクトを作るときの考え方と同じく、着想はトップダウン、ボトムアップどちらでもいいのですが、結局はどちらのアプローチも必要になります。トップダウンなアプローチとは、今ある最善の思い込みで絵を描くことです。「これとこれを組み合わせたらこのくらい良いことがある。なぜならば」というストーリーを思い込みでいいので描きます。ボトムアップなアプローチとは、今ある事象やユーザーの声ベースで課題を特定し、原因を解消しようとすることです。トップダウンなアプローチでは、顕在化していない課題もストーリーで網羅できますが、それだけではファクトが足りず実現可能性にも欠けます。ボトムアップなアプローチでは、ファクトベースで顕在化した課題は見えますが、それだけだと現状に視野が固定され場当たり的な対応になってしまう危険性があります。

なので、原理原則に基づき、まずはトップダウンな視点とボトムアップな視点を行ったり来たりしながら、大きな絵を描いていくことになります。絵を描くときはできるだけ大きく、最終的に目指している状態から逆算して描きます。最終到達地点と今がズレたら元も子もないからです。ベンチャーでは不確実性が高すぎて5,10年後の絵が鮮明に見えていることはあまりないと思うので、先の方は抽象度高くビジョン・ミッションを達成できている状態を描けていればよく、近くなるにつれて事業・プロダクトとしての解像度が上がってくるような形になるはずです。1~1.5年くらいであれば鮮明に描けるはずで、これがロードマップになります。

また、新規事業やM&Aなどが盛んに行われ、断続的にプロダクトが増えていく環境下においては、ロードマップも高頻度で見直し・アップデートが必要かもしれません。そのような環境については経験がなく想像しかできないので、詳しい方がいたらぜひお話を聞かせていただきたいと思っています。

一貫性とスピードを両立したプロダクト開発

マルチプロダクトを高い品質で速く作っていくためには、必要となるチームの視点や考え方にも単品のプロダクトを作っている時とは異なると考えています。良いタイヤやギアを作ることと、良い車を作ることは全く別の話であるのと同じように、組み合わせで価値を作っていこうとしたときの難易度は全く質が違うものだからです。

とはいえ理想とする状態の定義は、単品のプロダクトのときと大きくは変わらない認識でいます。目指したいのは、プロダクト開発において一貫性とスピードが両立できている状態です。ここでスピードとは単なる機能開発のリードタイムの短さではなく、利益ないしはそれにつながる学び(アウトカムとも呼びます)を時間軸上でどのくらい速く多く積み上げられるかということです。マルチプロダクトにおいて一貫性とスピードを実現するには、複数存在するプロダクトと組織が連動・協調していなければなりません。

プロダクトと組織を連動・協調させるための方法としてはいくつかスタイルがありますが、その組織のカルチャーにあったものを選ぶことが重要です。HRBrainにおいては、3つのバリュー「Intensity」「Take ownership」「Power to the team」と相性がいいものがベストなので、各組織が自律・分散的に行動し、その結果が有機的に組み合わさっていくようなスタイルではないかと考えています。自分自身としてもそのスタイルが組織がエンゲージメント高くクリエイティブになれると信じているので、それを前提として話します。

HRBrainの3つのバリュー

この状態には大きく3つの要素が必要だと考えています。

  1. 事業に明確なゴールと勝ち筋があり、それらがイシューとして段階的に分解されメンバー各々の役割に紐付けられることで、一貫性のあるストーリーとして組織に浸透していること

  2. 1を前提とし、各チームが共通のゴールに向かい、自律・分散的に動ける状態であること

  3. 適切なフィードバックと評価の体制によってチーム間に健全な緊張構造が生まれており、2のアラインメントとして機能する状態であること

事業目標に紐づく形でイシューが分解され、相互に関連するイシューについては
オーナー同士のフィードバックが発生し自動的にアラインされる状態

1つめは、シンプルにイシュー分解の話です。組織全体で同じ方向を向けるよう、事業目標を達成する上での最上位イシューからそれに連なる下位のイシューへと適切に分解がされていて、またそれぞれのイシューを解くオーナーは誰なのか、ということが明確である状態です(手法としてはOKRがよく知られています)。

この状態は、組織においてある種の共通言語の役割を果たすので、あらゆるレイヤーにおいて会話が噛み合わないということが劇的に減り議論の質が上がります。また、メンバー各人の役割とイシューが紐づくことで、自分の行動が事業にどのように影響するかもわかるようになります。これによって、仕事に向き合う上での緊張感はもちろん、達成の意味・意義の感じ方も全く変わります。

2つめは、1によって解くべきイシューと役割が明確になった状態のチームないしは個人が、役割を果たすために自由に動ける状態を作るということです。これにはいくつかの要素があると考えています。

①役割に応じて適切な権限が与えられていること
②最大限に情報がオープンであること
③挑戦に伴う失敗に寛容であること
④行動の結果得られる利益・学びに貪欲であること

「責任と権限はセット」という言葉の通り、まずは役割と果たすべき責任に対して適切な権限を与える必要があります。また、他チームとの連携においては、それぞれの役割を理解することが重要です。よって、1つめでなされたイシュー分解と役割定義の全体像が、組織全体に対してオープンにされている必要があります。また、役割と権限を与えられたチームがより優れた結果を出すために欠かせないのが、挑戦と失敗への寛容さです。これがないと安全策しかとれず、リスクをとってより大きいインパクトを出そうという行動が取れません。ただし、これはやりっぱなしを許容するという意味ではありません。プラスにしろマイナスにしろ、行動の結果として得られる利益・学びに対しては組織の遺伝子レベルで貪欲であることが理想です。

3つめは、組織の縦横で適切にフィードバックサイクルが回ることで、自律・分散的な動きの中でも自動的に方向性が揃っていき、行動と結果の質が上がっていく状態を作るということです。前提として、1のイシュー分解によって、縦のレポーティングラインにおいては下位のイシューが解けたかどうかは上位のイシューが解けるかどうかに依存するため、構造上健全なフィードバックの実施が期待できます。横の関係においても、依存関係のある場所においては、対等に要求し合いフィードバックを行うことで、結果として互いの質が高まっていく健全な状態を作ることができます。

まとめ

つらつらと考えていることを書き連ねているうちにだいぶ長くなってしまいました。一筋縄ではいかないテーマについて触れていますし、理想論のように見える部分もあるかと思いますが、理想から始めることが成功の第一歩だと思っている人間なのでどうかご容赦ください。

これはwelldayのときから変わらないスタンスなのですが、難しい問題を解こうとするときほど、理想が大事だと考えています。理想の実現が難しいのは大体のことがそうですし、難しい理由・やらない理由なんてものは労せずいくらでも見つかります。そういったことから逃げるために、手元のタスクや自分ができることばかりやってしまうなんてことも人間の性としてあると思います(自分も当然あります)。しかしそうではなく、理想に少しでも近づけるにはどうしたらいいかを考え続け、地を這ってでも諦めず挑み続けることが、真に難しい問題に立ち向かうということなんだと考えています。そして、それができるチームはとても魅力的だと思います。

welldayからHRBrainにジョインし変わったこともありますが、この記事で触れたプロダクト・組織ともにそういった難しい問題に立ち向かうことのできるチームにジョインできて嬉しいですし、非常に可能性があってポジティブに感じています。自分たちの立ち位置は少し特殊ではありますが、HRBrainのプロダクトと組織をさらに良いものにしていくべく、wellday培ってきたものをフル活用して、HRBrainオールでより大きな価値をお客様に届けていけたらと思っています。

また、HRBrainでは全方位積極採用中ですので、もしちょっとでも興味がありましたらぜひお気軽にお声がけください。twitterで絡んでいただけたりするのもとても嬉しいです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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