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自身。

 ボクたちの通う高校の裏山に、その人の本当の姿を映す鏡があるという噂が流れたのは、つい最近のことだった。誰も本気で信じてはいなかったが、だからこそ面白かろうとボクたち4人は思い立って、午前中に全ての授業が終わる今日この日に、裏山へ足を運んだ。……そして、30分ほど裏山を歩き続けたところで、ボクたちは大木に立て掛けられた、とても大きな鏡を見つけた。

「スゲェ、ホントに映ってる! 鏡写しとかじゃなくて全く別の、でも確かに俺なんだ」最初に鏡を見たタケちゃんが、興奮気味にそう言う。こちらからは特に何も見えなかったし、正直お調子者の彼だから、あまり信用ができない。しかし、続けて鏡を覗いたテッさんも驚いたような反応を見せるものだから、いよいよその鏡に興味が湧いてきた。本当の自分の姿が自分だけに見える鏡。「ボクにも見せてよ」と言い、鏡の前に立つ。一体どんな自分が映るのだろう。興味心と不安で板挟みにされたような、そんな感覚に支配される。

しかし鏡にはなにも映らなかった。

「いつまで見てんだ。早く俺にも見せろよぉ」と、ケンケンが強引にボクを引き剥がす。そんな彼も鏡に映るものに驚かされたような、そして少しだけ目を逸らすような、そんな表情を浮かべた。恐らくボク以外の3人はちゃんと映るものが見えたのだろう。

ならどうして、ボクだけには何も見えなかったのだろうか?