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【1番近くで送る『祝福』】


2021年7月5日。

この日は、僕の『大切な人』の結婚式。

この業界に入った時から、
僕の前を走り続けてくれた先輩

僕が苦しい時、多くを語らず、
ただ真っ直ぐ信じてくれた恩人

そして、共に『結婚式』のために、語り、
励まし合いながら歩んできた戦友でもある人。


僕の中での『大切な人』と過ごしてきた時間や
想いを振り返りながら、
彼の結婚式のことを綴っていこうと思う。

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僕たちの出会いは今からおよそ12年も前のこと。

この業界に足を踏み入れた僕は、
当時、香川県では1、2を争う人気式場に配属。

その同じ会社の『系列式場』に彼はいた。

僕よりも年齢が1つ上。
高卒入社の彼と、専門卒入社の僕だから、
2期先輩にあたる。

館も違うし、そんなに会うことは
無かったのだけれど。

『料飲サービス』という同じ部署だったから
婚礼、宴会、ビアガーデンなどと、
繁忙期にはヘルプ体制がある。
そこで一緒に仕事をした。


当時の第一印象は、実はそんなに良くない。

彼は明るくて、冗談をよく言ってる人で、
若い世代のスタッフから人気者。
いつも、輪の中心にいた記憶が強い。

そして僕はというと、
入社当時から、ある目標を掲げていて、
1日も早く成し遂げて、退職したかった。

今よりもずっと未熟だった当時の僕。
誰かと群れたり、お喋りをしてるより、
仕事の成果しか求めていなかったから。
僕には彼らの輪がとても苦手だった。


今思うと、いつも明るくて優しい彼は、
こんな可愛くない新人の僕にも、
分け隔てなく笑顔で接してくれていた。

僕はその後、丸2年でこの企業を退職。
彼とはもう会うこともないだろう。と。

この時、その程度の関係しか築けていなかった。

その後、僕はバンケットサービスの請負会社で起業した。


それから時は流れて、、起業から3年目。
僕の会社は倒産寸前の崖っぷちに立っていた。

税理士からも、
「あと3か月以内に取引先を獲得し、
現金を増やさなければ倒産します。」
そう言われ、取引先獲得のため、
いろんなところに頭を下げ、駆け回っていた。

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すると、古巣式場の元上司から
一本の電話が入る。

「お前バンケットサービスやってるやろ?今契約してる企業といろいろあって、新しいところを探してる。
うちに入れるか?」

こんなドラマのような展開を受け、
僕の会社は起死回生の取引を、
まさかの古巣式場で獲得したのだった。

その古巣式場で、
僕が退職してからも働き続けていた彼と
3年ぶりに再会した。


僕たちはそれから、仕事を一緒にするたびに
日々の結婚式についてや、その式場の事。
お互いの未来について、
少しずつ話をするようになっていった。

そして、彼は僕の会社を応援してくれた。
僕の部下である若いアルバイトスタッフにも
優しく接してくれたし、
僕の信じる道を、一緒に信じてくれていた。

ようやく彼の正義感の強さや誠実さ。
熱くて揺るぎない想いに少しずつ
触れることができ始めた頃。

「俺、辞めようと思ってる。岡山に行くつもり。」


彼はそれから数ヶ月後。
当時、新しいウェディングのカタチで
全国的にも注目を集めていた
岡山県の人気式場へ転職していった。


そして、転職してまだ間もない彼が
「香川に素晴らしいスタッフが沢山いるサービスの会社がある」と上司に打診してくれて、
彼のいるその式場との契約が決まった。

これからまた、一緒に仕事して、話して。
彼との関係はもっと深くなれると思っていた。

しかし、そこでも彼と仕事ができたのは
数ヶ月の間だけだった。


彼は、栃木県足利市にある
同会社の系列式場へ転勤が決まる。


こんな感じで僕と彼は、
お互いの道を励まし合いながらも、
いつもこれからって時に、離れてしまう。

それから僕たちは、お互いに忙しくなり、
連絡の回数は減り、
会うこともほとんどなくなっていった。

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それから5年以上が過ぎた頃。
僕は30歳となり、
人生の大きな転機を迎えていた。

8年間経営してきた会社を解散させ、
フリーランスへと転身した。


今までずっと、
支え、励まし、応援してくれた彼には
一言きちんと報告をしよう。
そう思った僕は久しぶりに
お話したいです」と彼にLINEをした。

それから数日後。
僕たちはzoomでお互いの顔を見ながら
この5年間を少しずつ埋め合うように、
お互いのことを話した。

久しぶりの再会で少しばかり緊張したが
すぐに打ち解け、2時間も3時間も語り合った。

彼は新会社設立のメンバーとして引き抜かれ、
栃木県を出て、
群馬県高崎市にある式場で支配人になっていた。

5年もの間で、お互いそれぞれの道で
沢山のことを経験した。


zoomの画面越し彼の横に、
ひょこっと顔を出した人がいた。
彼の奥さんだ。

レタリングアーティスト、
ウェディングのアートディレクターとして
活躍するICHIKAさん。

『アーティスト』として活躍する彼女。
外見は清潔感に溢れていて、お洒落で美しい。
内面は柔らかさの中にも芯が強く、ブレない。

そんな感じの第一印象があった。

「素晴らしい奥さんを射止めたな」と、、。
少しだけ照れ臭そうな彼を見つめながら
僕はやっぱり嬉しかった。


それから僕たちは、
空いた時間を見つけては連絡を取り合い、
お互いの近況報告や結婚式の未来について
夜中まで熱く語り合った。


そして、いつものように
連絡を取り合っていた、ある日。
お2人の結婚式の話に。
そこで彼から相談を受ける。

「唐木さ、俺たちの結婚式にキャプテンとしてきてくれないかな?」

この頃僕は、
フリーウェディングキャプテン
という新しいサービスを始めたばかりだった。

まさか、新郎新婦様からの初めての依頼が
このお二人になるなんて。。

先輩であり、恩人、戦友とも言える
大切な彼の結婚式にキャプテンとして
参加させてもらえるとは思いもしなかった。
本当に本当に、嬉しかった。



こうして決まったお2人の結婚式は、
2021年7月5日。彼が支配人を務める式場。
群馬県高崎市にある
『The Secret Home』で執り行われた。


キャプテンとして入る僕は前日、会場へ入り
ミーティングに参加させてもらった。

結婚式場という固定チームの中に
手の内も分からない外部の人間が入り、
結婚式を創るのは容易ではない。

僕も、受け入れてもらえるだろうか?
と大きな不安を抱えていた。

しかし、パーティー会場に入るとその壁には、

『Welcome 唐木CAP 宜しくお願いします』

と大きな張り紙がされていた。
大きな拍手で迎えられ、少し照れ臭かったけど、
たった一瞬で不安を一つ取り除くことができた。

こういうスタッフ同士の『場創り』も
良い結婚式を生む為に実は大切なこと。

彼が支配人を務める式場。
こういうところもさすがだなぁと、思った。


そして、迎えた当日の朝。
実はあまりよく眠れなかった。

緊張で寝れなかったというより、
彼と僕のこれまでのこと
彼のこれまでのこと
彼のこれからのことに
想いを馳せていたら夜中になっていた。


会場に到着すると早速、
ふたりらしい』ウェルカムグッズが
出迎えてくれた。

彼とICHIKAさんの家に
行ったことはないのだけど、、
ふたりの家のイメージ、そのまんまだった。

パーティー会場に入っても、
そんな『ふたりらしい』空間は続く。

アートディレクターとしても活躍する
新婦ICHIKAさんがビジュアルを創り込んでいた。

ただ、可愛い、おしゃれだけじゃなくて。
本質的で内面から滲み出た
色使いやアイテムの選定。
とても親しみのある空間だと思った。

キャプテンとして入る僕は、
高まる気持ちを抑えながら、
なるべく『主観』を捨てるように努力した。
あくまでもそこに立っている時は、
プロフェッショナルとして。


時間は進み挙式がスタート。
パーティー会場は
受け入れ体制に向けて最後の仕上げに入る。

The Secret Homeのパーティー会場の
スピーカーからは、ふたりの挙式の音声が入る。

それを聞きながら僕は、
改めてふたりに想いを馳せる。

これまでふたりと共に話したこと、
悩んだこと、笑ったこと。

心の中にあるお2人との思い出を、
丁寧に拾い集めるように。


挙式は無事に結び、
いよいよパーティーの時間へ。

会場の入り口でスパークリングワインをゲストへ振る舞いながら、楽しそうな笑顔のお2人。

でもここに来るまで、沢山の葛藤と苦しみがあったのを僕は知っている。


「結婚式をしよう」
そう決めてから何度も結婚式を諦めかけた。
コロナウイルスの影響を受けて、
大切な人から相次ぐ欠席の連絡
そして、延期


そんな中で、
自分達の結婚式をいつも後回しにして、
誰かの結婚式に向き合い続けたふたり。

とても苦しかったと思う。
この笑顔にたどり着くまでに
2年以上もかかったのだから。


その笑顔を見て僕も気を引き締める。
『必ず忘れられない時間を』と。

パーティーは開演。順調に進んでいく。

場を創っていく音楽。定評のあるお料理。
シンプルでありながらゲストの感情曲線を
高めていく進行演出。

長年、キャプテンやパーティースタッフとして
磨いてきた新郎らしい時間、空間。

ゲストとの距離はグッと近く、
友人も、職場関係者も、家族も、スタッフ達も
みんな心からの笑顔が溢れていて
空間の温度は優しく高まっていった。

パーティーが順調に進む中。
スタッフはこっそりと、ある準備を進めていく。


実は一つだけ新郎新婦へ向けた
サプライズを用意していた。

コロナ禍で悩み苦しんでいる新郎新婦様に
少しでも元気と勇気を与えようと、
SNSで結婚式の写真や想いを
『 #結婚式でつながろう 』
のハッシュタグをつけて投稿するという、
ウェディング業界横断型同時多発イベント。

このイベントに掛け合わせ、
生まれたもう一つのイベントがあった。

ゲスト様からの想いを
メッセージカードに綴ってもらい、
苦しい中で結婚式まで頑張ってきた
新郎新婦様に届けようという企画だった。

全国の新郎新婦様を労い、救っている
このメッセージカードのデザイン。

実は、新婦がデザインしたものだった。

余分なものは入れず、
シンプルで小さなメッセージカード。

『一度切り離しても並べた時、想いがつながるように』

と想いを込めて創られたそのカードは
想いのタイル』と名付けられた。


この日、ゲストとして参列していた
フリーウェディングプランナー佐伯エリさん
中心となり、企画されたサプライズ。

ふたりも全国の新郎新婦と同じように。
苦しみや葛藤を抱えながら、
今日いう日に、たどり着くことができた。

そんなふたりに
ゲスト様からの想いや労いの言葉を、
新婦がデザインした美しいメッセージカードに
乗せてプレゼントしようと。


新郎新婦お色直し中に
ゲスト様に配られたメッセージカード。

そこにゲスト様は優しい表情を浮かべ
ふたりへの想いを綴っていく。

無事、再入場までに全てのゲスト様のカードを
集め終えることができた。

これを佐伯さんやスタッフさんで協力し合い、
ふたりにバレないように
一度切り離されたカードを綺麗に並べていく。
『想いのタイル』そのままに。

そして、
いよいよパーティーがお開きを迎える頃。

新郎は最後の挨拶をすると思っていたその時。

新郎新婦様のこれまでの葛藤や
結婚式に対する想いをよく知る、
佐伯さんがマイクを持ち話し始める。

「目の前の新郎新婦様の苦しみに寄り添い心を砕いてきたお2人。ここに来るまで長かったでしょう。沢山苦しかったでしょう。」

今まで、目の前の沢山の新郎新婦様を励まし、
支え続けてきたふたり。

その言葉を聞いた瞬間。
心の奥にしまい込んでいた感情は
一気に溢れ出した。

そして、その完成した想いのタイルのボード。
誰よりもお2人を見守り応援してきた
両家のお母様が届ける。

「よく頑張ったね。」

大きな愛を込めた言葉をふたりにかけながら、
優しい表情で手渡された。

沢山のゲスト様の想いが
タイルの上だけではなく会場中に溢れ出し、
そこはとてつもなく美しい空間となった。
惜しみない拍手が贈られる。

ここに集っている人たちは、
みんな分かっていたんだと思う。


ふたりが誰よりも
『誰かのために』生きてきた人だから。



そんな美しい空間と、おふたりの表情を見ながら僕の中でも込み上げてくるものがあった。

「パーティーが終わるまでは」

そう自分に言い聞かせ、グッと堪える。

そして、僕は声にもならない声で

「おめでとうございます」

そんな想いを込めて祝福の拍手を送った。

キャプテンという

『誰よりも、ふたりに近い場所から』



こうして、パーティーは無事に結んだ。

会場を出たところ、
お見送り口のところで新郎と目が合う。


目を真っ赤にした新郎が優しい表情で近づき、
何も言わず。何かを噛み締めるように。
右手を差し出してきた。

2人で固い握手を交わした。


その瞬間、僕の中でも堪えていた気持ちが
止めどなく溢れ出してきた。
まるで小さな子どもみたいに。
ストッパーを外して。顔をくしゃくしゃして。

今でもあの時の温かな手の温もりを
鮮明に思い出すことができる。

そう。いつもこんな感じだった。

彼は多くを語らず、必要な時に
そっと優しく支え、守ってくれた人。
根拠もないのに『お前なら大丈夫』と
信じてくれて。大きな愛で包んでくれる人。


これまで彼と過ごしてきた長い時間が
あの時の、一瞬の握手で全て蘇ってきて、
堪えることができなかった。

ああ。この人に出会える人生で良かった。
この人のこと。一生かけて大切にしよう。

何故だか、あの時。本気でそう思った。


僕の中でも、また特別な結婚式が増えた。

永遠なんてこの世にきっと、ないのだろうけど。
これからもふたりと、できる限り長く。
一緒に居させてほしい。

そして、この先で、
ふたりにどうか沢山の幸せが訪れますように。

心からそう願うばかりだ。

本当にありがとうございました。



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結婚式とは人の『想い』を体現し届ける場所。

もしかしたら、
そこには高価で煌びやかなもの
何も必要ないのかもしれない。

作り込まれたハコも。可愛いアイテムも。
音楽も。料理も。サービスも。

そんなものなくても、
そもそも結婚式の中にある『人の想い』は
美しくて、愛おしくて、尊い。

だからこそ僕たちは、
そんな優しい『想いのカケラ』を
溢さないように、一つずつ丁寧に拾い集めて。
そこにプロフェッショナルのチカラで
ちょっとだけスパイスを加えて
誰かの心の奥に届けなくちゃいけない。

これが僕たちの仕事なんだ。

改めてそう思うことができた。

また一つ。
ふたりの結婚式から価値あるものを手にした。
そして僕は、次の新郎新婦様のもとへと進んでいく。



ありがとう、おふたり。

ありがとう、結婚式。

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