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「リラックスと集中」の不思議 “放松与专注”的玄机 

  ユタ州の中国語新聞でのリンヤンコラム、7回目の連載。
  日本語に訳して(一水空講師の長友美菜子さんが)、ここで載せます。

  「書道は一種の運動です。心も体も喜ばせるものはすべて運動です。」張浩波先生はある書画講座の時にこういう話をしました。また、張先生はこう言いました:「健康はリラックス且つ集中から生まれた状態です。例えば、寝るという行為は、リラックスはできますが、集中できるとは言えません。リラックスし、集中した状態はいい成績を出すことができます。書道とはこのような状態のことを言います。」
  
 リラックスした状態というのは、生まれつきできるものではなく、トレーニングを通してできるようになります。からだのリラックスと精神の集中は、どちらも長い時間の反復トレーニングが必要です。書道を通して精神状態を鍛える、これが書道の意味の一つです。
  
 「一水空」ではこのようなトレーニングをします:
 まず「形(かたち)」を磨き上げることでリラックスした状態を手に入れます。それから、深呼吸と形を組み合わせることで、緊張をほぐします。これらをしっかりトレーニングした後で、さらに一水空の形における「意味」と「動き」を組み合わせていきます。身・心・気(息)の三つの動きを同時に行う、これが身体のリラックスと精神の集中のトレーニングになります。身体と心の間を、呼吸を以って調和させていきます。

 ある武術の編集者は私にこう聞かせたことがあります:「武術のトレーニングは『禅』の境界に似たようなものです。どうしたら雑念を無くすことができるのか?考えてみてください。全身を動かし、自分の動き、考え、呼吸、ひとつひとつに意識を集中させます。そうすれば、自然にほかのことを考える余裕がなくなりますね。」
 張浩波先生教室での書道入門をもう一度見返してみました。本コラムの第一期は「書道は立つことから始まる」(形)でした。次は、呼吸、筆の動きと呼吸の融合。そのあとは、意識集中のトレーニングです。
 これは、一水空の3つのステップと完全に一致しています!

 現代の脳科学研究が発見したアルファ波は、「リラックスと集中」の状態のときに発せられる脳電波です。アルファ波が多ければ多いほど、直感がより鋭くなり、新しいアイディアやインスピレーションが湧いてきやすくなるのです。仕事と勉強の効率も高くなります。アスリートが試合で一番いい成績が出せる時は、多くはこの状態です。この状態をつくるトレーニングの方法は、現代のエリートたちが必死に追い求めている魔法の宝のようです。

 わたしは、手に持っているシンプルな筆こそが素晴らしいものだと考えます。筆の柄は、緑の細い竹で作られており、筆の毛は鳥や獣の毛で作られています。この二つの部分は動物と植物の融合です。また、筆の柄の強さと筆の毛の柔らかさの完璧な融合とも言えます。
 筆の毛と宣紙(書画用の上質紙)が接触する瞬間、あらゆる種類の微妙で無限の変化が起こります。少し気が散ることで、震えてしまいます。これにより、すべてが台無しになってしまいます。これによって、気を散らさず集中せざるを得ません!

 書を書く時、ひとつの字から一枚の紙へ、運筆していきます。これはまさにリラックスと集中の連続ではありませんか。
 西洋の油絵用の絵筆と違い、毛筆は塗りなおすことができません。これは一期一会の芸術なのです。中国書画の道具と芸術の特性を通して、自然と「リラックスと集中」の力を養うのです。
 千百年来、文人や志士たちは筆で名を後世に残すような銘文の作品を残しています。現在わたしたちが同じ筆を手に持ています。その時代の字を書き磨くことは、古代の人たちと時代を超えて交流しているのと同じではないでしょうか。これは華人がもつ特権です。海外に身を置く華人として、こんなに優れたものを利用しないのはもったいないですよね!
 みなさん、筆を持ってください。さあ、「リラックスと集中」の不思議の世界へようこそ!


               2023年4月 林陽写于盐湖城


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