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【盲腸との闘いⅡ】橋渡り

午前9時50分、私は右下腹部痛を抱えながらGoogleマップで「消化器内科」と検索して一番距離の近い診療所へと向かっていた。「徒歩8分」、シルバーカー推すおばあちゃんと並ぶ歩行スピードの私は恐らく15分はかかるだろう。

この日は下水道か何かの工事中だったため、道端にアーチ状の橋が架けられていた。普段ならルンルンで渡るであろう橋も今日に限っては地獄の橋渡りだ。ドドドドドドドッとドリルの音と共に、私の腹部に振動が伝わってくる。特に下り坂は前かがみの体勢を維持するのが難しい。腹痛と闘いながら渡る私の横を背筋ピンっなおじいちゃんが追い抜きスタスタと行ってしまった。うん、健康って大事。年を取ることへの恐怖はなかったが、自分の体が思い通り動かなくなることへの恐怖を初めて感じた。

そんなこんなで、しっかり15分かけて辿り着いた診療所。待合室の椅子にはまだ誰も座っていなかった。なんせ朝一番に予約したのだから。問診票には痛みの箇所、程度、症状が出始めた日時を詳細に記載した。前の配属が医療現場だったお陰か、診療に必要な情報はインプットされている。こんなときに役に立つとは。こんなときにしか役立たないか。

問診票を書き終えると、すぐ自分の名前が呼ばれた。診察室ではなく、尿検査だった。採尿が終わり待合室でしばらく待っていると、院内スピーカーで私の名前が呼ばれた。診察室へ入ると、感じの良さそうな女医さんにすぐさまベッドに横にさせられ、問診と触診が始まった。腹部のあらゆる個所をムニュっと押される。ちなみに、この効果音は私のお腹の脂肪のせい。

「ここ痛みますか?」
『痛くないです。』

「ここは?」
『痛いっ!!!!』

続いてエコー検査。肝臓、胆のう、腸と順番にエコーの先のプローブを私のお腹にグリグリ押し付け、隈なくチェックしてもらった。明らかな所見はないけど、痛みの箇所からすると恐らく盲腸だろう、と女医さん。緊急性は高くなさそうとの判断で、今日は血液検査をして明日午前また受診するよう言われた。明日の担当の先生が消化器の専門医らしい。

採血は苦手な方である。アルコール消毒は毎回かぶれるし、針が自分の血管に刺さる瞬間も見れない。他人のは散々見てきたくせにだ。いつものように目線を逸らし、グッと我慢した。
診断がはっきりせず、非常にモヤモヤっとするが検査結果が出ない限り仕方がない。薬だけ処方してもらいこの日は帰宅した、15分かけて。

つづく……

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