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「不思議な話」アンティーク・ジュエリーのプライド

アンティークジュエリーショップオーナーに頼まれて、数ヶ月間 アルバイトをしていた時のお話しです。

ショップは、九州一の繁華街にある6階建ての建物の1階にありました。

1階は、若い人をターゲットにしたカフェや、お花屋さん、雑貨屋さんなどが入っており、アンティークジュエリーショップだけが、ちょっと雰囲気が重いというか浮いている感じでした。

そのショップで働いていたのは、60代の女性のパートさんが 1人 週に3日、8年ほど勤められているベテランパートさんと、オーナー夫妻、奥様はたまにショップに顔を出すぐらいで、もう1人いたパートさんがお辞めになたらしく、オーナー夫妻がアメリカに商品の買い付けに行くという事で臨時でアルバイトを頼まれたのでした。

アンティークジュエリーという高価で特殊な商品ですので、飛ぶようには売れず
暇な時間も多く、商品の勉強したり宝飾品の歴史や宝石やパワーストーンと呼ばれる半貴石の勉強したりと、とても楽しかったです。

ショップに入ったばかりの頃、ガラスケースに綺麗に並べられている独特な魅力を放つ宝飾品たちは、数十年前、数百年前に作られた貴重な物ばかり、かつては誰かの物だったものです。

誰とどんな人生を共に歩み どんな別れをしてきたのか…

現在の新品の宝石もそうですが、人間より遥かに永い年月 地球に存在しつづけている石たち。
そんなことを考えながら眺めていると、先輩パートさんが教えてくれました。

昔の貴金属アクセサリーは、金の含有量が少ない物もあり、10金や14金という硬い金なので綺麗な細かい細工が残っているということです。

今の金製品は18金や24金は柔らかいため、アンティークと呼ばれるようになる前にはデザインが削れたり 古いとかで溶かされて違うモノに変わってしまうだろうと話されていました。

レジの横にある、ガラスのショーケースの下に、お客様には見えない所に古い文箱が置いてありました。

開けると中にも沢山の宝飾品が入っています。

よく見ると小さな袋に商品と一緒に個人名の書かれた紙も入っています。

先輩パートさんに聞くと、その箱に入っている商品は、お店独自の分割払いで、取り置きされているお客様のものなんだと教えてくれました。

商品は1点モノなので売れたら終わりです。

どうしても欲しい!高い…でもローンが通らない、そんな人もいて、毎月1万円とか3千円とか支払いに来られては、いつか自分の物になるアクセサリーに会いに来店されるお客様達のモノでした。

ある時、その取り置き箱のすみに名前の紙が入っていない緑色石の指輪を見つけました。

先輩に聞くと、私の肩をポンっと叩いて「この指輪も取り置きなんだけどね、多分、売れない。」と言って、その指輪について話をしてくれました。

「この大きな透明感のある綺麗な緑色の石は翡翠(ヒスイ)という石で、翡翠の中でも最高級の翡翠だけが呼ばれるロウカンという特別な翡翠で、今の時代滅多に出てこない。この翡翠は人を魅了する、今までに何人もの人が欲しいと言っては 手持ちのお金がないから取り置きにしてください。と言って帰る。しばらくして、やっぱり買えないと言ってキャンセルになったり、何度か買われても、様々な事情でキャンセルになり戻ってくるの。今も取り置き中だけどキャンセルになると思うわよ。」

そして、その通り指輪はキャンセルになり、ガラスのショーケースに戻されました。

私は、透明度の高いキラッキラした石が好きなので、当時、まだ若かった私には翡翠という地味に見える石には魅力を感じませんでした。

それからすぐです、1人の女性がお店に入って来られて、ゆるーり店内の商品を見ています。
何かお探し物でもございますか?と聞くと、特に無いと言って、ガラスケースの中の翡翠を指さして「これ。見せて。」というのです。
私は心の中で「来た!」と思いながら取り出してお客様の前に置きました。

50代後半位のその女性は顔の表情1つ変えず「カード使える?」と言ってきました。

手続きは先輩がしてくれたのですが、カードは上限に達しているとかで 結局使えず、そのお客様も買うことが出来なかったのです。

お店の取り置きシステムは、直ぐに自分の物にならないのなら いらないとのことでした。

先輩のパートさんは言っていました。

あの翡翠の指輪はね、次に主人になる人を選んでいるんだよ。と。

中古品という中置半端な時を超える事が出来た物だけが到達できる 
アンティークという価値をまとった宝物

人は、自分が欲しいから、物を買っていると思っているけれど、本当は物に選ばれているのかもしれません。

選ばれしモノ

40代になった頃、大好きな父方の祖母が亡くなりました。

若い頃の祖母の指には いつも翡翠の指輪がありました。
母が、祖母に「この石は翡翠のロウカンというのですよね、珍しいですよね」と話していた記憶があります。
凄く大事そうにしていた思い出があります。
祖母が亡くなり親戚、祖母の姉妹達が形見分けと言って祖母の宝飾品を探し回っていました。

親戚がどんなに探しても出てこない翡翠の指輪

数日後、祖母の部屋に入ると色々物色されたのでしょう、部屋は多少荒れていました。

少し悲しくて、タンスの扉を開くと宝石箱が空の状態で沢山転がっています。
私は、1つ2つ手に取り蓋を閉めて綺麗に並べて行きました。

一番手前でひっくり返っている箱を持ち上げるとコロンと翡翠の指輪が転がって来たのです。

みんなが探してもどこにもないと言っていた翡翠の指輪
父に「これ、あったよ。」と、言って差し出すと驚いていましたが、「持っていなさい。」といって私が受け継ぐ事になりました。

私でいいの?
心の中で翡翠とおばぁちゃんに言って
受け取りました。
いまだ着ける機会もなく、たまに出して眺めながめています。
キラッキラじゃないけどなんか好きかも

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