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情報化社会の萌芽(#40 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

情報化社会の萌芽・事務の機械化

川崎は、京浜工業地帯を中心に、2次産業の町として昭和2,30年代を迎え、海苔に代表される1次産業は、地域の開発のために廃業し、消滅して行きます。しかしさらに昭和40年代には、3次産業への転換が静かに進んで行きました。
その辺りを伺わせるものはそれほど多くないのですが、それを端的に示す内容が、昭和41年1月25日の「事務の機械化すすむ」です。

元々政策ニュース映画は、行政側の視点で自らの問題提起と施策を広報する意図のもので、議会の開催や知事の動静などを扱う、内輪ネタが多くありますが、特にこの回のものは、市役所の業務の機械化を報ずるもので、役所の室内しか出てきません。
地域の変化や時代性などを見るという観点では、全く面白くはありませんが、役所の内部を見ることが出来ることや、ユーザ側からみた電算機の導入事例が見られるという点は、貴重な映像です。

川崎市では事務の能率をあげるために、その機械化を進めていますが、昨年暮れから電子計算機が採用されました。

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当時のオフィスの機械化、いわゆるOAにまつわるテーマです。おそらく、事務の自動化、オフィスオートメーション、OAは既に死語でしょう。舞台が市役所なのでオフィスという用語は使われていないようです。

コンピュータの技術革新は、素子によって大きく世代分けされています。今使われているコンピュータは半導体素子を使った第4世代と呼ばれるものですが、この半導体を用いたコンピュータが、商用として登場するのが、1964年の「IBM System 360」からです。

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おりしも日本では、東京オリンピックの集計にこの半導体を使ったコンピュータが使われたそうですが、種目によっては、コンピュータの集計を委員が信じなくて、手作業でやり直したという記録も残っています。
丁度その頃の記録と言うことになります。

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このニュース映画は、オリンピックの2年後になりますが、「昨年暮れから電子計算機が採用され」と言われていますので、昭和40年(1965)年まさに、オリンピックの翌年のことになります。

コンピュータの黎明期には、黒船コンピュータと呼ばれていたIBMに対抗すべく様々な日の丸コンピュータが試行錯誤され開発されていました。メーカ側ではなく、ユーザ側の記録として、これは貴重なものですし、他の地域の政策ニュースにも見られません。 

旧市庁舎の中の「電子計算室」という部屋が映ります。入口は喫茶店のような素通しのガラスで、セキュアなどはまだ意識されてはいない時代です。
事務机の上に端末が置かれ、女性の職員が15名ほど、伝票をめくりながらカードへの入力を行っています。

これは水道料金の計算ですが、検視員によって調べられた水道の使用量がカードに打たれていきます。穴の開けられたカードは選別され、さらに読み取り装置によってテープに記憶されていきます。

昭和58年の科学技術白書に以下のような記述があります。

事務処理においては,19世紀末よりパンチカードシステム(PCS)が用いられており,1950年頃より米国でこの分野にもコンピュータが使用され始めた。第2世代コンピュータの登場により,パンチカードシステムで行われていた各種の業務のコンピュータへの置き換えが始まった。昭和30年代に入り我が国は,この種のコンピュータを輸入するとともに国産機の開発を進め昭和36年以降,高度成長期下で急速に普及した。

第二世代コンピュータとは、トランジスタベースのものを指します。前述のように、東京オリンピックを契機に、半導体を用いたものに置き換わっていきます。

白書はさらに、

昭和40年頃には,第3世代のコンピュータが登場した一方,マークカードによる入力が台頭し,プロッター,ディスプレイによる表示が利用され始めた。コンピュータの稼動に対する信頼性が向上し,オンライン・リアルタイム・システムも実用化された。

と続きます。企業だけではなく、官庁のこうした変化への姿を示すのがこの映像です。

カード読み取り装置や磁気テープ装置、光速度印刷装置なども映りますが、機種名も書いてあります。F-663A、F-641Aなどと書いてありますので、FACOM系のようです。

富士通のWebに当時のコンピュータの記録が残っています。

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FACOM230-10(1965年)
「当初5年間余で富士通の電子計算機では初めて1,000台を超えて導入され、国産ベストセラー機種となりました」

時代的にみても、ほぼこれと同機種が使われているようです。

ナレーションでは、以下のように続きます。

この計算機によって、従来の人の手によるものに比べて、1/7の手間で処理することができ、正確さなどは格段の差があります。水道料金、税金、国民健康保険なども処理されることになり、事務の能率が進み、市民サービスの向上が果たされることになります。

この後、コンピュータは半導体技術の登場と進歩によって、急激に機能が向上していき、こうしたパンチカードやテープなどは使われなくなっていきます。こうした技術面に加えて、事務機器ということで、女性職員が操作をしていたというユーザ側の状況もよくわかります。
情報化社会への移行直前の姿として、産業民俗学的にも興味深い映像です。



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