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せっかち法務、意見書スタイルに物申す

本記事は、法務系Advent Calendar 2023 ( #legalAC )16日目のエントリーです。妖精さん(キングトロール)からバトンをいただきました(妖精さんさんの方が良かったでしょうか)。
法務の採用って悩みも深いけれど、学びもまた深いのですよね。同じく採用活動に励む身として、共感しながら記事を拝読しました。


こんにちは、はじめまして、Miyaです。EC事業を運営するIT企業の法務部でマネージャーを務めながら、兼副業で法務以外のお仕事をやっています。
昨年の裏 法務系 Advent Calendar 2022#裏legalAC )で兼副業の話を書いたので、今回は本業の法務部マネージャーの立場で、企業法務系の弁護士の先生方へ向け、日頃の感謝とラブをしたためます。



「先生のメール、長すぎて、何をおっしゃりたいかわかりません」

今年、法務人生ではじめて、弁護士の先生にこんなことを言ってしまった。こんなこと、自分が弁護士に言うなんて思わなかった。言ったあと自分が消耗し、しばし落ち込んだ。

社内の法務部員レベルでは解決できない問題にぶち当たり、社外の頼れる先生方に助けを求めた。実務的なトラブルシューティングも並行、社内では関係部署や経営層に正確で迅速な説明を求められ、あっちからもこっちからもpushされ、ひとりで緊張状態に晒され続けていた。

そんな状態で、希望納期より一拍遅れ、先生から回答のメールが届いた。
"いつもお世話になっております。結論を述べた上で全体について解説します。まず、XXXという箇所について、次にYYYという箇所については〜〜〜です。それぞれについて、あのケースもあればこのケースもあり、関連する法律とガイドラインにはこのような記述があり(長々引用)〜〜〜を主張できる可能性がございます。他方、〜〜〜と解釈されることもあれば〜〜〜解釈されないことも予想され、前者の場合は〜〜〜〜のリスクが高まるものと思料いたします。例えば、過去の〜〜の件において〜〜〜との判例もございます。以上、ご検討ください。"

先生、長いよ。結局今わたしは何をすればいいのか。
GO or NO GOも濁され、「自分で考えて」と突き放されたのではという悲観的な気持ちにすらなり、この後やらなければならない長い道のりを見据え、当たりがつけられずに天を仰いだ。
そして、これが先の発言につながる。マッドミヤ 怒りのデス・ロード。先生、あのときはごめんなさい。アンガーマネジメントできませんでした。

先生方にいただく法律意見書(のようなフォーマットで書かれた文章、これを「意見書スタイル」という)は、その内容や局面においては大変価値のあるものだ。そのフォーマットは、社外の権威ある弁護士からいただいた見解であることを、社内やその先に示すための、大事なもの。
これまでの法務経験でそれほど機会はなかったけれど、いただいたときは毎度襟を正した。法曹らしい、品位と様式美に溢れているとも思った。

でも、さらに、ごめんなさい。わたし、正直そんなのいらないんです。


「意見書スタイル」がもたらす弊害

社外の弁護士の見解を社内の非法務部門へ翻訳・変換して伝える仕事は、社内にいる法務部員のバリューを出すところで、法務部門としての大事な機能でもある。サボるつもりは毛頭ないし、自分の得意とするところでもある。

だけど……意見書スタイルで先生の見解をいただいたときほど、翻訳・変換に工数がかかるのです。持って回った言い回し(文語)を自分やチームで読み解いた上で、現代人がわかる直接的な話し言葉(口語)に書き換え、必要に応じてさらに平易な表現(幼児語)に書き換え、法務部門は社内の関係部署や、その先の顧客や取引先と、コミュニケーションをとる必要があるのです。
そして、先生方にご意見を伺うからには、先生方の検討に時間を使っていただきたいと法務部員は考えて動いています。社内で猶予期間として与えられたスケジュールの大半は、先生方にボールをお渡しした期間に消費されます。
ご想像いただけるでしょうか。社内に戻ってきた先生方の見解を、法務部員が翻訳・変換するための時間は、実はそれほど残されてはいません。

場合によっては、先生たちが検討してくださっている時間より、この翻訳・変換に時間がかかることもあります。
そんなことを想像してお返事をいただけたら、もう少しわたしたちの関係には、明るい未来が待っていそうです(何目線)。


(ついでに言うけど、メールの文化はなくならないのか)

ビジネスメッセンジャー・チャットツールが普及した令和、メールのコミュニケーションは、ちょっと呑気だなと感じてしまうことがあります。

噛み砕くと、先生がいつどれぐらい本件の検討時間に使われ、どれほどの時間をかけてメールを書いてくださっているか、見えないことを不安に思うのです。他の大事なクライアントや案件があって、希望納期はお伝えするにせよ、結果的にわたしは後回しにされているかもしれない。「Miyaさんもさすがに退勤してる時間だよね〜ビジネスマナー的に明日の朝送ろう」ってメールを送信予約して、飲みに行っているかもしれない。
この状況、焦っているときほど不安になります。「今書いてるよ」「もうちょっと時間欲しいかも」…そんなカジュアルな連絡で構いません。進捗だけでも教えてくださったらと、思うことは少なくありません。

メールではなく、メッセンジャー・チャットツールをビジネスにフル活用している先生や事務所も増えてきていると感じます。同僚にチャットする感覚で質問を投げると、すぐにスタンプ・絵文字が入力される、お返事を入力してくださる。そんなquickな反応をくださる安心感と、メールのコミュニケーションを比較してしまうことがあるのは、正直にお伝えしたいところです。


先生のアドバイスの価値は、フォーマットではなく中身です

企業の法務部員として、法律専門家たる外部の弁護士の先生方にたくさんたくさん、本当にたくさんお世話になっています。様々な専門領域や強みをお持ちで、経験豊富で、わたしたちの大きな悩みも小さな悩みも広い心で受け止めてくださって、尊敬の念しかありません。

そのことをご理解いただいた上で、先生方に質問を投げかけたいのです。
お仕事を終えて、事務所を出て(あるいは自宅/外出先でPCの電源を落とし)、「職業:弁護士」ではなく、1人の人間に戻った瞬間。意見書スタイルで、周りの方とコミュニケーションをとられますか?
家族や知人友人やパートナーとのLINEで「思料します」って書かれますか?

日々、わたしたち悩める法務部員のため、たくさん調べ、考え、的確なアドバイスをくださることを、心から嬉しく、頼りに思っています。
けれど、意見書スタイルを企業側が求めない限り、アドバイスは端的にテキストに落とし、言葉を選ばずに率直にお伝えいただけると、一介のせっかち法務としてはありがたいです。
そして、言葉を選ばずに率直にお伝えいただける関係を、企業法務と社外弁護士の間でしっかり築けたら、それは何よりも嬉しいことだなと思っています。それは飲み会やSNSの繋がりなどではなく、できればお互いにリスペクトし合える、仕事のやりとりを通じて。
おあとがよろしいようで。


Advent Calendarもそろそろ後半戦。明日はtomoさんの記事をお楽しみください。Happy Holidays!

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