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Amazonがラグジュアリー参入。成功するのか?

今年の初めにAmazonがラグジュアリーに進出するみたいな記事が出ていたのでへーと思っていたら、先日サイトがオープンしたそうです。
さて、このラグジュアリーストアは成功するでしょうか?


第1弾として「オスカー デ ラ レンタ(Oscar de la Renta)」をフィーチャー。現在は米国内で招待されたプライムメンバーのみ、アマゾンのモバイルアプリで利用可能となっている。
Luxury Storesは参加ブランドが直接販売できるプラットフォームで、価格や商品ラインナップ、配送オプションなどはブランドが独自に決定できる。利用者向けには商品を360度から確認できる機能を搭載し、CNBCやVogueの報道によると自身の体型や肌の色を選択して視覚化することもできるという。

Fashionsnapの記事によるとブランドは「オスカー デ ラ レンタ」??? 初めて聞いたブランド。ただ日本ではあまり知られていなくても海外ではメジャーなブランドはたくさんある。私が知らないだけなのか。いや、でもGucciやLouis Vuittonでないことは確かだ。

商品の360度ビューや肌の色や体型に合わせて視覚化できるようです。これは面白そうですね。売りつながるかは別問題ですが、こういう挑戦はぜひ大手が率先して失敗を重ねて発展させて欲しい。と思っているので事業者目線としては超ウェルカムです。

現在のラグジュアリーEC市場

ラグジュアリーECの市場はFarfetchのようにまだ急成長しているプレイヤーがいるような市場であり、かつラグジュアリーブランド自身もECは模索しているような状況でサイトはわざとか思わせるぐらい使いにくく超イケてない(やらせてくれないかな)。まだ成長余力は十分にあると思われる市場だと思う。しかしそう簡単ではなさそうだ。

サプライヤー(ブランド)が相当力を持っている

なぜ簡単ではないのでしょうか?
ラグジュアリーECのプラットフォームビジネスはポーターの「5フォース」(わかんない人はググってね)の中でも「競合」、「サプライヤー」、「買い手」が相当力を持っており、プラットフォームならではの特色を発揮できないのではないか?と思っている。したがってAmazonにとってはそれほど旨みのある市場ではなさそうな気もします。

まず「競合」。FarfetchやMr Porterなど結構大きなプラットフォーマーがすでにおり、彼らはプラダ、グッチなどラグジュアリーのスターも取り込んできている。ちなみにCHANELはFarfetchの株主だ。ユーザーはECの中に欲しいブランドが無ければ買い物ができないので、この世界的に有名なブランドを取り込んできている競合に打ち勝つのは相当な営業力が必要になるだろう。

次に「サプライヤー」。Amazonの第一優先はこのブランドのプラットフォームの参加であるはずなので、これがもっとも障壁が高く、また、自分たちが今までサプライヤーをコントロールしてきたやり方から全く逆の立場となる。Fashionsnapの記事中にもあるとおり、ある程度ブランドが独自に決めれることを条件にしているようなことからもうかがえる。

Farfetchなどのプラットフォーマーは実際にECを見てみるとラグジュアリーブランドに販売価格面でも価格を崩さないように相当協調しているようにも見える。ブランドが一番嫌がることは価格が崩れることによるブランドイメージの崩壊だ。価格でブランドコントロールをしているような特にラグジュアリーブランドのマーケティング戦略は特殊だ。(このラグジュアリーの戦略がAmazonにとってなぜダメなのか?は後述します)

ラグジュアリーは逆張りのマーケティング戦略

少しラグジュアリーブランドの戦略について触れると彼らは全て逆張りのマーケティングを行う。まずは価格。一般的に価格は最初に高い値段をつける。売れなければ安くしてゆく。ラグジュアリーは反対でどんどん価格を吊り上げて行く。

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(ブルータス1999.5月号より)なんとバーキンは約3000ユーロ!今は3倍以上になっています。

製品(product)は、原価を上げてゆく。さらに良いものを作ってゆく。これも反対。普通は売れると廉価版を出して儲ける。
プロモーションはどうか?一般的に製品ができれば広告を行う。しかしラグジュアリーは製品の広告をほとんどしない。販促も行わない。ほとんどがPRだ。マスを上手く使い、今ではSNSを巧みに操る。
場所はどうか?都心の一等地の一番高い場所に出店を行い店舗での体験や世界観も合わせて提供する。また世界的にメーカーはD2Cに向かっており、インターネットが発達することによって自社でコントロールできる販路のみで販売ができるようになって来ているのも、Amazonにとっては逆風なのかもしれない。(Farfetchは最近オフホワイトの親会社を買収した)ラグジュアリーブランドはなぜこのような逆張りの戦略をするのか?全ては枯渇感を顧客に抱かせるためだ。物量や価格で買えないことが彼らの憧れを作り、さらに価格を押し上げてゆくことになる。エルメス、LVなどのスーパーラグジュアリーはこれらを全てコントロールしている。王者が王者たる所以である。(ブランドの逆張り戦略はまた機会があれば書きます)

現代の消費はユーザー中心

最後にユーザーである「買い手」。今や一部のラグジュアリーブランドECはFarfetchだけではない。世界中で買うことができる。アプリひとつでクロスボーダーでいろいろな国から買えてしまうので、ユーザーはあらゆる国やECサイトから自分で選んで買うことができ選択権は消費者(しかも世界中)に移ってきている。日本では古くから並行輸入で消費者に提供してきたが、並行輸入自体は今後クロスボーダーのプラットフォーマーやブランドD2Cにより無くなってゆくだろうと思っています。

Amazonが勝てるなら?だけど.....。

Amazonが仮にこのレースで勝てるとしたら、成功要因は2つしかない。
一つは価格をFarfetchのような競合に比べて徹底的に下げること。もう一つは他のプラットフォームに参加していないLV、エルメスのようなスーパーラグジュアリーがこのプラットフォームに参加することだろう。しかしこの二つは相当ハードルが高いでしょう。

Amazonの得意としているテクノロジーとロジスティックでカスタマーセントリックな顧客体験を築いているとしたとしても、ラグジュアリーはそれだけでは通用しないのだ。例えば今日注文したものが必ずしも明日届く必要は無い。プラットフォームECで購入することはブランドで購入するときの体験に比べて顧客体験を超えるものを作ることが難しいだろう。

Amazonが成功しなさそうなもっと大きな理由

Amazonのビジョンにもっとも大きな理由がある。

Our vision is to be earth’s most customer-centric company; to build a place where people can come to find and discover anything they might want to buy online.
地球上で最もお客様を大切にする企業であること、お客様がオンラインで求めるあらゆるものを探して発掘し、出来る限り低価格でご提供するよう努めること。

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有名なベゾスナプキン(https://www.amazon.jobs/jp/landing_pages/about-amazonより引用)

要するに「たくさんの商品を安く販売する」ことがAmazonのビジョンなのでこれはラグジュアリーブランドの大切にしていることと全く逆。仮にAmazonがラグジュアリーを取り込むためにラグジュアリーのやりたいようにさせればされるほど、このAmazonのビジョンを否定することになり、Amazonは非常にビジョンを大切にしている会社なので、企業が大切にしている哲学を曲げてしまって上手くいくことは非常に難しいのでは無いか?とうことだ。

これらの理由からAmazonがラグジュアリーECを成功させるためには彼らとその顧客を研究して体験とは?を再定義する必要があるかもしれない。いずれにしてもこういったチャレンジは流石だな。と思うし、もっといろいろ実験を通して市場が形成されてゆくので、Amazonだけでなく人の関与度が高く精神性の高い製品を売ってゆく事業者は注目しておくべきだと思う。

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