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ほっけさん
ほっけさんがいつの間にやら高級魚になってしまっていた。気付いたのは今年のはじめくらいだろうか。
ほっけが食べたいほっけが食べたいと、ほっけ経をしつこく唱える夫のため、ほっけを買い求めようとスーパーへ出向き気付いたのだ。
思えば、魚嫌いだった子供の頃の私にとって、唯一いや、塩鮭と合わせ唯二、美味しいなと思えるお魚だったほっけさん。
スーパーへ行けばいつでも会える、一匹98円ほどを支払えば自分のものにさえできるそんな心根の優しいほっけさんのことを、私はどこか心の奥底で見下していたのかもしれない。
立派な縞ほっけは一匹798円くらいするのだ。普通のほっけは一匹268円くらいするのだ。こんな日が来るとわかっていたら、もっともっとほっけさんを大事にしておけばよかった。
「ほっけください。三匹ください。」
対面販売の塩干コーナーで、あられもない姿に開かれ、ずら~っと並べられたほっけさんを前に思いきってそう声を出す。少しでも、大きなほっけを選んでもらえるよう、ちょっと媚びた笑みとか浮かべながら。
私の奸計などすでにお見通しか、いかにも百戦錬磨な売場の女性は、私の視線の向く先を推し量り「このへんでいいですかね」と面倒くさそうに言うと、ほっけさんを手袋をした手でわしわし掴む。わしわし掴まれ袋に入れられ、ぺたんと値札シールを貼られたほっけさんをありがたく押しいただいた私は、そのまましずしずとレジへと向かい代金をお支払いしたのだった。
その夜、夫がとてもうれしそうにわほわほ言いながらほっけを食べたのは言うまでもない。
と同時にその笑顔に私がこの上ない幸せを感じた、などということも決してない。
関係ないけど、わるだくみのことを 奸計とか姦計とか、女の専売特許みたいに言うのってなんかひどいですよね。
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