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花屋の店主と話していたら、知らぬ間に心が軽くなった話。

2023年10月

イベントの仕事の準備でバタバタとし、心身の疲れが溜まっていた10月末のある日。上司から花束を買うというお使いを頼まれた。
正直に言えば、お使いに行く時間の余裕も心の余裕も無かったが、断る訳にもいかず、「分かりました!!」と会社を飛び出した。
飛び出したのは良いものの、誰が誰に渡す花束なのか分からない。
花屋に着いて注文をし、「どなたに渡すものですか?」と聞かれて、あれ?
誰に送る花束だっけ?とクエスチョンが浮かんだ。会社を飛び出す前にせめて何用の花束なのか上司に確認すれば良かった…と後悔しつつ、「上司が上司に渡す花束」というよく分からない注文を出す。すると、「誰に渡すとか強いこだわりがあるとかえって(私が後々に)めんどくさいですから、分からないぐらいで良いんですよ」とまさかのフォローをしてくれた。花屋さんは誰に送る花束なのかもよく分からないまま、何かテーマを決めたようにささっと花を選んでいく。お使いでたまたま入った花屋は、お客と話をしながら花束を作る花屋だった。

その花屋(Y店)には看板のように目立つものがなく、うっかり見過ごしてしましそうな、こじんまりとしたお店だった。お店の奥に店主が1人いて、奥の棚にはリボンや包装紙が店主の手の届きやすいところに置かれていた。私自身、花屋で花を買うという経験があまりないのだが、花屋さんにここまで話しかけられるというイメージは全くなかった。Y店の店主は作業の手を止めることなく、次から次に話題を振ってくる。ときどき質問が飛んでくるが、こちらが1のことを話すと10のことが返ってくるため、無理に話さなくてもよい会話が心地良かった。

例えば、こんな話をしてくれた。
花屋には自分のために花を買う人も多いらしく、Y店では看護師やIT系の仕事をしているお客が多いらしい。仕事が忙しくてストレスを抱えたお客さんが、心を癒すために花を買っていることを聞いて、小説に出てくる話のようだなぁと感じる。それぞれ悩みを抱えた人が、様々な理由でY店で花を買っていく。店主はいつもお喋りで…というようなあらすじだろうか。私自身も恐らくやつれた顔で1000円札を握りしめてお店に来たから、○○系の会社の人が来た、と思われたのかもしれない。様々な背景を持つ人が訪れる花屋という場所がとても面白いし、花を「自分のために買う」という発想が新しいと感じる。

何分間店主と話をしていたのだろうか、誰に渡すかも分からない花束は真っ赤な花がまとまって、少し高級感のある美しい花束になっていた。Y店の店主の人柄が出ているようなセンスの良い花束を抱え、少し軽くなった心で会社に戻った。(結局は退職をされる方に向けた、送別用の花束でした)

人は、苦しいと思ったときに何かやさしさや親切さに触れると、「良くしてもらった」という思い出がずっと残る。そのときの偶然の出会いやもらった言葉で、今後の人生が変わることもあるのかもしれない。Y店の店主のようにはなれないかもしれないが、仕事や日常の会話、noteのような書き物を通じて、人に良い影響を与えられるような人になれたらバンザイだ。






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