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兼題:ルビあり俳句(noteルビ機能追加記念) 夏井Rxの妄想一句一遊・金曜日

【はじめに】
この記事では、夏井いつき組長が愛媛のラジオ局・南海放送で20年以上続けている俳句帯番組『夏井いつきの一句一遊』をnoteパロディした企画である『夏井Rxの妄想一句一遊』をお送りしていきます。

0.オープニング

夏井Rx「note俳句部のRx組組長・夏井Rxです。」

家藤Rx「アシスタントの家藤Rxです。」

今週の兼題は、テーマ「ルビあり俳句」です。どうしてこのテーマになったかというと、先日(2021/9/16)、noteに「ルビ機能」が追加されたから!

早速、この機能を活かした名句を紹介したい! ということで、このテーマにしました。それでは、まずは、福岡は北九州から参加、2回目で才能アリ&金曜日登場です、吉本実憂よしもとみゆ】の1句から!

①『台本のラストの「……むごん」春の宵』吉本実憂よしもとみゆ

作者は、最初「……」の部分を『てんてん』と詠ませていましたが、(本家=夏井いつき先生の方)が直して『むごん』と詠ませました。

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役者さんならではですよね、「台本」という言葉にリアリティを持たせる事がうまく出来ています。そして「台本のラストの」と繋いで注目させといて「……むごん」と来る訳です。これは、1時間ドラマの最後の「次回予告」に注目させるのと一緒の手法ですよね、構成の仕方が見事でした。

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最後の季語の「春の宵」というのも、台本を読んで練習をしている時と詠んでも良いですし、宵の時間までドラマの撮影が長引いて、ようやくラストのシーンの「無言」を演じる所まで来た感慨と読むことも出来ます。こういう風に詠み手に想像させる余白というのも、皆さん見習って下さいね?

《 Rx親父の能書き(テーマ解説) 》

それではここで、Rx親父の「能書き(テーマ解説)」をお聞き下さい。

ルビ(英語: ruby)とは、文章内の任意の文字に対しふりがなや説明、異なる読み方といった役割の文字をより小さな文字で、通常縦書きの際は文字の右側に、横書きの際は文字の上側に記されるもの(byウィキペディア)の事を指します。

はい、そのイメージがあります。さっきの「むごん」もそうでしたね。

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19世紀後半(日本でいう明治時代)のイギリスでは、活字の大きさを宝石の名前で呼ぶ習わしがあり、そのうち、5.5ポイント活字のことを「ルビー」と呼び、通常使われていた10.5ポイントの約半分の大きさということもあり、活字に振る物の代名詞的に「ルビ」と呼ばれる様になったとされます。

ルビの語源は宝石のルビーやったんや! へぇー 偶然かと思ってたわ。

ルビの振り方には大きく2種類あり、漫画雑誌等に良く見られる「総ルビ」と、新聞や一般書籍に多く見られる一部にだけ振る「パラルビ」があって、「note」を含めた「俳句」でもパラルビが一般でしょう。

低学年の教科書とかも「総ルビ」かもしれんな。普通はパラやけど。

ただ、俳句を作る上で注意すべき点としては、「ルビ」を振ってもらえない媒体もありうるため、「ルビ」に頼り過ぎてしまうと、ルビが無い場合には全く読者に伝わらない句になってしまう恐れがあることです。基本的には、「ルビ」は決め球程度に使うのが良いでしょう。

ほんまですねぇ。今回は「ルビ」という決め球で、三振を狙ってくる様な、そんな作品を金曜日に残してありますので、一緒に見ていきましょうね。

まずは東京出身「ルビ俳句」党を名乗っております、【風間直得】の1句。

②『手ずれな正月ハルは遍路が笠を肱によせ松』風間直得

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この子、上流(カミ)、自動車(オト)、飛行機(バクオン)とか、色々なルビを振った句を作ってくれてるんですが、この句は「正月」を「ハル」と詠ませることに対することによる、「伝統」の打破と調和を感じましたね。

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振り返れば、古く上代日本語の時代には、「義訓」といって、「金風」を『あきかぜ』って読んだりしていましたからね、今のライトノベルとか歌詞に見られる技法ってのは千五百年ぐらい前から日本にあった訳ですよねww

中村草田男さんが「日本語そのものの破壊のわざ」だなんて酷評してたらしいですけど、効果的に使えれば、21世紀に復興する世界線あるかもですよ?

そして、この方も「ルビ俳句」党を名乗って投句してきました、河東碧梧桐さん。

◯『いよよ孤独ヒトリソラ吹かる木守の柿ぞ』河東碧梧桐

秋っぽい句って事で、これ選んでみましたけど、どうでしょうね。うーん。むしろ私は「ルビ俳句」党って名乗っていない、最初の句が好きでしたよ。愛媛県から参加【河東碧梧桐】の1句。

③『上京かみぎょうや友禅洗ふ春の水』河東碧梧桐かわひがしへきごとう

これは「ルビ」を振る意味がちゃんとあるでしょう? 普通に出されたら、「上京じょうきょう」って大半の人が読むと思うんです。でも後半まで読んだら「京都」の話題で、「かみぎょう」と読むのが中七で分かります。

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ただ、作者が偉いのは、最初にちゃんとルビを振って「上京かみぎょう」と置くことで、場面設定をしっかりと読者と共有している点です。こういうのが効果的な俳句のルビの振り方じゃあないかと思いますね。

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ちゃんと手堅い俳句が作れる実力があるからこそ「#自由律俳句」が冴えてくるんです。定型俳句もちゃんと作れない人間が、簡単に自由律を作れるほど、あちらの世界も甘くないと私は思います。

続いてこちらも良い句ですねぇー。「オリーブの会」主宰、山形県出身の【浦川聡子】ちゃんの1句です。

④『トランペットの一音シャープして芽吹く』浦川聡子

この人は、国立大学の教育学部音楽科を卒業して、音楽教科書専門の出版社に就職した経歴もあるんですけど、「アマチュアオーケストラ(弦楽器)」に所属してんですよね。だから「音楽×俳句」の感覚が素晴らしいんです!

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記号一つだけ「♯」と示されたら、ハッシュタグ? 井桁(いげた)? とか悩みますけど、この文脈で「♯」と出されたら、まずシャープと読めますね。それでいて、カタカナでシャープと書かずに、音楽記号を用いるあたりが、本当に短い文芸での『決め球』を良くご存知だと思います。

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句の内容も本当に良いじゃないですか。「シャープ」自体が半音上げる意味のある音楽記号なのに、そこに「芽吹く」という春の季語でダメ押しをしてちゃんと季語が主役になっている。このバランス感覚も流石です。

もう一つ言えば、「トランペット」も「シャープ」も、撥音、促音、長音なんかを畳み掛けて、音読しても心地よいし、リズム感ありますよね。こんな句を、演奏するように詠んでみたいものです。

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続いて東京からの参加、この方は俳号にもルビが欲しい所ですね。中島斌雄の1句。ちなみに本名には「文」がない、「武雄」さんなんだそうですよ。

⑤『子へ買ふ焼栗マロン夜寒は夜の女らも』中島斌雄なかじまたけお

戦後10年、1955年に発表された句集からです。「焼栗」に“マロン”とルビが振られていることから『パリ!』と叫んでしまいましたが、時代背景を思うと、「夜の女」というのはそういった職業の方々かも知れませんね。

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この句は「焼栗」の句というより、秋の寒さ「夜寒」を詠んだ句でしょう。熱い「焼栗」と対比される寒さの濃淡が非常に凝らされている作品でした。

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外来の表現といえば、例えば「勘違いエピソード」の記事のコメント欄で、【西野圭果】さんが「西洋李(プラム)」について語っておられましたが、

やっぱり西洋の呼び名だったり西洋の食べ物を俳句に“自然に”詠み込むのはかなりハードルが高いと見て良いでしょうね。もちろん、「ラ・フランス」みたく西洋の呼び方でも歳時記に収録されている季語もありますが、中島氏の句も「焼栗」を主たる季語としていないですから。

「俳句にやってはいけないことはない」ですが、ハードルが高いということは覚えておいて損はないと思います。でも、こういう句は「ルビ」を振れた方が面白くて奥行きが出ますよね。

続いては、更に思い切って意図をもっての作品です。能村登四郎さんの息子さんですよね、千葉から参加、「沖」の【能村研三】の1句です。

⑥『海神ネプチューン彫琢ちょうたくの作栄螺さざえ置く』能村研三

「海神」と書けば、日本神話で『わだつみ』と読むのが一般的だと思うのですが、この句は大胆にも「ネプチューン」と詠ませています。

ここまで思い切りが良いと、芸術というか文芸として成立してくると思います。言葉が呼応してくるっていうんですかね。

中七の彫琢ちょうたくは、

ちょう‐たく〔テウ‐〕【彫×琢】(出典:デジタル大辞泉)
1 宝石などを、加工研磨すること。
2 詩文などを練り上げること。

とありまして、まあ「完成度が高い」ぐらいに理解すれば、十分鑑賞できると思います。私は「彫像」かなと詠みました。

そして、季語は「栄螺さざえ」です。春の季語になっている巻き貝ですよね。それに動詞の「置く」と着地したことで、句全体を引き締まったものにすることが出来ていると思います。

そして、梅沢富美男・永世名人の句から、私(夏井いつき先生)が「ルビ」を振った句を2句ご紹介しましょう。まずは芸能の「業界用語」です。福島から参加【梅沢富美男】の作品です。

⑦『義士の日の看板まねきや白く降る夜空』梅沢富美男

舞台などの「招き看板」を『映像』として確保することで、恐らく演目が「忠臣蔵」であろう冬の光景を描きます。

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伝統芸能に詳しくない人間は「看板」とあったら『かんばん』としか読めませんし、その言葉を知っていても漢字では読めないし、平仮名だとちょっと締まりません。そういう時に、漢字を示して「ルビ」を振るという手法が、最大限の効果を発揮すると思います。

もう1句は、名人六段から七段へ昇格を果たした作品。こちらは北国(?)の方言が読み込まれています。

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⑧『魚市場いさばのかっちゃスカーフはあけび色』梅沢富美男

梅沢のおっちゃんは、平仮名で書いて、最後に「あけびの色」としていましたが、私(夏井いつき先生)は、漢字で書いてルビを振る方が良いと思いました。「の」も無くて良いでしょう。

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厳密に言えば、「あけび」という季語は色の名前なので『無季』の句なんでしょうが、そこは大した問題でないと思います。秋から冬にかけての魚市場の光景がありありと見えてきますし、地味ですが「かっちゃ」という3音が非常に勢いをもたらしています。

全国どこの魚市場を詠んだ光景かは、すぐには分かりませんが、思い思いの光景を想像しつつ、想像のヒントとして「方言」のルビが活きてくるんだと思いました。

ここまで、結構それでも穏やかな「ルビ」をご紹介してきましたが、今週の「天」は、大正時代に巷の度肝を抜いた作品です。

福岡県京都郡みやこぐんの【竹下しづの女】の句に「天」を差し上げます。

(天)『短夜やぜり泣く子を須可捨焉乎すてつちまをか』竹下しづのじょ

高浜虚子『ホトトギス』の大正九年八月号の巻頭句にも選ばれたこの句は、極めてインパクトのある字面がまず目に飛び込み、更にそこからその内容も極めて辛辣なものだと認識する「二段階」での衝撃を受ける作品です。

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「短夜」は夏の季語。ただ昼間の時間が長いだけでなく、夏の「熱帯夜」の様な気怠さ、蒸暑さも感じ取れる言葉です。そこに「ぜり泣く児」を登場させてから、唐突に漢字5文字が並びます。しかも、通常の日本語でなく、漢文でしか見かけないような文体です。『須可捨焉乎』

これに作者は「すてっちまおか(新仮名表記)」というルビを振るのです。でも、きっと熱帯夜にこうした赤子を持つ親御さんに「共感」を得た上に、男性にも「女性・母親の辛さ」を感じ取ることが出来たからこそ、100年を経た現代でも歳時記にも載るような作品として残ったのだと思います。

きっと「平仮名」混じりだったら、高浜虚子も巻頭句に選ばなかったでしょうし、まして現代まで伝わっていないと思います。『須可捨焉乎』という漢語表現で、一瞬カモフラージュしつつ、近寄ってきた物を捉えてしまう様な獰猛さを孕んだ表現の躍動感は初めてこの句に触れた人の心を離しません。

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そして、子供の頃にもし自分の子がこの句を目にしても、瞬時には理解できません。ある程度、勉強を積んで、日本語をしっかりと理解出来る程度まで心身共に成長した所で初めてこの句の意味を理解でき、「親が自分を育ててくれる大変さ」を追体験できるのだと思うのです。

noteでも、育児体験を記す方、育児の俳句を描かれる方が沢山いらっしゃいますが、大正あるいはそれ以前から、母親の苦労や葛藤、愛しさを様々な形で表現してきた「俳句」という文芸を、『ルビ』と『漢字』の力をもって、現代(令和)の皆さんにも届けられていたら幸いです。

【おわりに】

皆さんもぜひ新設された「ルビ」機能を活用した作品を作ってみて下さい。私のコメント欄で、記事や句を紹介して頂いても結構ですよー

今、募集中の兼題は「#白杯」です。皆さんの投句をお待ちしております。

◯投句する俳句は「秋っぽい」俳句でよろしくね。(季語がなくてもOKよ。季重なりも気にしない!)

そして、私(夏井Rx)の俳句の記事はこちらからどうぞ(↓)

そして、私の記事に先駆けまして(?) 宇宙かっちーさんが、ルビ機能を使った「自薦句紹介」の記事を披露されていますので、合わせてお楽しみ頂ければと思います!(↓)

もちろん俳句以外にも、こんな遊び心満載の使い方も出来ますので、皆さんで「note」の機能をフル活用して下さいね!


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