いろんな色の「プレバト!!」俳句たち ~俳句deパレット~
【はじめに】
この記事では、“俳句パレット”と題しまして、「いろんな色」(重複表現)を含んだ「プレバト!!」俳句を紹介していきます。
今回の記事を書くキッカケになったのは、夏井いつき俳句チャンネルで、2021年11月4日に公開された「11月の正岡子規」です。
( 参考にした Wikipedia のリンク )
・日本の色の一覧
・色名一覧
ちなみに、俳句とも共通項のある記事として、「新しい『季節の区分』案」の記事も合わせてご紹介しておきます。四季を6色で表しています~(↓)
☆新しい「季節の区分」案(その2) ~「四季」を「6色」にしてみた~
◎春の色
俳句歳時記には、「季節+色」系統の言葉が季語として掲載されています。
ただし、この季語の「色」という漢字は「色(color)」というより「景色」などという時の「色」を本来は意味しているので注意が必要です。
・青白緑茶それぞれ春の色/峯村リエ'
「春色のリップ」などという使い方よりも、春らしい風景/景色のイメージで使うのが本意(本来の意味)なのは、俳句初級者トラップあるあるです。
◎桃色/ピンク
まずは春らしい「桃色」から参りましょう。3月3日の「桃の節句」の食卓にのぼる『雛あられ』を、梅沢名人はこう詠みました。
・桃色の先になくなる雛あられ/梅沢富美男
西洋の言い方での「ピンク色」というと、少し印象が変わって、ビビッドなイメージを持ちます。時には「ドギツい色」に捉えられることさえも?
・福袋蛍光ピンク笑い初め/松本穂香&唐田えりか
それに対して、同じ春の植物に由来する色でも、「桜色」といえば、非常に癒やし効果を感じられそうな柔らかい印象になります。
・朝桜ゆふべの雨に色そへん/立川志らく'
◎赤色/紅色
季節が冬から春へ向かう頃、濃い赤色で印象的なのがその名も「赤本」。
・赤本で蓋す春夜のカップ麺/岩永徹也
・手擦の赤本空港の冬夕焼/小倉優子'
人工物のみならず、植物も濃い赤色を示すものが春には幾つもあります。
・鏡冴ゆ初日の衿の紅椿/浅野ゆう子
・戦陣のごとし白梅追い紅梅/武井壮'
・紅梅や1km10秒縮めた朝/東国原英夫
そして、赤く色づく「紅葉」は、童謡にも歌われる光景です。
・紅葉燃ゆ石見銀山処刑場/東国原英夫
しかし、世界の国旗などで「赤」といえば「血」を表す様に、人間には赤色と関係が多くあります。これも東国原名人の句です。
・秋夕焼赤黒き一〇〇〇グラムの吾子/東国原英夫
不安げな句ばかりではありません。梅沢さん初挑戦85点の句がこちらです。
・頬紅き少女の髪に六つの花/梅沢富美男
「六つの花」は「雪」の雅名。赤と白の対比が美しい作品ですね。そして町はいよいよ、サンタクロースの印象も強いクリスマスとなりました。
・新宿や口紅赤くイブの宵/安藤和津'
・口紅を赤く聖夜の長距離バス/村上健志'
赤ちゃんと呼ばれていた娘は、少女を経て、大人の女性となり、「口紅」を引く、そんな成長を俳句の赤色が際立たせているかのようです。
◎橙/オレンジ色
今回の記事を書くキッカケになったのが、夏井いつき俳句チャンネルで公開された「11月の正岡子規」という動画です。
この中では、正岡子規の句として、
・冬ざれの厨に赤き蕪かな/正岡子規
・しぐるるやいつまで赤き烏瓜/正岡子規
の2句が紹介されていましたが、どちらも「真っ赤」というより、少し色味は「朱色」や「オレンジ」に近いものです。
オレンジ色の人工物の象徴的なものといえば、「東京タワー」でしょうか。
・オレンジ色の東京タワー雪温し/秋吉久美子'
もちろん、オレンジ/橙色は、果物もそうですし、「夕焼け/夕暮れ」の色という印象も強く、どことなく郷愁や寂しさを覚えそうです。
・暮れてゆく秋の飴色セロテープ/梅沢富美男
・雀色時を列車や芒散る/梅沢富美男'
・校門の「さよなら」は秋夕焼色/中田喜子'
◎黄色
オレンジ掛かった黄色から、レモンの様な鮮やかな黄色のものまで「卵黄」にも様々な色があります。生命の凝縮された濃い色味です。
・長き夜や黄身ゆるやかに殻を離る/筒井真理子'
そして、秋といえば、紅葉の赤色や夕暮れ時のオレンジ色のみならず、この「銀杏」の「黄落」も、秋の象徴的な色ではないでしょうか。
・雨後の夕暮れ黄落の香の甘し/ホラン千秋'
・黄落やひかりに傾ぐピルエット/村上健志'
・銀杏黄葉踏み付け今日の土俵入り/嘉風雅継'
◎金色
「プレバト!!」の俳句タイトル戦が「金秋戦」である様に、金色と秋も非常に相性が良いです。『黄金色』の秋の光景を描いた梅沢名人の作品です。
・黄金なす陽の香背に負う稲架一重/梅沢富美男
ちなみに、金色と近い色に「茶色」がありますね。また、成立過程は違いますが、「セピア色」なんてのも。郷愁だったりの秋思とも親しい色です。
◎秋の色、秋色
こうして見ると、「秋」で連想する色も案外たくさんあるのだと感じます。
季語の「秋の色/秋色」は、「秋光」とも言いまして、春と同じく、「風光/景色」などの意味で使われます。そのため、
・試し書きに密と書かれし秋の色
→ 試し書きに密と文具店の秋よ/千原ジュニア'
秋の景色ではなく、「秋の色(color)」に着目して使った句に、夏井先生は評価を低く出していました。最近の用例では、「color」として使うものも増えてきている様ですが、成り立ちに関する理解は必要かと思います。
・色褪せた写真のわたし雪の街/羽田圭介
◎緑色
そういえば「茶色」と言いますが、日本では「緑茶」が主流ですよね。茶畑も基本的には緑色。今度は、半年遡って、緑色系統を見ていきましょう。
「芽吹き」を迎える春、そして百花繚乱の花盛りを過ぎると、一気に初夏に向けて季節が動き出します。若葉の頃を「新緑」という季語で表します。
・鎌倉の新緑すくう柄杓かな/髙田万由子'
また、スーパールーキー村上さんが、最速で9段に上り詰めたのがこの句。
・扇川また見失い緑さす/村上健志
そして、黄緑色から緑色の深みが増してくると、俳人・中村草田男が昭和に発表した『万緑の中や吾子の歯生え初むる』に端を発する季語「万緑」の季節がやってきます。
春風亭昇吉さんのこの作品も、登場2回目にして75点を獲得、スピード昇進を果たしました。
・万緑に提げて遺品の紙袋/春風亭昇吉
ちなみに、先程まで秋になると色づく植物についてお話ししてきましたが、秋・冬になっても「色を変えない」ことも季語となっています。『色変えぬ松』なんていう日本語、ご存知ですか?
・色変えぬ松高座に遺す扇子一本/三遊亭円楽'
・色変えぬ松や渋沢栄一像/立川志らく
そうして、緑色が極まると、万緑の山々は青み掛かって見えてくることも。自然の摂理でいえば、銅は錆びて「緑青」となることも、一つの句材です。
・緑青のカラン石けんネット揺れて夏/梅沢富美男
緑から青となると、少し夏が本格化してくる様なそんな感じがしてきます。
◎青色
冒頭の記事でお示ししている通り、中国の陰陽五行説では、「青」と「東」と「春」が当てられています。「青春」などという言葉がありますが、元はここから来ています。
・青空の青ときめいて夏めいて/朝日奈央'
・驀進の棋士は少年青嵐/岩永徹也'
・青く濃きさつきの空を行く大魚/千賀健永'
そして「青葉」「青い山」などと言う様に、緑色のことを古く「青」と呼ぶ習わしも日本には根付いてきました。
・登山列車近づく空はラムネ色/宮田俊哉
そうです。理由がちゃんとは分かりませんが、晴れた空は「空色」と呼ばれる青色です。
・五月晴れだから空色ワンピース/藤田弓子'
・更衣シャツにあえかな空の色/立川志らく'
また、空との境界がわからなくなる時もあるであろう「海」はまさに青色。
・サングラス外して対す海の青/横尾渉'
夏の前半において、空や海だけでなく、視界全体が青っぽくなることもあります。俳句でも『おくのほそ道』などの昔から描かれてきた、五月雨/梅雨の時期は、街中みなが青みがかります。人のみならず動物達にもその色が。
・子の傘に透ける窓あり青蛙/梅沢富美男'
雨の季節が過ぎると、まさに夏が始まります。現代の子どもたちは、夏休みにどんな楽しいことが待っているのでしょう!
・ベル鳴りて立つ七色の夏帽子/ミッツ・マングローブ
しかし、今の平和があるのは、「青春」を賭すこととなった先人たちの若人の存在を忘れてはなりません。特待生昇格前の北山さんの傑作です。
・原爆忌あいつと青く飛んだ日々/北山宏光'
原爆忌は秋の季語ですが、少し季節が進むと、「真っ青」が漲る季節が色を変えていきます。「蒼」という漢字で青色を表現することもあります。
・秋澄むや蒼き肺ふのありどころ/梅沢富美男
そして、天高き秋の空を経て、真冬の厳しく寒々しい空。その凛とした空気を再現するかの様な傑作が「プレバト!!」の冬で披露されてきました。
・賽銭の音や初鳩青空へ/鈴木光'
・冬青空吉のみくじにある余白/石田明'
・絵の具欲し冬晴れのこの青が欲し/岩永徹也'
最後に、一年中、青い山肌(山麓)を示す「富士山」を詠んだ永世名人の句を3句ご紹介しましょう。同じ富士山ですが、季節が異なります。
・初富士や北斎のプルシャンブルー/東国原英夫
・御降りの洗いて清し富士青し/梅沢富美男
・空のあお富士の蒼へと飛花落花/梅沢富美男
◎紫色
先ほども登場した「蒼色」は、少し“くすんだ”生気のない青色のことだと、夏井先生は仰っていました。
・鯉幟さいのかわらの空蒼し/東国原英夫'
・雷鳴を吸いうねり立つ蒼き海/千賀健永'
・蒼すぎる空秋風のうしろ髪/ミッツ・マングローブ'
蒼色が赤みを帯びてくると、絵の具でもそうですよね「紫色」となります。しかし、絵の具の様な濃い色彩ばかりではありません。梅沢名人は、こんな風に「紫色」の情景を掴んでいました。
・白髪をうすむらさきに春立ちぬ/梅沢富美男'
・魚市場のかっちゃスカーフはあけび色/梅沢富美男'
どちらも比較的高齢の女性の光景かと思いますが、思い浮かべる紫色に多少の色彩の違いが見えてきませんか? 日本語の紫には奥深い物があります。
ちなみに、「赤色」でもご紹介した「11月の正岡子規」では、
・黒きまで紫深き葡萄かな/正岡子規
という作品が紹介されています。「葡萄」の一物仕立てとしては、色を描写しているだけのはずなのに、圧倒的な精度を誇っていますよねー。
そして、青色でもお話ししましたが、「梅雨」の青色を象徴する存在として俳句に限らず愛されるのが「紫陽花」でしょう。その名にも紫があります。
・紫陽花の蒼きよ雨にはぜる蒼/梅沢富美男'
・土砂降りのシャッター通り濃紫陽花/山口真由
・紫陽花は雪国の青バスを待つ/森公美子'
◎銀色
色彩あるものばかりが「色」ではありません。黄色の項で「金色」を紹介しましたが、ここでは「銀色」の特待生の添削後の句をご紹介します。
・新緑の背骨と化せりリフトの銀/石田明'
・銀色の廃墟星月夜のチムニー/千賀健永'
・春光や朝のケトルの銀の艶/森口瑤子'
◎黒色
デジタルに「黒」と言ってしまえば、「000000」のカラーが配されるもののことを指しますが、俳句の世界における「黒」は、多少の不純物を含む所にドラマを感じさせる奥行きを持っている気がします。例えば日常会話でも、
・黒板のI can do it風光る/秋野暢子'
黒板と言いつつ実際には「深緑板」ですよね? みたいな感じです。しかしこの句の瑞々しさは、番組初期の作品ですが強く心に刻まれていますね。
黒の中に緑が含まれるというのは、人工物の「黒板」のみならずです。
・買い食いを叱られて来し末黒野よ/東国原英夫'
「末黒野」は春の季語で、「野焼きの跡:焼け野原」のことで、焼けた植物や焼いた後に生えてきた新芽などの緑を含んでいる気がしませんか?
そんな奥行きを意図的に描いた千賀さんの予選1位通過句がこちら。冒頭に「黒」という情報が与えられ、最後にかけて素晴らしい展開を見せます。
・黒き地の正体は海揚花火/千賀健永
そして真逆の季節、冬に「白と黒」を連想させる作品をご紹介しましょう。
・冬の風硫黄ほのめく黒たまご/小手伸也'
・「黒鍵のエチュード」秋の夜を挑む/篠田麻里子'
・黒革の匂い雪の滑走路/千賀健永
温泉卵も、ピアノの鍵盤も、黒革・雪も、「黒」と句に詠むだけで「白」の存在が示唆され、際立つのです。
新年最初の歌舞伎などの舞台を指す「初芝居」と、こんな黒を取り合わせたのは、梅沢名人ならでは観点かも知れません。古い言葉に「墨に五彩あり」なんていうものもあります。
・札止めの墨色ぞ濃き初芝居/梅沢富美男'
墨色もそうですが、無彩色にも濃淡で多くの色の名前が付いています。季節が進んで夜空が春の星座となっても、まだ海の荒れは冬の名残があります。
・鈍色の漁船よ青き春北斗/千賀健永
◎白色
そして、何色にも染まっていない「白色」は、色彩豊かな俗社会において、際立つ存在として俳句に描かれることが多い印象。
・白シャツの白はこの白退院す/千原ジュニア'
・真っ白な手縫い雑巾チューリップ/河合郁人'
またそんなシャツの白色と呼応する様な、白を含んだ季語との取り合わせ。
・白南風に揺れ干すシャツにバニラの香/向井慧'
フォーマルな場に着る場合もありますしオシャレとしての印象もあります。
・ジェラシーを折ってたたんで白日傘/森口瑤子
・白靴の老女冷ゆ生鮮売場/ミッツ・マングローブ
・帰国の日アガシの白靴の悲し/梅沢富美男'
女性にまつわる「白」をこのように描いた作品群もあります。大人ですねぇ
・白桔梗勧める首筋にキス痕/東国原英夫'
・玻璃越しの稲妻湯に白き乳房/筒井真理子'
さて、人工物に戻りますと、工程で色を施さないケースもありましょう。
・冴返るA.I.棋士の白い腕/岩永徹也'
そして、真白いデフォルトの状態のものに、手を加えていく用途のものも。
・まだ白い明日が並ぶ初日記/村上健志
そんな人間も、冬の自然の中で吐く呼気には、自ずと白が混じります。
・息白し熱いココアとミシガン湖/厚切りジェイソン
「水色の中の白」の存在感は、水彩画でも自然界でも特筆すべきものです。
・滝壺へ向かい白龍まっしぐら/藤本敏史'
・白雲を吸い込み放つ大瀑布/藤本敏史
最後に。梅沢名人による人工物と自然物の中間の「白」を2句ご紹介。
・しんしんと仏の白き息あおぐ/梅沢富美男
・義士の日の看板や白く降る夜空/梅沢富美男'
・漢字ドリルに白秋の我が名記す/梅沢富美男'
◎透明
そして、梅沢永世名人が「白秋」という季語を使いましたが、これも先程来さんざん語っている「陰陽五行説」に由来する言葉。「青春」の対義語的な立ち位置の熟語です。
秋の風には色がないと形容されてきた数千年の歴史と、現代を取り合わせた句をここでご紹介します。「透明/無色」すら一種の色かも知れません。
・色なき風やボーカロイドのラブソング/岩永徹也'
※ その他の色
他にも、造語的に他の色を作り上げることは、俳句においても可能です。
例えば、偶然にも「プレバト!!」の夏の俳句で、こんなレパートリーがありましたので、纏めてご紹介します。
・南国の果実色してハンディファン/梅沢富美男'
・アメリカの歯磨き粉色した浮き輪/藤本敏史
・氷菓ぎっしりアンディウォーホルの色彩/北山宏光'
特定の「何色」と限定せず、原色がかったビビッドな色を漠然と連想させるという手法も、場合によっては効果的でしょう。
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