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東日本大震災(3.11)後の緊急地震速報

【はじめに】
この記事では、ウィキペディアの記載をベースに、東日本大震災(3.11)の後の「緊急地震速報」について纏めることで、東日本大震災から得た教訓を振り返っていきたいと思います。

(×)東日本大震災での緊急地震速報

2011年3月11日に発生した「東北地方太平洋沖地震(以降、東日本大震災)」では、運用後初めて遭った巨大地震に対する、緊急地震速報の課題が幾つか判明しました。その最たるものが以下の点です。

ウィキペディア「緊急地震速報」
2011年に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の本震では一般向け緊急地震速報は東北地方のみに発表されたが、茨城県北部で震度5弱と予測した第14報が更新条件だった「初期検知から60秒」よりも後であったためで、震度5弱以上の強い揺れを観測した青森県、関東地方、甲信越地方には一般向け緊急地震速報は発表されなかった。

一般向けの「緊急地震速報」が、
主要動が到達する前に緊急地震速報を発表できた点は良かったですが、
東北5県以外には発表されなかった 点は、被害を拡大した一因でした。

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NHKは東北5県のみの緊急地震速報を、首都圏が強震に襲われるなか報道。また、民放のメディアの視聴者には正しく伝わらないケースもありました。(例えば、ニッポン放送は『緊急地震速報は未だ発表されていませんが』とアナウンスする中、強い揺れが襲いました。)

(→)「60秒制限」の撤廃

巨大地震となると、断層の破壊が終わるまでに60秒以上掛かることもある。

P35「1.5 緊急地震速報(警報)発表の時間制限の対策」(2012/10/01)
現在、緊急地震速報(警報)の発表・更新は、地震波検知から 60 秒後まで行うこととして運用している。今後、この制限を撤廃し、Mに応じて設定された緊急地震速報処理の継続時間内すべてについて、緊急地震速報(警報)の発表・更新を行うことを検討している。

(×)東日本大震災後の予測精度の低下

そして、東日本大震災からしばらく、「緊急地震速報」の予測精度が著しく低下したことを覚えていらっしゃる方も多いかと思います。

どこまでを「的中」とするか、集計期間をどの範囲とするかによって、値は多少変わりますが、良く引用されるのが、こちらのグラフや数値でしょう。

出典:「政府 地震調査研究推進本部」

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ウィキペディア「緊急地震速報」> 発表状況 > 予測精度
2009年度までは大きな震度を観測した地震の回数も少なくスコアも7割を超えていたが、2011年度末期3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震後は余震も相次いで発生し、ほぼ同時に発生した複数の地震をひとつの大きな地震と処理したためスコアは下がった。

(1)2011/03/11 17:40 地震から72.5秒後に「緊急地震速報」発表。主要動が到達して1分近く経ってからの発表にメディア困惑。

(2)2011/03/12 04:31 長野県北部M5.9、茨城県沖M4.0の地震が同時。
・第2報(10.0秒後):千葉県東方沖でM8.0 と大きく誤計算
・第3報(10.2秒後):栃木県南部、深さ120kmでM6.9 として警報発表

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(3)2011/03/15 05:34 岐阜県飛騨地方のM1.3の無感地震を、M6.3(最大震度5弱~5強)と過大評価。

(4)2011/03/15 07:29 福島県浜通りM4.3の地震を、第1報(14.5秒後)に秋田県沖 M7.6(最大震度5強~6強)として警報発表。その0.6秒後の第2報以降は、福島県・最大震度3程度と的確な判定。

など、誤発表地域に大きな混乱をもたらす様な「大外し」が頻発し、気象庁が“45事例中15例については、概ね適切に発表できておりますので、”という文書を発表するほどの精度低下を招く事態となりました。

これについて、個人的には、「1秒待てば、瞬間的な誤報を防げた」事例や「強震モニタなどを目視すれば、誤報だと分かる」事例が多いな、感じていたにも関わらず、改善に一定の時間が掛かったことが印象に残っています。

(→)システム改修による精度向上

ウィキペディア「東北地方太平洋沖地震」  > 緊急地震速報
また本震後に、緊急地震速報が過大に予測されたり、強い地震でも発表されないなど、適切に発表できなくなる問題が発生した。
気象庁は原因として、異なる場所でほぼ同時に発生した複数の地震を1つの地震として処理してしまうため、また停電や通信回線の途絶によりデータ処理に使用できる地震計の数が減少したためとしている。
この問題に対し気象庁は、ほぼ同時に起きた地震のうち緊急地震速報(警報)の発表対象としていない小規模の地震を計算の対象から外すことにより、2つの地震を誤って結び付ける頻度を減らすシステム改修を行った。

2011年8月10日に報道発表された「緊急地震速報の改善について」では、

1.改修する内容
複数の地震データを1つの地震と誤認識した事例を分析すると、小規模の地震が同時に発生している場合が多いことが判明しています。
今回の改修は、緊急地震速報(警報)の発表対象としていない小規模の地震を計算の対象から外すことによって、2 つの地震を誤って結びつける頻度を減らし、改善を図るものです。

と書かれています。実際、H24年度は8割弱まで“的中率”は改善しました。とはいえ、
・2012/01/12 福島沖   M5.9  茨城北部M1.3
・2012/05/14 千葉北東部 M3.7  福島中通M1.4
・2012/06/24 宮城中部  M3.3  福島浜通M1.8
など、微小地震が同時刻に起きていたケースでの誤差の大きな速報が出されたケースがゼロになった訳ではありません。例えば、レアケースとして、

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2018/01/05
・11:02:22.9 富山県西部 M4.0 最大震度3
・11:02:25.5 茨城県沖  M4.5 最大震度3
→ (警報)11:02:46.4 茨城県沖 M6.4 最大震度5強程度

と、2.6秒差で「最大震度3」を観測する小規模な地震が全く異なる2地点で発生したケースでは、どちらの地震も計算対象から除外するほどの小ささでは無かったため、計算に大きなズレが生じたりもしました。

それでも、東日本大震災直後の教訓を受けて、1段階程度の誤差を除けば、的中率8割前後にまで回復している訳ですから、一時期の過大評価の頻発もシステム改修の貴重な事例となったと捉えることとしましょう。

(+)2010年代後半に導入された2つの予測手法

ここで再び「政府 地震調査研究推進本部」の記事のリンクを張ります。

まだ導入に至る前の段階の記事ですが、比較的平易にどういう手法かが説明されています。

1.IPF法(2016/12/14~)

~ほぼ同時に複数の地震が発生した場合における精度の向上~

IPF法は、ほぼ同時に発生した複数の地震を1つの地震として処理したために、正しい震源位置及び規模が求められず、過大な震度を予測するという課題を解決するための新しい震源決定手法です。
IPF法では、観測データの各情報を統合的に処理する方法を採用しています。 これにより、複数の地震の発生タイミングが偶然重なったとしても、それらを高い確度で識別できるようになりました。
また、従来別々に用いられていたデータや手法を統合的に用いることで、より安定して精度の良い震源を推定できるようになりました。
 これにより、たとえ地震の識別が完全にはできなかったとしても、大きく離れた位置に震源を推定してしまうことが少なくなりました。

複数の地震をしっかり「区別」することや、震源位置を大きく見誤る(2つの地震の丁度中間を取ってしまう等)を回避できるようになれば、震災直後に頻発した「大外し」を防ぐことが期待できます。

2.PLUM法(2018/03/22~)

気象庁ホームページ「PLUM法の特徴」
PLUM法は、巨大地震が発生した際でも精度良く震度が求められる新しい予想手法であり、震源や規模の推定は行わず、地震計で観測された揺れの強さから直接震度を予想します。

「予想地点の付近の地震計で強い揺れが観測されたら、その予想地点でも同じように強く揺れる」という考えに従った予想手法であり、予想してから揺れがくるまでの時間的猶予は短時間となりますが、広い震源域を持つ巨大地震であっても精度良く震度を予想することができます。

東日本大震災の時は、当初M7クラスの前半、一般向け速報に反映されなかった最終報でもM8前後という予測だったため、Mw9.0の超巨大地震による揺れの広がりを十分に予想することは出来ませんでした。

言い換えると、「揺れのデータ」→「震源を特定」→「各地の震度を予測」するという従来の手法は「震源(規模や位置)」を見誤ると、震度の予測もつられて誤差が大きくなってしまいます。

それをどうやって解消するかといえば、「震源や規模を敢えて特定せず、」『実際に観測された強い揺れ』の実測データから強い揺れの範囲の広がりを捉えていく手法なのです。

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この手法を用いることで、巨大地震で数分かけて破壊された断層と、それに伴って生じた地震波を「面」で捉えることが出来ます。その結果、僅かな時間で全容を把握しづらい巨大地震でも、従来に比べて範囲の誤差を小さくすることが可能となったのです。

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現在(2021年)の緊急地震速報は、「従来の手法」と「PLUM法」の2パターンで震度を予測して、発表漏れとなる地域が少しでも減らせるよう『震度予測の大きい方』を採用しているそうです。
これを気象庁はカッコよく『ハイブリッド』と表現していたりもします。

(事例)「続報」が成功したケース

・2008/06/14 6強 岩手・宮城内陸地震
・2016/04/16 7  熊本地震(Mj7.3)
・2018/09/06 7  北海道胆振東部地震
・2019/06/18 6強 山形県沖地震
・2021/02/13 6強 福島県沖

「続報」が成功したケースとしては、上記の事例が浮かびます。いずれも、最大震度6強~7という激烈な揺れが襲い、多くで被害が出ました。

特にPLUM法が運用(2018年~)されてからの事例は、「続報」がテレビ等の緊急地震速報でも表現されたこともあり、この「続報」の効果が印象づけられたものと思います。(これはタイミングがあれば別途記事にします。)

【おわりに】

ここまで「緊急地震速報」について、主に「東日本大震災」以降の変更点を中心に見てきました。新たな発見はありましたでしょうか。

「東日本大震災」後の改善点に関する知識を深め、実際速報に遭遇した時に少しでも適切な対応を取れるよう心掛けていきましょう。それがきっと3.11から教訓を得ることに繋がると信じて。

それではまた次の記事でお会いしましょう、Rxでした、ではまたっ!

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