見出し画像

昔、気象庁がやってた「生活季節観測」について調べてみた

【はじめに】
この記事では、昭和の時代に気象庁が行っていた「生活季節観測」について調べながら、現代にも活かせる部分を探っていきたいと思います。

2021年11月24日放送のテレビ朝日系列「グッドモーニング」内「(依田司さんの)お天気検定」コーナーで、『生活季節観測』の問題が出されたことなどにより、僅か1日で2,000以上のビューをいただきました。ありがとうございます!

1.「生活季節観測」って?

そもそも「生活季節観測」とは何なのでしょうか。日本語版ウィキペディアの説明を入り口としてみましょう。

【日本語版ウィキペディアより引用】
生活季節観測とは、気象庁(1956年までは中央気象台)がかつて行っていた生物季節観測の一種である。

これだけでは殆ど説明になっていないので、先に「生物季節観測」について簡単に説明しておきます。

生物季節観測は、気象庁が行う、生物季節現象(気温や日照など季節の変化に反応して生物が示す現象)を目や耳で確かめて、現象の確認できた日を記録する観測(したもののことである。)

画像1

昭和に始まり、令和に入ってかなり項目が縮小されてしまいましたが、植物や動物について観測をすることで、季節の移り変わりなどの指標となってきました。最も有名なのが、おそらく「さくらの開花や満開」でしょう。

これは「生(せいぶつ)季節観測」で、1953年に始まり、令和の現代でも続いているものです。今回のテーマの「生活季節観測」とは違います。

画像2

さて、本題の「生活季節観測」について、ウィキペディアの細かい説明文を引用することにします。

歴史 [編集]
1952年から1953年にかけて中央気象台に開設された生物季節観測法審議委員会において、『生物季節観測指針』が作成された。
これをもとに、1953年から、他の生物季節観測と同様に全国の気象台や測候所で同一の基準にのっとり、生活季節の諸事の初日や終日の観測が行われるようになった。(後略)

観測内容 [編集]
季節現象の中でも、直接人々の生活と大きく関連してくる現象、具体的には蚊帳(乳幼児用の幌蚊帳などを除く)・火鉢・こたつ(行火を除く)・夏服(洋服について)・冬服(毛織物・毛糸織など)それぞれについて、気象台・測候所の近辺の人々の20パーセントが使用・着用を開始したと推測される日である「初日」と、気象台・測候所の近辺の人々の80パーセントが使用・着用を終了したと推測される日である「終日」とを、大局的に判断し、全国の気象台や測候所で観測した。
気象台・測候所が必要とする場合、これらに加え、手袋(作業用・儀式用・装飾用のものを除く)・外套(合オーバー・春物コートなどを除く)・ストーブ・水泳の初日・終日も観測した。
空調設備の使用は、現在では広まっているが、当時は対象外であった。

画像3

少し引用部分は長いですが、要約すれば、「こたつ」や「夏服・冬服」の他「手袋」や「ストーブ」などの「初日・終日」を、気象台などの職員が判断して統計を取っていたというものなのです。
ちょうど、桜の花が開花したり満開を迎える日を統計しているようにです。

画像4

2.なぜ廃止されてしまったのか

では何故、桜の開花などと違って、現代は観測されていないのでしょうか。

【日本語版ウィキペディアより引用】
しかし、生活環境の変化や、利用する者が減少したことなどから、

とあります。廃止されたのが1963年ということで、東京オリンピックの前年にあたる高度経済成長期で、洋室が徐々に増えたり、和装から洋装が一般的になったりしたことも影響しているのかも知れません。

何よりおそらく、統計を取って「気象台」と正式発表する『手間・負担』の割に、興味・関心の持たれ方が小さかったのではないでしょうかww

令和に「生物季節観測」が縮小されたのも、『観測が難しくなったこと』等が原因に挙げられましたが、それに加えて『利用者の減少、注目度の低下』というのも要因として挙げられるのではないかと思います。

3.観測されていた項目について

先ほどのウィキペディアにもありましたが、「観測されていた項目」について簡単に分類しておこうと思います。

【生活関係】
・蚊帳
・水泳(に適した気温の日)
・こたつ
・ストーブ
 ・火鉢

【服装関係】
・夏服(洋服)
・冬服(毛織物・毛糸織など)
 ・手袋
 ・外套

ざっくり、「服装」関係とそれ以外に分けてみました。このうち、蚊帳とか火鉢は昭和に比べて現代は使う人の割合が大幅に減ったと思います。

※ウィキペディアにも、「その後もこの観測が続けられていた場合、その後廃れた火鉢や蚊帳などによる観測ができなくなっていた可能性がある」との記載あり

ここまでが、昭和の時代に気象庁が実際に観測をしていた「生活季節観測」についての説明部分となります。

4.平成の終わりに調査された論文を読む

気象庁の「生活季節観測」は、昭和の時代で途絶してしまいました。しかし実は現代になって、改めて注目されたり研究されたりもしているのです。
今日ご紹介したいのは、次の論文です。

日本における生活季節期日の全国分布の推定/住里 公美佳, 長野 和雄

画像5

この論文では、現代の住生活に合わせて項目を追加した上で、初日・終日となる気温の一覧(Table 2)を示しています。ぜひご覧になって下さい。

5.各項目を気温順に並べてみる

各項目の「20%の人が使い始め」た頃を「初日」、「80%の人が使わなくなった」頃を「終日」としています。「2割」の人の段階なので、「5割」はもう少し温度が違うでしょうし、人によって感じ方や装着の仕方も変わってくるかと思いますので、一般論的に捉えていただければと思います。

項 目   秋    春
冷 房  23.8℃  24.5℃
扇風機  20.7℃  21.1℃
うちわ  20.7℃  18.1℃
床暖房  19.1℃  19.5℃
半 袖  18.7℃  18.3℃
アイス  18.1℃  15.5℃
こたつ  17.2℃  19.8℃
ストーブ 17.1℃  18.0℃
ヒートテック  16.5℃  19.0℃
冷飲料  16.0℃  18.0℃
暖 房  15.8℃  17.6℃
手 袋  15.0℃  15.4℃
窓の開放 14.4℃  16.6℃
マフラー 13.5℃  14.3℃

※以上に示した各数値は「男性」のもの(女性は数値が異なる)。

6.令和の時代の「生活季節観測」に向けて

これからの令和の時代において、例えば、こんな展開があったら面白いなと思っています。自力でやる能力は持ち合わせていませんが、提起だけでもしておきたいと思います。

(1)観測への関心の持続

第一には、やはり、こうした面白い試みが昭和の時代にあり、平成の時代にも幾つか論文が作られ、科学的なアプローチから検証されている点が興味深かったです。

蚊帳や火鉢の使用率が減った代わりに、「ヒートテック」や「冷・暖房」が一般的になり、「こたつ」という項目にしても、昭和中期とは違って、現代では「電気炬燵」が主流になっています。

本来、「生活季節観測」をしていた理由の一つに、住生活環境の変化を日付をもって追いかける、捉えることがあったかと思いますので、令和の時代も引続き、「生活季節観測」の思想を引き継いで行けたらなと思っています。

(2)SNSなどの活用

また、昭和の時代には無かった技術であるインターネットやSNSなどが広く普及しています。

画像6

一人や一団体が調査をするにしても限界があったものを、SNSなどを活用すれば、全国(或いは世界)規模でデータを取得することができるかも知れません。

例えば、「初めて手袋を使った」とか「こたつ出した」とかの呟きを実際にされている方が沢山いらっしゃいます。これをすぐにデータとして活用することは難しそうだったのですが、活用する環境が整う下地は出来ているものと思われます。

画像7

例えば、もうやってる所もあるのかも知れませんが、会員制コンテンツで、「アプリ」で、全国でのデータを募り、それを集計・統計する様になれば、かつての「気象台」時代のような細かい断続的なデータを集められるようになるかも知れません。

※ 技術と資本のある人、是非やってみてー!(他力本願)

(3)歳時記への活用

俳句歳時記は世に数多ありますが、もっと改良の余地があるのではないかと思っている部分が幾つもあります。

今回の記事に関連する部分で言えば、「こたつ」・「ストーブ」・「うちわ」などは、俳句の世界では季語となっています。

そうした季語に対する解説文も多くの歳時記に載っているのですが、具体的な情報を補った歳時記が、もっと増えても良いのではないかと思ってます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?