東日本大震災(3.11)後の津波警報等の改善

【はじめに】
この記事では、ウィキペディアの記載をベースに、東日本大震災(3.11)の後の「津波警報等」について纏めることで、東日本大震災から得た教訓を振り返っていきたいと思います。

1.東日本大震災で発表された津波警報等

まずは「東北地方太平洋沖地震」(以下東日本大震災と表現を区別しない)の際に発表された「津波警報等」について、時系列で振り返っていきます。

(1)14:49 に発表された津波警報等

「東日本大震災」が発生して約3分後の14時49分、気象庁から大津波を含めた津波警報・注意報が発表されます。ただし、当初は通常の震源解析による「M7.9」に基づいた予想であり、最大でも宮城県の「6m」、岩手・福島県で「3m」でした。

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それでも「大津波警報(当時は厳密には「津波警報」から独立する前)」が発表されること自体が数える程しかない異常事態……の筈だったのですが、
その前年(2010年)にチリ地震(M8.8)からの津波で「大津波警報」が発表され、1960年の時ほどの甚大な被害とならなかったことや、「予想高さ3~6m」という値が先行してしまい却って安心情報と捉えられてしまった向きも否めなかったと、今となっては振り返れます。

ウィキペディア「東北地方太平洋沖地震」
この地震で気象庁は、気象庁マグニチュード7.9という推定に基づき、まだ揺れの続いている中の14時49分、岩手県、宮城県、福島県の沿岸に津波警報(大津波)、その他の全国の太平洋沿岸などに津波警報・津波注意報を発表し、予想される津波の高さについて、宮城県で6 m、岩手県と福島県で3 mと発表した。しかし、実際の津波の高さはこれを大きく上回った。

当初は、気象庁マグニチュードが飽和していて適切な規模の推定や、それに伴う津波の予想が出来ていない、言い換えれば「M7.9」でも過小評価であるとの認識を持てていませんでした。

(2)15:14 に発表された津波警報等

ウィキペディア「東北地方太平洋沖地震」
通常は地震発生15分後に算出されるモーメントマグニチュードがこの地震では算出できず、津波警報の続報に生かせなかった。
また15時には岩手県沖の海底水圧計で5 mの津波が観測されていたが、津波の予測に水圧計を使うことは気象庁のマニュアルになかった。
その後、水圧計よりも陸側に設置されたGPS波浪計や沿岸の検潮所などで高い津波が観測されたため、津波警報・注意報は15時14分、15時30分に更新・拡大された。
岩手県釜石沖のGPS波浪計では15時12分に6.7 mを観測し、これはマニュアルによれば沿岸では10 m以上の高さになるとされる値だったが、15時14分の警報更新では10 m以上の予想は宮城県のみで、岩手県と福島県では6 mの予想だった。

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NHKでは、ちょうど釜石で、岸壁を乗り越え津波が港を襲っている映像が映し出された頃、1回目の警報「更新」が行われました。

※但し、特に津波常襲地帯であった岩手県や、過去の三陸津波で甚大な被害が出ていなかった福島県の人々にとって、「3→6m」への更新がどの程度の意味を持って伝わったのかは、何ともコメントのしづらい所です。

(3)15:30 以降に発表された津波警報等

ウィキペディア「東北地方太平洋沖地震」
15時30分には岩手県から千葉県九十九里・外房までの予想高さが10 m以上になったが、すでにその時間帯には三陸沿岸に津波が襲来していた。

15時14分の1度目の「更新」から16分後、2度目の「更新」が行われます。しかし、1回目(15:14)と2回目(15:30)の間で、岩手県・宮城県内に設置されていた験潮所には巨大な津波が押し寄せていました。

・15:18 大船渡   8.0m以上
・15:21 釜 石   4.2m以上
・15:26 宮 古   8.5m以上
・15:26 石巻市鮎川 8.6m以上

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その後、福島県の相馬で10m近い津波を観測して少し経った16時08分、更に津波警報(大津波)の範囲が徳島県にまで拡大、22時53分には高知県にまで範囲が拡大。

ウィキペディア「東北地方太平洋沖地震」
3月12日3時20分までに太平洋沿岸の北海道から小笠原諸島、四国までと青森県日本海沿岸には津波警報(大津波)が、北海道日本海沿岸南部や東京湾内湾、伊勢湾、瀬戸内海の一部、九州、南西諸島などには津波警報が、日本海や瀬戸内海の沿岸などには津波注意報が発表され、日本の沿岸の全てで津波警報(大津波)、津波警報、津波注意報のいずれかが発表されたこととなった。……気象庁が津波警報・注意報を全て解除したのは、丸二日以上経過した3月13日17時58分だった。

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2.「新・津波警報(2013年)」での改善点

2011年の夏には、勉強会・検討会が開催され、上記の課題等が認識をされてきました。そして、東日本大震災から2年を迎える2013年3月7日からは、当時「新・津波警報」とも言われた制度への大幅変更が行われました。

東日本大震災当日、宮城県に居た「サンドウィッチマン」の2人を起用した『PRポスター』に目が行ってしまいますが、下(↓)では、リーフレット『津波警報が変わりました』のリンクを掲載しておきます。

東日本大震災の教訓から、何が改正されたのでしょうか、ポイントを絞ってご紹介していきたいと思います。

(1)全般的な改正点 ~大津波警報の創設~

まずは、「大津波警報」が、通称ではなく、気象庁も用いる正式名称、正式な区分となった点を挙げておきます。

ウィキペディア「大津波警報」
2013年(平成25年)3月7日改正前の区分では、「津波警報(大津波)」として津波警報の一区分として位置づけられ……ていた。
「津波の津波警報」や「大津波の津波警報」などといった呼び方は、公式発表の資料などで用いられていたが、複雑であり報道機関では「津波警報(津波)」の場合は単に「津波警報」、「津波警報(大津波)」の場合は「大津波警報」と区別して報道されるなど、一般には「津波警報(大津波)」は「大津波警報」と呼ばれてきた。
東北地方太平洋沖地震後の津波警報改善の検討の中で、従来の区分に対しては分かりにくいとの指摘があり、2013年(平成25年)3月7日から、気象庁も正式名称として「大津波警報」に変更することとなった

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昭和の時代から電報書式での伝達が分かり辛かった「津波警報」について、少しずつ民間人(庶民)でも分かる表現に改善が進められてきました。

(2)全般的な改正点 ~津波の高さの集約~

ウィキペディア「津波警報」
M8に近い規模までの地震については、予想される津波の高さ予測を「細分化されすぎ」ていた8段階から、予測誤差を考慮した防災対応とリンクさせやすい5段階程度に変更。

以前は、津波注意報は1段階、津波警報で2段階、大津波警報は5段階と、全部で8段階に分かれていましたが、それを5段階に集約したのです。

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ただ注意すべき点もあります。上記はNHKが、2013年3月7日の改正に先駆けて一般向けに示した図表ですが、これだけを見ると、

従来(2013/3/6まで)「50cm」だったものが「1m」に改訂され、「2倍」になったかのように錯覚してしまいます。しかし実際には、

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「0.2m以上1m以下」を発表基準とする津波注意報について、「0.5m程度」から「最大1m」に表現を改めただけなのです。
同様に、津波警報も基準が引き上げられたのではなく、「1m程度」「2m程度」の2段階としていたものを「最大3m」という表現に集約をしただけで、発表基準そのものは従来のものを踏襲しているのです。

※しかし、報道にあたっては「◯m程度」なのか「最大◯m」なのかという部分が軽んじられ、「◯m」の部分ばかりが取り上げられてしまっている点が、(当時は)かなり気になりました。(私見)

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また、津波の高さの段階が減ることについても、『細かすぎる』という表現を時折見かけますが、「3m」と「4m」や「6m」と「8m」を区別していた従来の方式で情報が出されても、その情報を的確に把握することができて、かつ防災に役立てられる人間の方が少ないと思います。

※例えば、◯◯町では昭和の地震の時に6.5mの津波を観測して……などといった情報があって、今回予想される津波が「6m」だと発表されても、津波の予想の精度にも誤差が出うることなどを考慮すると、細分化された情報を的確に捉えることは極めて難しいと思われる。(私見)

そうした観点から、防災へのリンクや「わかりやすさ」を重視して、現在は5段階での数値発表を基本として運用されることとなったのです。

(3)巨大地震への対策 ~最大想定で過小評価防止~

ここからは、南海トラフや千島海溝などでも警戒される「巨大地震」発生時の津波警報の改善ポイントについて見ていきましょう。

一貫して、東日本大震災の教訓を踏まえ、「過小評価を避ける」事によって津波による被害(犠牲者)を抑えることを目的とした改正となっています。

① 巨大地震による津波の規模の過小評価を防止します
 津波警報の第一報では、津波の高さは地震の規模や位置を基に推定します。しかし、マグニチュード8を超えるような巨大地震の場合は、精度のよい地震の規模をすぐには把握できません。 そこで、地震波の長周期成分の大きさや震度分布の拡がりなどから、巨大な地震の可能性を評価・判定する手法を新たに用意しました。
 地震の発生直後、即時に決定した地震の規模が過小であると判定した場合には、その海域における最大級の津波を想定して、 大津波警報や津波警報を発表します。 これにより、津波の高さを小さく予想することを防ぎます。

要するに、巨大地震の時は、東日本大震災の時の「下振れ」リスクよりも、「上振れ」する方向に舵を切ったということです。もちろん「正確性」を追究することは必要なのですが、その算出根拠が不正確な恐れがある時には、必要な対策といえるかも知れません。

② 「巨大」という言葉を使った大津波警報で、非常事態であることを伝えます
巨大地震が発生した場合は、最初の津波警報(第一報)では、予想される津波の高さを、「巨大」、「高い」という言葉で発表して非常事態であることを伝えます。
「巨大」という言葉で大津波警報が発表された時は、東日本大震災クラスの非常事態であるため、ただちにできる限り高いところへ避難してください!

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全容が明らかでない(マグニチュードを正確に推定できない)時には、津波の高さの予想も不確実性が高まることを踏まえ、規模の推定の精度が高まるまでは、大津波警報は一律「巨大」、津波警報は「高い」と定性的に表現をして、「◯m」という表現にとらわれないように変更されました。

③ 高い津波が来る前は、津波の高さを「観測中」として発表します
 大津波警報や津波警報が発表されている時には、観測された津波の高さを見て、これが最大だと誤解しないように、最大波の津波の高さを数値で表わさずに、「観測中」と発表する場合があります。
 津波は何度も繰り返し襲ってきて、あとから来る津波の方が高くなることがあります。
 「観測中」と発表された時は、これから高い津波が来ると考えて、安全な場所を離れないでください!

東日本大震災の時は、第1波が「20cm」だったり、大津波が来る前(地震発生から数十分)は、「最大波50cm」などと報道されていました。

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これが、『なーんだ、大津波警報とか言うけど、これまで通り大した高さじゃないし、襲ってくることは無いでしょ』などと誤った理解による安心情報だと理解された可能性があります。

そこで、大津波警報なら「1m」、津波警報なら「20cm」と1ランク下の高さに満たない津波が観測されている段階では、具体的な数値を示さずに、『観測中』だけ発表することとしました。

④ 沖合で観測された津波の情報をいち早く伝えます
 沖合の観測データを監視し、沿岸の観測よりも早く、沖合における津波の観測値と沿岸での推定値を発表します。
 このとき、予想よりも高い津波が推定されるときには、ただちに津波警報を更新します。

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海を伝ってくる津波を観測するのは、沿岸よりも沖合の方が当然早いです。東日本大震災ではうまくリンクしていなかった沖合の観測点における情報を迅速に発表し反映させることで、情報精度の向上が期待できます。

3.メディアの伝え方の変化

ここまで、気象庁による津波に関する情報の「発表」の仕方の改善点を見て来ましたが、我々が受け取る情報源として大きいのが「テレビ」でしょう。

東日本大震災では、実際に津波が陸地を襲う映像が流れるまで、比較的冷静さを保ったアナウンスがなされていました。しかし、日本近海で起きた地震による(大)津波警報は、一分一秒を争う場合が大半であることを念頭に、東日本大震災から1年が経った頃から、アナウンスの口調などが見直されました。

最初に適用されたのが、2012年12月に津波警報が発表されたケースで、ここで初めてテレビ本放送でこのアナウンスが行われたため、強い印象と共に、(ネットでは『神対応』などと)概ね好意的に捉えられました。

その後も「津波警報」以上が発表された場合は、『東日本大震災を思い出して下さい』等といった表現と共に、強い命令口調で呼びかけられています。

※但し、個人的には、『東日本大震災を思い出して下さい』は伝家の宝刀的なニュアンスであり、これを(年に平均1回程度でも)乱用してしまうと、甚大な被害が予想される『大津波警報』の場合は合致しますが、それ以外の大半の『津波警報』でこの表現を使えば、せっかくの伝家の宝刀が『オオカミ少年』的になってしまわないかの危惧を、この10年抱き続けています。

まだ、東日本大震災の記憶の強い時期であれば、しっかりと避難をするでしょうが、2010年のチリ地震津波での大津波警報での『思ったより低かった』事例と、2011年の東日本大震災時の『大津波警報』の軽視という歴史に潜む『心理的バイアス』を今一度振り返る必要があるのではないかと思います。

次に津波警報が発表されたのは、2016年11月22日の福島県沖の地震でした。

この時は終始、『すぐ にげて!』など平仮名で避難を呼びかけるテロップが出されたほか、6時40分には(6時6分と30分以上前の情報ではあったものの、)沖合津波の観測情報が発表されるなど、東日本大震災を受けての改正点がしっかりと反映された形となっています。

【おわりに】

ここまで、約2万人近い犠牲者を出した「東日本大震災」と、それ以降の『津波』に関する情報の改善・改正点について振り返ってきました。

「緊急地震速報」の記事でもご説明したとおり、

「東日本大震災」後の改善点に関する知識を深めることで、実際に津波警報等に遭遇した時に少しでも適切な対応を取れるよう心掛けていきましょう。それがきっと3.11から教訓を得ることに繋がると信じて。

それではまた次の記事でお会いしましょう、Rxでした、ではまたっ!


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