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noteで歳時記 ~富士の初雪(富士山初冠雪)~【2021/9/27更新】

【はじめに】
この記事では、『noteで歳時記』と題して、noteの機能を活用した歳時記を私(Rx)が編んでいます。今回取り上げるワードは『富士の初雪』です。

基本情報

富士の初雪【ふじのはつゆき】
・初秋(?) 天文

《 成分図 》
視覚5、嗅覚1、聴覚1、触覚2、味覚1、連想力2

◎解説

俳句の歳時記には『富士の初雪(7音)』という形で収録されていますが、一般的には『富士山(の)初冠雪』として報じられます。現象としては同じものを指します。

① 気象データ的な意味での「富士山初冠雪」

初冠雪(はつかんせつ)とは、1年のうち、雪に覆われる時期とそうでない時期がある山岳において、夏を過ぎて(その年の最高気温を観測した日を過ぎた後から)初めて山頂に雪が積もって白くなること。(日本語版ウィキ)

気象庁では、基本的には「麓」から「目視」で山頂の積雪を観測する形を、現在も継続していて、全国約80の山を対象としているそうです。
通常の冬の積雪を「積雪計」でのデータ観測としているのとは対照的です。

富士山については、20世紀まで複数の気象台・測候所で観測されてきましたが、2001年に静岡県三島測候所、2003年に山梨県河口湖観測所での観測が廃止され、現在は「山梨県・甲府地方気象台」のみが観測しています。

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ここでポイントになるのが「甲府から目視」という点です。雪を降らす様な雲が山頂付近に掛かっている場合や、静岡県側では冠雪が確認できるケースでも、『甲府から目視』で確認できなければ、公にはカウントされません。

このギャップが1日程度ならば良いのですが、場合によっては月単位で差を生じることもあることを覚えておきましょう。

【2021/9/22追記】
そして、“夏を過ぎて(その年の最高気温を観測した日を過ぎた後から)”の部分が適用されたのが、2021年の事例です。

当初9月7日に「“初冠雪”」が観測され、21世紀で2番目の早さとこの記事にも書きましたが、9月20日に「その年の最高気温(富士山頂10℃超え)」を観測したため、9月7日の事例は条件に合致しなくなり、「幻の初冠雪」となりました。

② 観測データから初冠雪の「季節」を探る

ちなみに、観測点とは反対ながら「静岡県」民にとっても、富士山の初冠雪は関心事であり、地元・静岡新聞はこうしたページを作成しています(↑)

データを補いつつ抜粋すると以下のとおり。

・最も早い記録:8月9日(2008年)
・最も遅い記録:10月26日(1956・2016年)
・平年値(1991-2020):10月2日
    (1981-2010):9月30日(旧データ)

また、21世紀以降の日付データを「旬」ごとに分類すると、

8月上旬:'08
  中旬:
  下旬:
9月上旬:
  中旬:'12
  下旬:'01、’02、'10、'11、'18、'20、'21
10月上旬:'03、'06、'07、'09
  中旬:'05、'13、'14、'15
  下旬:'04、'16、'17、'19

となり、2008年の8月9日が異例だとしても、殆どの年で「秋分~霜降」の約1か月間に集中していることが上記の図からも分かります。
これが実際の気象庁による観測のデータ。で、ここから「俳句」の話題へ。

③ 歳時記的には「富士の初雪」は【初秋】の季語

ようやく残暑も過ぎて、急に秋っぽくなってきたな。今日はニュースでも「富士山の初冠雪」が報じられていたから、よし「富士の初雪」で一句こしらえようじゃないか! と思い立って、歳時記を開きます。すると、冒頭、目に飛び込んでくるのが、【初秋】という文字でした。

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俳句の季節感で「初秋」といえば、「立秋(8月上旬)」から「白露(9月上旬)の前日」までを指します。ざっくり言えば、夏休み後半から2学期のスタートする時期ぐらいまでです。更に『角川俳句大歳時記』の解説は、

■解説 富士山の初雪は、例年九月上旬、六日前後のこと。

から始まっていますが、少なくとも平成以降のデータと全く合致しません。歳時記が編まれた頃はきっと初秋に初雪が観測される事も多かったのでしょうが、現代の実測的なデータとは異なる点も、抑えておきたいところです。

そして、この体感のギャップは、ちょうど上の記事でも示した様な、気温の変遷と無関係ではないように感じられます。

④ 歳時記の解説の実感は、今も変わらず

季節感には、実際には1か月ほど遅くなっていますが、その天文現象から受ける印象は殆ど変わらないです。

『また残暑が戻ってきて山頂の雪を溶かしてしまうかも知れない。それでも初冠雪が見られたことで、暑い日が続いた真夏から、確かに【初秋】の実感を、視覚からも感じ取ることができる』

「視覚」から秋~冬を感じる所に、この季語が初秋に分類されている本意があるのではないかと思うのです。そしてこれは、富士山だけに限らず、初秋の頃に初冠雪を迎える全国の山々にも言えることではないでしょうか?

◎ 例句

真夏を少し過ぎて、夕日の沈むのが早く感じられる頃。「初冠雪」をこんな風に、稲畑汀子さんは捉えていらっしゃいます。

『よべの雨富士の初雪かも知れぬ』/稲畑汀子

「富士の初雪」ともなると、麓から見えなくとも、季語としてその存在感を強くアピールするものとなります。そして、夏の間は真っ青だった富士山に初冠雪が積もると、こう感じる麓の住民も多いのではないでしょうか。

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『初冠雪 富士山らしくなりにけり』/清水初代

続いてこちら(川口襄さんの句)は、「富士の初雪」を見ての、また違った感想の抱き方、捉え方となります。勿論、標高3,776mは変わらないですよ?

『初雪の富士頂を高うせり』/川口襄

「富士の初雪」を告げられると、だれかとこの光景を共有したくなります。何に乗っていてのアナウンスでしょうか、想像が広がります。

『アナウンス富士の初雪告げてをり』/稲畑廣太郎

さらにこんな捉え方をした切り口も。歪めたのは「初雪の富士」……

『石投げて初雪の富士歪めたる』/松浦敬親

が映った湖面ではないでしょうか。非常に素敵な構成の句だと思いました。

◎ noteで令和の「富士の初雪」アルバム

2021年9月7日【幻の初冠雪】

2020年9月28日

2019年10月22日(令和の即位礼正殿の儀)

【おわりに(富士山以外でも!)】

歳時記では、これまで「富士の初雪」が収録されてきましたが、平成以降の作句例では、「初冠雪」や「富士山」などの表現を組み合わせたものが多く見られるようになっています。

私なら俳句の後半に「富士山初冠雪」(4+5=9音)を据えて、リズムを作るのも良いかなって思いました。周辺を見つつ、色んな工夫が出来そう。

皆さんもぜひ句を作って頂きたいと思うのですが……正直、歳時記には収録されていない山でも、「初冠雪」を詠んで、これらと同じ感覚を共有して頂きたいと思います!


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