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月またぎレビュー「10月→11月」

11月もだいぶ過ぎてしまいましたが今月の更新です。
アートは近代美術館の2本。企画展も常設展もいつもおもしろいのでぜひ。
映画は最近の3本はアニメでした。ここでの2本に加え、もう終わっちゃいましたが、「リトルウィッチ・アカデミア」。絵が動く気持ち良さを存分に楽しめます。
テレビは秋クールに突入、新番組の中からいくつか。
赤塚不二夫の生誕80周年で、出版やテレビ、イベント企画が目白押しです。ここでは出版の中からひとつを。他にアニメ「おそ松さん」、公演企画「バカ田大学開講」など。

【アート】
「Re: play 1972/2015 - ”映像表現 '72"、再演」展、再演 @東京国立近代美術館
43年前の先駆的な展覧会を「再演」することを試みた意欲的な展覧会。
「映像表現 '72」は、当初彫刻の展覧会としてスタートした「現代の造形」展が続けられる中で生まれてきたというのがおもしろい。たしかに、映像のメディアとして、空間を支配するフィルムも、物質的な存在感を放つ(当時出はじめていた)ビデオも、「映像」は今よりもずっと「彫刻」としての新しい可能性を感じさせるものだったのかもしれない。当時が再現された空間に身を置くと、そういうことも伝わってくるようです。
カタログも当時のものを再現していて、価格は500円。買いです。12/13(日)まで。

「MOMATコレクション特集 藤田嗣治、全所蔵作品展示」 @東京国立近代美術館
「Re: play」展もよかったのですが、藤田がすごすぎて吹き飛んでしまいました。近美は所蔵する藤田作品全26点(+1点)を展示しています。特に最初のパリ時代の後、中南米をさすらい、日本に帰国して戦争画に従事していく壮絶さには震えます。昨年出た3部作の画集(小学館)でいうと「異郷」編あたりでしょうか、その頃の熱量は他の時代にはないものを感じます。
それから今回の展覧会では、藤田が用いた構図をダ・ヴィンチやラファエロを参照項として見出すなどの考察も興味深い。実はフランスと日本以外ではあまり作品集とか出ていないみたいで、このような西洋美術史に深く根ざした考察から、国際的(西洋美術的)な評価を高めていこうとする動きのようにも見えます。
カタログは800円、こちらも買い。12/13(日)まで。


【映画】

「屍者の帝国」
伊藤計畫+円城塔の原作は未読ながら、物語の強さはとびきりで、かなり見応えがありました。最近まわりではゾンビやアンドロイド、人工知能といった、翻って人間の本質にせまるトピックが続いていたので、その文脈でも興味深かったです。そして『フランケンシュタイン』は偉大な作品なのだという認識も新たにしました。
あと実は、佐々木敦氏が『あなたは今、この文章を読んでいる。』で分析したようなパラフィクションとしての読解も少し期待してたんですが、それはおあずけかな。

「心が叫びたがってるんだ」
「あの花」の制作チームが再集結したことで話題の映画。泣けます。「あの花」に比べて、ファンタジーがメタファーへとちゃんと置き換わっていく感じがとてもよかったです。それから、しゃべれない主人公は歌で気持ちを伝えようとするんですが、それを相対化するのにボーカロイドが当てられていたことも印象に残りました。


【テレビ】
「SICKS ~みんながみんな、何かの病気~」
おぎやはぎ、オードリーらによるコント番組は、安定のテレ東深夜ドラマ枠。「30minuite」とか大好きなので、この手のコント/ドラマは結構見てるのですが、これは視聴者の見方そのものを番組に仕掛けているようでおもしろいです。よくあるようなオムニバスのコントなのかと思って見ていたら、実はそれぞれの短編がすべて同じ世界だということが次第にわかってくるんだからスリリング。これからの展開にも期待できそうです。

「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」
「心が叫びたがってるんだ」でもメインスタッッフを務めている監督・長井龍雪さんとシリーズ構成・岡田麿里さんが名前を連ねるガンダムシリーズ。
正規雇用と非正規雇用の格差によるルサンチマンが動機として通底する中、アルドノアゼロ的な温度低めの高スペック主人公とその組織に身を置くお姫様、グレンラガン的兄弟分の関係性(故に兄貴分には既に死亡フラグが、、、)、など、既視感もありながら、その配分が十分展開を期待させるものになっています。

「すべてがFになる」
同じ森博嗣原作「スカイクロラ」(押井守監督)の川井憲次さんが音楽を手がけています。ドラマではあまり感じられなかった「スカイクロラ」と同じ原作者だということがはっきりと伝わってくる感じ。そもそもはアニメの映像体験が共通しているからだと思いますが、音楽も関係しているかもしれません。
それから、オープニングのアニメーションがデュオダンスのロトスコープになっているのもおもしろいです。


【本】

『赤塚不二夫 実験マンガ集』
展覧会やテレビなどで度々伝説的に語られる、赤塚不二夫の実験性。それが生誕80周年にして1冊にまとまるというのだから買わないわけにはいかない。しかし、徹底してギャグマンガを描いていた中での「実験性」なのであって、それだけ取り出してもしょうがないんじゃないか、とも思うけど、ひとまず資料として重要なのはたしか。

『ジル・ドゥルーズの「アベセデール」』
哲学者ドゥルーズが、A〜Zのアルファベットごとのテーマについてこたえたインタビューを収録したDVD。友人と飲んでいたときに激推しされたが、貸してくれないそうなので自分で購入。全編で8時間近く、寝る前に少しづつ見よう。
例えば「C」→「Culture(文化)」では、文化の中に身を置くことは、本来なら出会わないものたちが出会ってしまうのが重要、そしてその出会いには人と人の「出会い」は必要ない、というようなことを言っていて素敵だなと思いました。

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