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「こんにちは、母さん」:母回帰映画というか、思ったより現代的な母息子劇

<あらすじ>
大会社の人事部長として日々神経をすり減らしている神崎昭夫(大泉洋)は、大学時代からの親友で同期入社の木部富幸(宮藤官九郎)から相談を受ける。隅田川近辺の地元で、屋形船を借りて同窓会を開催しようというのだ。家では妻との離婚問題、大学生になった娘・舞(永野芽衣)との不和に頭を悩ませているものの、そこは隠して、2年ぶりに母・福江(吉永小百合)が暮らす実家を訪れる神崎。「母さん」と、木造2階建ての玄関の引き戸を開けると、迎えてくれた母の様子が、どうもおかしいのだが。。

KINENOTEより

評価:★★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

「男はつらいよ」シリーズで著名な山田洋二監督の90本目の記念作。山田監督も御年91歳ということで、大台を迎えたなという感がありますが、いやいや日本には(もうお亡くなりになりましたが)新藤兼人監督が99歳のときの監督作「一枚のはがき」(2011年)があり、これが日本人では最高齢のときの監督作ということになっていますので、まだまだ山田監督をはじめ、山田組には頑張ってもらいたいなと思います。

と、そうした山田監督が今回取り上げたのが、自身の作品の中でも、「母べえ」(2008年)、「おとうと」(2010年)、「母と暮らせば」(2008年)と同じく今回主演を務める吉永小百合と取り組んだ母親を巡る物語。ただ、今作が今までの母親シリーズと違うのは、2020年代を取り上げる現代劇ということ。ややネタバレを含みますが、吉永小百合演じる母親の女としての恋と、仕事や家庭に悩む大泉洋演じる息子の新たな旅立ちまでを描いていて、母親・息子とそれぞれの物語が展開されながら、母親と息子という関係性は家族として続いている。設定的に、この物語のような80代の母親と、50代の息子という形になると、これまでは引退劇や老老介護的な雰囲気な作品になりがちなんですが、そんな歳を感じさせるのではなく、母息子という変わらない関係を描きながら、人間ドラマとしてウェットにならない地に足ついたドラマになっていることがすごく好印象でした。

とはいいつつも、現代のドラマや映画に慣れ親しんでいる若者にとっては、説明口調が多いセリフ回しや、東京下町の昔ながらの民家にご近所も含めて、バタバタといろんな人物が上がりこんでくるような「男はつらいよ」的な演出は少し古めかしいなと思わざるをも得ないかも(笑)。でも、ベースにあるのは一人一人のキャラクターがすごく立っているお話で、作品自体はすごく洗練されているので、このギャップにすごく驚かされると思います。90代になっても、ますますこうした古くて新しいテーマを提示し続ける山田監督の作品作りに、今後も注目せざるを得ないです。

<鑑賞劇場>TOHOシネマズくずはモールにて


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