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「52ヘルツのクジラたち」:生きにくい毎日の中で前を向く若者たち。成島監督の上手さが少し逆効果になっていると思う。

<あらすじ>
ある傷を抱え、東京から海辺の街の一軒家に移り住んできた貴瑚(杉咲花)。母親から虐待を受ける少年“ムシ”(桑名桃李)との出会いが呼び覚ましたのは、貴瑚の声なきSOSを聴き、救い出してくれた、今はもう会えないアンさん(志尊淳)との日々だった……。

KINENOTEより

評価:★★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

貧困、介護、虐待、そしてジェンダー問題と昨今の日本は本当に生きにくい。その生きにくい日本社会において、互いを認め、手を取り合う若者たちの姿を描いた作品。監督はデビューから本当に玄人な上手さを魅せる「孤高のメス」の成島出監督。この作品は原作があって、2021年に本屋大賞を受賞した町田そのこの同名小説をもとにしてるとか(原作は未読)。関係ないですが、本作の舞台となる街にこの鑑賞日前にちょうど行っていて、街の雰囲気もよく、ちょっと住むにはいいかなと思っていたところに、ちょうど本作の主人公・貴瑚も東京から移り住んできたという設定なので、勝手にシンパシーを感じながらの鑑賞になっていました(笑)。

という個人的な話は横に置いておいて、まず本作の感想としてはすごく骨太な作品で圧倒されたに尽きるでしょう。何といっても主人公・貴瑚を演じる杉咲花の演技の幅広さ。昨年の「市子」(2023年)でも驚かされましたが、僕は主演だけど回想劇でキャラ個性としては少し印象が薄い感があった「市子」よりも、よりどっかりと主演女優として話を切りまわしていく本作のほうが、より彼女の女優としての成長度を感じました。それに安定している成島監督の演出にどっぷりと腰を据えて見れる136分の力作なので、映画としての満足感としては120%をつけてもよい作品だと思います。あとは原作未読の方ではちょっと驚く展開が中盤に用意されていて、これも作品の味を深めるいいエッセンスになっている。映像トーンとして、成島監督らしいちょっとベタっとしたフィルタがかかる現在部と、少し浮いたトーンとなる回想部分の比較も絶妙で、海の深さの青いトーンも後半部にしっかりと出てくるところもスクリーン映えが十分にする作品だと感じました。

では、なぜ評価が満点じゃないか、、というところなんですが、やっぱりよくも悪くも横綱相撲みたいな映画なんですよね。安定感がある分、安心なんだけど、お話としての少し驚きがある中間部以外のところが演出としての驚きがないというか、骨太なんだけどクリエイティブ感がないというか、そんな感じなんですよね(汗)。うまく言葉に表現できないんですが、安心感の面白さ以外に、これがすごくいいからおススメと言えるところが(すべてが上手すぎるために)逆にないんですよね。ちょっと不安定になってもいいから、ちょっと挑戦するところが1つ2つだけでもいいからあると、別の面白さが出るのかなと思ったりします。

<鑑賞劇場>TOHOシネマズくずはモールにて


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