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「ホールドオーパーズ 置いてけぼりのホリディ」:クリスマス休暇を一人で過ごすことになった人々の悲喜こもごも。ドタバタでも一人よりましなのは万国共通。

<あらすじ>
ニューイングランドの寄宿制名門高校に勤務する古代史の非常勤教師ポール(ポール・ジアマッティ)は、その頑固で偏屈な性格ゆえ、生徒たちからはもちろん、校長や同僚たちからも疎まれていた。そんな彼は、多くの生徒や教師たちが家族と過ごすクリスマス休暇中に学校の寮に残らざるをえなくなった数名の生徒たちの子守をすることを余儀なくされる。やがて、生徒のひとりで優等生ではあるが問題行動の多いアンガス(ドミニク・セッサ)、そしてベトナム戦争で息子を亡くしたばかりの料理長(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)とともに、ポールは思いがけない時間を過ごしてゆく……。

KINENOTEより

評価:★★★☆
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

「サイドウェイ」(2004年)でアカデミー賞脚色賞に輝いたアレキサンダー・ペイン監督&ポール・ジアマッティ主演のコンビが、およそ20年ぶりに再びタッグを組んだ作品。「サイドウェイ」でもワインオタクというこだわりがある男性を演じたジアマッティだが、本作でも歴史で大学教授となり研究職に就きたかったが、現実は高校での古代史の非常勤教師に収まった(しかも、生徒はもちろんのこと、同僚教師からも疎んじがられている)偏屈男を好演しています。今回はそうした冴えない教師と、様々な事情でクリスマス休暇を家族と過ごせず、寄宿舎で過ごす生徒たちとの悲喜こもごもを描いていきます。

アレキサンダー・ペイン監督は長編デビュー作「ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ」(1999年)から上手いなというのは、男女問わず、こだわりが強くで周りから浮いている人たちと、そんな人たちを描く日常の中で醸し出す哀愁の味わいを出すところ。「ハイスクール白書」では人気者の生徒を選挙で蹴落とそうとする教師、「アバウト・シュミット」(2002年)では定年退職で人生の空白を抱えた男、「ファミリー・ツリー」(2010年)では事故で意識不明になった妻の代わりに分裂しかかる家族を支えることになった夫など、状況的に全くの孤独ではないが、人生の様々な岐路で心に孤独を抱えることになった人たちの心の変遷を、ゆっくりとしたスピードで描いていきます。この感覚は(なんか分からないけど)日本人に通じるところがあるなーとずっと思っていて、特に少子高齢化+貧困社会の中で、孤独に生きる人たちが多く住むことになった、この国において、孤独との心の向き合い方を(少々のコメディの味わいをふりかけながら)素敵に教えてくれる作品になっています。

本作も、クリスマス休暇という”THE 家族イベント”な週末の中で、様々な状況で一人で過ごすことなった生徒、教師ポールをはじめ学校スタッフたちの、如何に休暇を乗り越えていくかを描いています。日本でも、クリスマスはもとい、お正月だったり、GWだったり、夏休み(お盆?)だったり、、とハッピーなイベントを押し付けてくる世間に対し(笑)、一人(家族がいても孤独を抱えている人含む)で生きている人にとっては、こうしたハッピーホリデーをどう生き抜くかを毎年悩んでいる人はいるのかな(僕を含め)と思っています。有名な歌の一説(「あなたがいないと思うことがせつない~」)ではないですが、状況的に孤独であっても、孤独を感じることが真の孤独ではないかなと思います。本作のポールであったり、問題児のアンガスであったりしても、孤独感で人にあてつけ、自分の世界に閉じこもるのではなく(それも心地いいことはよく分かるけど笑)、せめて周りにいる人たちにだけでも心を開いていくこと。そうした少しの心がけがあれば、世知がなくなっていく社会の中で、少しでも生きやすくなる状況が生み出せるのではないかと切に思ったりします。盛り上がりがある作品ではないですが、こうした普遍的なことをゆっくりしたリズムで描くペイン作品は、僕の心の良き栄養になっています。

<鑑賞劇場>京都シネマにて


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