見出し画像

「〇月〇日区長になる女。」:区民の後押しで区長選に挑む女性を追うドキュメンタリー。観ていて、選挙はこうあるべきだと思った。

<あらすじ>
東京都杉並区。57万人が暮らす緑豊かな街で、行政主導の再開発、道路拡張、施設再編計画が進んでいた。そんな状況下で迎えた2022年6月の杉並区長選挙。住民たちは、ひとりの候補者を擁立する。ヨーロッパに暮らし、NGO職員として世界の自治体における“公共の再生”を調査してきた岸本聡子だ。地縁なし、政治経験なしの彼女の相手は、3期12年続く現職区長。しかも、岸本が日本に帰国したのは投票日2ヶ月前。ここから岸本と彼女を擁立した住民たちの、当選を目指した本気の対話が始まる

KINENOTEより

評価:★★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

2022年に行われた杉並区長選挙に出馬した女性・岸本聡子の選挙活動を追ったドキュメンタリー。映画タイトルになっているし、ちょっと調べればわかると思うので結果を書くと、岸本氏は当時現職の対立候補を187票という僅差で破り、初当選を果たすことになります。あらすじにあるように地縁もなく、ヨーロッパで長年NGOとして経験を積んでいたものの、政治経験もなかった一人の女性が、市民団体の後押しもあり、どうやって初当選を果たしていくかを追っていくという内容が本作の見どころとなっています。

中学校の公民の授業で習うように、日本は議院内閣制をとっており、総理大臣は国民から選ばれた衆議院・参議院の2つの国会議員の中から選ばれる(ただし、過去参議院から選ばれたことはなし)という形をとっています。これが都道府県以下の地方自治体では違っていて、知事や市長などのいわゆる首長も、各地方議会の議員も選挙によって選ばれる(いわゆる大統領制と同じ)形をとっており、国会・地方議員と違い、首長自身にも大きな権限が与えられています。無論、議会とのバランスはとられていたり、国と違って、予算枠でも大きなことができないなどの制約はありますが、それでも首長の方針は結構絶大で、身近なところではコロナ禍の2020年当時には各地に出ている緊急事態宣言の発出とかも国が方針を決めるものの、最終的には知事が宣言をして行うという形をしていたところを見ても、権力の偉大さは垣間見ることができたかと思います。

なのでというわけではなないですが、議員選挙は候補者が結構たくさん出るので個々の公約云々が分からなかったら、その人だったり、所属政党・政治団体などの好き嫌いで選んでも差し支えない(各好き嫌いで選ばれた人たちで、議院としては多様性が出るので)けど、首長選は住んでいるところ(住民票があるところ)の生活と直結するところがあるので、候補者の政策作成・実行能力を結構真剣に観たほうがいいと感じました。本作でも、選挙戦で市民団体と共同していく選挙活動の中で、公約や市民の希望を政策に変えていく云々の議論を井戸端で支援者と議論するところが序盤に出てきましたが、まさに、生活の中でこうしたい、こうして欲しいという希望だけ訴えるのは一市民でもできるとは思うのですが、それを政策(法制化)にし、どう予算を確保し、国や企業・各団体(もちろん、行政庁の中で)をどう動かしていくのか、それを選んだ人が確実に実行できる能力があるかを、公約以前に観る必要があるなということを痛感しました。昨今だと、いわゆるベテランの狸系なオッサンではなく(笑)、銀行やシンクタンク出身の30代の若い市長が各地で誕生していたりしますが、本作に登場する岸本氏も然り、そうした若き政策実行力溢れた人がもっと日本の各地に登場してもいいなと思います。

政策ではなく、もっと上位な政治・思想という意味では、右寄り、中道、左寄りとか、いろいろ個人の考えがあるので、そこはとやかく触れず、ただ単に能力ある一人の女性の選挙戦として描いているところに、本作が好感が持てるところがあります。終盤、エンドロール部分では特定の政党名がいくつか出てきますが、そこの支持・不支持は関係なく、全国各地の市民が少なくとも自分が住んでいるところの首長選にはもっと真剣に取り組むきっかけにできる、いい作品だと思いました。

<鑑賞劇場>京都シネマにて


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?