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「哀れなるものたち」:異形の女版フランケンシュタインが人間性を取り戻すロードムービー。ランティモス監督だから描ける異形の世界!

<あらすじ>
不幸な女性ベラ(エマ・ストーン)は若くして自らの命を絶ったものの、天才外科医ゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)の手により奇跡的に生き返る。蘇ったベラは世界を自分の目で見たいという欲に突き動かされ、放蕩者の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)の誘いに乗り、大陸横断の旅に出る。ベラは貪欲に世界を吸収するうちに平等と自由を知り、時代の偏見から解き放たれ……。

KINENOTEより

評価:★★★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

ちょうど、この感想文を書くころに決定した第96回米アカデミー賞で、クリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」と多くの賞を分け合うことになった本作。主演のエマ・ストーンに2回目のアカデミー賞主演女優賞をもたらすとともに、昨年(2023年)の第80回ヴェネツィア国際映画祭でも最高作品賞である金獅子賞も受賞している。多くの賞を受賞していることは良い作品であるパラメータにはなるものの、イコールすべての人に受け入れられるかというのは、やっぱり人の好き嫌いにも依るところがあるのも事実。「オッペンハイマー」は感想文執筆時点では未見ですが、少なくとも本作はちょっとそうかな、、と思わざるを得ない点があったりします(笑)。

本作を観る前までは、予告編の感じはジュネ監督の「アメリ」(2001年)のような不思議な感覚を持った少女の成長劇なのかなと思ったのですが、ちょっと思ったりよりグロテスクでした。。ここはやはり本作の監督、ヨルゴス・ランティモスの持ち味でもあるのです。僕も彼の作品を見たのが「籠の中の乙女」(2009年)が最初で、その次の「ロブスター」(2015年)でもそうですが、人間の本性みたいなものを直視させられるような形が多い印象で、かつ物語の流れもちょっと「?マーク」が観ていているような展開になってしまうところがあって、それに悩んでいると物語が進んだり、でも、後になって振返ってみると、あああれはあれで物語が1つ閉じているなと納得したりと、人間の内臓を抉り出すような展開と美世界にあたまがクラクラしてくるのです。

その意味で本作を改めてみると、そんなランティモス作品でもヤバメな世界観はちょっと抑え目で、それでいて彼の世界観もちゃんとあるという分かりやすい作品になっていると思います。話としては、女性版フランケンシュタインが人間とは何かを掴んでいくロードムービー(旅映画)になっています。主人公のベラの出生にはある謎があり、それがフランケンシュタインという表現に集約されてくるんですが、そんな彼女が旅をしていく中で人間性とは何かを知り、どんどんと美しい女性になっていく。それと同時に面白いのが、人間性を獲得していない本能として動いていく彼女の世界に、周りの人々は逆に自らの本能を抉り出され、直視されざるを得なくなり、ある者は狂い、ある者は開放されるなどのように、現実という美しくも、残酷なものに対峙せざるを得なくなってくるのです。そう思うと、ピノキオみたいな物語要素もあるかな。成長していくベラが最後にどんな女性に開眼していくのか、、それが本作の見ものでもあったりします。面白い!

<鑑賞劇場>大阪ステーションシティシネマにて


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