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「正欲」:朝井リョウ原作の味わいがよく出ている秀作!多様化容認社会に潜む人間社会の闇。

<あらすじ>
横浜市在住の検事・寺井啓喜(稲垣吾郎)は、息子が不登校になり、教育方針をめぐり妻と度々衝突している。広島のショッピングモールで契約社員として働いている実家暮らしの桐生夏月(新垣結衣)は、代わり映えのしない日々を送る中、中学のときに転校していった佐々木佳道(磯村勇斗)が地元に戻ってきたことを知る。ダンスサークルに所属する諸橋大也(佐藤寛太)は準ミスターに選ばれたほどの容姿。学園祭のダイバーシティをテーマにしたイベントに大也が所属するダンスサークルの出演を計画した神戸八重子(東野絢香)は、大也のことを気にしていた。家庭環境も見た目も性的指向も異なり、異なる場所で生きてきた彼らの距離が少しずつ近づき、ある事件をきっかけにそれぞれの人生が交差する。

KINENOTEより

評価:★★★★☆
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

「桐島、部活辞めるってよ」、「何者」など映画化作品も多い作家・朝井リョウが2021年に発表した同名小説の映画化作品。ちなみに朝井リョウさんは僕より10歳くらい歳は下なのですが、岐阜県出身で、割と地元が近いので勝手にシンパシーを感じています(ファンの方、スイマセン、、)。監督は、「あゝ荒野」、「二重生活」の岸善幸。両人とも、現代社会を生きる若者のアイデンティティを模索するキャラクターを描くのは上手いので、本作をどのように料理するのかと楽しみな鑑賞でした。

と、書いておきながらですが、映画を見るまで原作小説のことは頭から忘れていました(笑)。実は、朝井さんのこの小説、2021年に柴田錬三郎賞を受賞したときに読んでました。観ていて、なんかどこかで聞いた話だなとずっと考えていたので。当時は、ちょっと衝撃的だった題名に惹かれて読んでみたのですが、原作を読んでの映画の印象というところで書くと、とてもうまく原作のエッセンスを映像化しているなと思います。本作の映像化って、人の欲望、それもエクスタシーやオーガズムに関する欲なので、ちょっと間違えると変態的な作品になりかねない。描く対象としては”欲”ではあるものの、テーマとしては人間社会であったり、多様化・多様性に対する歪みたいなところであるので、対象の表現を最小限に、かつ群像劇の中で登場するそれぞれのキャラクターが持つ、現代社会の生きにくさみたいなものが上手く表現(特に、YouTubeに登場する子どもたちや、水に執着を感じる人々、ラストに繋がりを絶ってしまうある性愛をもつ人の存在などが、最小限に抑えられているところ)されていると思います。

それにしても観ていて辛いですね。。正直、僕は個々の人間は変態だと思ってます笑。だってそれが人という動物だと思うし、進化の過程で思考を持てるような大きな大脳皮質をもった生き物の性(さが)だと思います。でも、それは人間として社会を形成しようと思ったときは別。個々がもつ特徴・考え方が違う中で、それぞれの人が生きやすい社会を作る場合は各々の欲望は最小公倍数で満たすだけにしないと、群れ・社会を形成してすることはできない。世の中が高度経済成長のときのような一方向向きではなく、多様化・多様性を認めろと声高に叫ばれ(無論、これは今まで声をあげれなかったマイノリティにとっては重要なのですが)、インターネットによる個別に形成されるつながりは、今まで抑えていた個々の欲望を増長させる。法に触れるような罪になることは裁かれるべきですが、法に書かれないことも罪になるのか。。自分の頭で理解できないことは社会から排除していいのか。。これは社会学では、社会的包摂(ソーシャルインクルーシブ)といって、障害者や弱者をどう社会で取り上げて共に生きていくかを考えることで、ここ半世紀は主として福祉分野で研究されているところではあるのですが、それを拡大解釈して、様々な考え方をどう私たちは捉え、生きていくべきかを(多様化社会を謳うならば)真剣に考えないといけないかと見ていて思いました。

僕が小さい頃、小中学校の先生は自分勝手なことをするな、我慢しろという教育でしたけど、きっと今は違うんですよね。。多様化する社会を止めることはもうできないと思いますが、そのためには個々の道徳観・倫理観をすごく高めて(もしかしたら、ネットやAIなどの力を借りながら)生きていく術を常に考えていかない社会に突入したということを、私たちはもっと理解したほうがいいかなと思います。

<鑑賞劇場>TOHOシネマズくずはモールにて

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