見出し画像

【移住雑記241日目】オレンジに揺られろ

冗談のような話に聞こえるけれど、本当の話だから仕方がない。
北海道に移住して、サーフィンを始めた。

いよいよ冬も明けてきたような、温かい日の差す北海道。ついこの前まで当たり前にあった雪の塊が、今では日陰でひっそりと申し訳なさそうな顔をしている。

厚真町は浜厚真。広々とした浜の景色の先に車が並び、その奥で波が幾層も揺れている。北国にサーフィンのイメージはあまりないけれど、ここ浜厚真は北海道でも屈指のサーフスポット。多い時には何百人と、全国各地から人が訪れることもあるという、”北の湘南”。

「キムタクが来る」という枕詞は意外と色んな場所で聞くことはある。この春、キムタクではなく、チショカトが浜厚真に来ました。

内陸の民、埼玉生まれのチショカトは、全くの未経験。スノボーすら「寒いのは嫌」と言いながら誘いを断り続けていた大学時代を思い返すと、サーフィンも「やってみよう」と踏み出す一歩は20代の僅かな成長の賜物かもしれない。

寒い寒いと聞いていた春先の浜厚真の海水は、先輩から貸してもらったドライスーツのおかげで、気持ちよく海に入ることができた。実は去年にも一度だけサーフィンに挑んでいたのだけれど、およそ半年の期間を経た再挑戦。最初は浅瀬で崩れる小さい波(スープ)の上で立つ練習から。まったく身体が覚えていない。浅瀬でうねる波の中、たった10分練習しただけでも息切れする。ぜえぜえと肩を揺らして呼吸する僕に、先輩からのアドバイス。

「何でもかんでも乗るんじゃなくて、波を見て”いい波”が来たら乗ってみるといい」

浜で体育座りをしながら呼吸を整えていると、沖の方で高い波が上がる。ふっとその隙間から、勢いよく角度をつけて飛び出した人影が、しばらく波の上を踊るように滑っていくと消えてしまう。また次の大きい波が遠くに見えると、その上をまた人が鮮やかに踊って消えていく。

呼吸を整えて海に入って練習、戻って休む、を繰り返しているうちに、身体を大きく揺らす波とそうでもない波があることを知る。良い波がどうかの見極めはまだまだできないけれど、ボードの横でいろんな波を身体で受け止めながら、自分のタイミングを計る。上手くタイミングが合わせられると、身体がぐんと前に進む感覚がある。視点をなるべく前方遠くに飛ばして、重心を丁寧に上げていく。何度もひっくり返りながら、徐々に感覚を身につけていく。

あぁ、いますごく”初心者”だ。

ど派手に転んで立ち上がる時、思い出すのは初めて自転車に乗った時のこと。大人になって歳を重ねていく中で、初心者面ってしにくくなってしまうのかもしれない。ダサい姿を人に見られることから、無意識のうちに逃げていた。後ろで支えてくれていた手から離れてスピードに乗った自転車の、あの日の自分には、ダサさだけでは切り捨てられない胸の高鳴りがあったはず。

ようやく乗れた小さい波は、すぐに崩れて消えてしまった。それでもあの一瞬、オレンジの夕日がそのまま溶けた光る波の上で、ゆっくり立ち上がった時に感じた何かは、デビュー戦の細やかな一幕としてきっと時々思い出すだろう。沖の大きな波の中で踊った人影のひとつひとつにも、そんな「初めての一日」があるはずだ。

初心者であることは、それだけ可能性を秘めているということ。

普通なら「仕方ない」の一言でまとまってしまうことでも、派手に転がりながら人一倍悔しがってやろう。その時々の季節や景色をじっくり味わいながら、少しずつ沖に出れると良い。公営塾も高校生も、のびしろしかない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?