【Story】歌舞伎病院

今の時代、病院もたくさんあって経営をしていくのがたいへんだ。

そんな中で、患者が集まっている病院があるという。
でも病気の種類に特化した専門病院ではない。

病院から出てくる患者の表情が、
みんなホッと安心したような表情をしている。
と口コミで広がっているのだ。
名医がそろっているのだろうか?
特に初診の患者にその傾向がみられるという。

安心できるのなら、、、と以前から胃が痛かったボクは
この病院に通うことを決めた。

問診を終えてから、レントゲンや胃カメラ検査をやって、
先生のところへ。

診察室に入り、レントゲンや胃カメラ検査の結果を見ている先生を見ると、、、
眉間にしわをよせたり、うーんと低くうなったり、
目を見開いたり、これは、、、とつぶやいたり、、、
かなり深刻な表情をしている。
そんな状況がたぶん5分くらい続いた。
たぶん、というのはボクにとっては何十分にも感じられたからだ。

結果が相当悪いのだろうか?重い病気なのだろうか?
まさか胃ガン?もう手遅れとか?
次から次に最悪の状況がボクのアタマをよぎる。

ボクはもう耐えきれなくなって、叫んでしまった。
先生、ボクの病気は一体何なのですか?
教えてください!

先生はゆっくりとボクの方を見て、にっこり笑い、
胃が荒れているだけですね。
たぶんストレスのせいでしょう。
あまり、ストレスをためすぎないようにしてください。

え?えええええええ?
先生、本当のことを言ってください。
ボクは重い病気なんでしょ?
だって先生の顔、かなり深刻でしたよ。
お願いです。本当のことを教えてください!

ボクは必死にお願いした。

本当も何も、胃が荒れているだけです。
胃が荒れていることだって、
軽くみてはいけない、とても重大なことです。
とまたにっこり笑った。

ボクは全身の力が抜けた。
もう、笑いしか出てこない。
よかった。。。ボクは病気なんかじゃなかった。
そう喜びを噛み締めながら病院を出た時に、
ふとあることが頭をよぎり辺りを見回した。
そうすると、ボクと同じように喜びを噛み締めたような表情をした人たちがいた。
そうか、そうだったのか!
先生の大げさなリアクションで不安になった後の安心は喜びにつながる。
ボクは胃が荒れているだけだったけど、あれが胃潰瘍だったとしても、
胃ガンじゃなくて良かった、と喜んだかもしれない。
これが、この病院が人気がある理由なのか。
大げさなリアクション。
それがこの病院が通称、歌舞伎病院と言われる理由か。

好みはあるかもしれないけど、ボクは気に入ったぞ、この病院。
1ヶ月後の定期検診もなんだか楽しみになってきた。

それから定期検診で1ヶ月に1度
歌舞伎病院に通うようになってから半年が過ぎた。
先生は、相変わらず大げさなリアクションをしているが、
そろそろこのリアクションに付き合うのも飽きて面倒くさくなってきた。
帰り道、別の病院に変えようかなぁ、とぼんやり思っていたとき、ふと思い出した。
患者が集まる、という噂の他に、長く通院している人の転院も多い、と噂されていたことを。
ボクは吹き出してしまった。
みんな同じ、飽きちゃったんだね。

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