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『デザインの過程』で学ぶ、         センスやスキルよりも大切なこと。       ~デザイン研修開催レポート~

2022年5月~6月に、全4回の『デザイン研修』をオンライン開催しました。講師は、YELL  FORロゴの生みの親であり、デザイン制作サポートでYELL FORに関わる蔵多優美さん。大学でビジュアルデザインを学んだ後、IT企業・WEB制作会社数社を経験。現在は「デザイン」を軸とした解決屋として、鑑賞教育やアート・福祉・教育などの様々なプロジェクトなどに関わり活動をされています。

YELL FORでは、業務に必要なスキルを学ぶ研修を定期的に開催しています。『デザイン研修』では、デザインで大切な心構えから実践的な制作まで、幅広く教えていただきました。特に、デザイン=センスとイメージしがちですが、「デザインする過程」こそが大事であり、デザイン以外の様々な場面にも応用できることを学びました。

このレポートでは、講師の蔵多さんへのインタビューをもとに、デザイン研修の様子と「デザインの過程」で大切なことについて、掘り下げてお伝えします。

実践含む全4回で開催されたデザイン研修

デザイン研修は、レクチャーと実践形式を含む内容で開催されました。


【レクチャー】   
 ①蔵多さん自身の経歴・デザインで大切な心構え・対話型鑑賞
 ②レイアウト基礎について・「canva」の紹介
【実践(課題)】  
 バナー制作と制作物に対するデザインプロセスシート作成
【デザイン相談会】 
 課題に取り組む中での疑問解消やクオリティ向上のための
 個別相談会(任意参加)
【フィードバック会】
 各自が制作したバナーに対するフィードバック会


ーーどのような考えで研修プログラムを構築されたのでしょうか?
昨年、YELL FORデザインチームメンバーを対象に開催したものを、今年はメンバー全員に対象を広げて開催しました。昨年も実施した、私自身の経歴の話や好評だった対話型鑑賞を入口とし、今年からの追加実践として「canva」というデザインツールを用いたバナー制作を研修に取り入れました。
 
ーー全員に「作ること」を体験してもらったんですね。
メンバー全員に対して、制作の難しさや楽しさ、作ることの触りだけでも体験してもらいたい、という意図があります。「デザインは自分に合っているかもしれない」、「苦手に感じているけどこの知識は学んでよかった」など、この研修が参加したメンバーにとってポジティブな働きになればと考え、このような構成としました。
また、制作は一人だけで完結する作業だ、というものとして認識するのではなく、制作物を見た他者の意見があることを知ったり、その意見を取り入れてより良い制作を進めるプロセスがあるのだ、ということをメンバーに知って欲しいと考えました。そのため、課題提出をゴールとするのではなく、任意参加のデザイン相談会と全員参加の制作物フィードバック会を設け、過程を知るための研修づくりを意識しました。

大事なのはデザインのノウハウよりも、デザインの過程で身につくこと

レクチャー①内で使用したスライド〜「デザイン」の過程を知ろう

ーーデザイン研修で伝えたかった・学んでほしかったことはなんですか?
一番伝えたかったことは、デザインのノウハウではなく、デザインするまでの過程の部分やデザインは一人で作るものでないこと、コミュニケーションの大切さです。
この研修を受講すると「デザインのいろは」を教えてもらえると思った人は、肩透かしをくらったのではと思いますが、そもそも全4回という限られた時間の中でデザインのすべてを教授することは容易いことではありません。
いい感じのデザインを作れるようになることよりも、デザインの核となる本質的な考えを知ってもらう方が、メンバーのみなさん、それぞれや今後の活動に生かされるんじゃないかと思ったんです。

ーー実技的なことではなく、デザインの根本的な考え方を伝えたかったということですね。
レクチャー①では、デザインを軸に活動するに至った自分自身の経歴や、これまでの経験を踏まえてメンバーのみなさんに伝えたい、デザインで大切な心構えについて紹介しました。
作るだけではなく、その過程や情報整理が大切。デザインするにあたって、常に「届ける先」を意識すること。独りよがり、ではなく自分ではない誰かのために作ることや自分ではない誰かと話をしていきながら作り上げていくことの大切さを伝えたかったんですね。
そして、こういったデザインの根本的な考え方は、あらゆる仕事にも応用できるのではないかと。

レクチャー①内で使用したスライド〜対話型鑑賞を始める前の心構え

私は、デザインというものは理論や自分に蓄積されたものがセンスになっていくものだと考えています。
研修前に「デザインはセンス」と捉えていたみなさんの認識を拡張させられたのではないかな、と思うんですよね。
デザインを制作するソフトが使えるようになることが目的の研修であれば、デザイン学習動画などを見てもらう方が格段に良いと考えているので、講師が私ならば、私にしか伝えられないことを伝える研修内容にしたかった、という考えで研修を実施しました。

レクチャー②では、グラフィックデザインの概要について話をしましたが、あくまでレイアウトの基礎的な、ここだけは押さえてほしいという内容を伝えるのみとしました。というのも、美術系や技術系の勉強は、自分で調べて実際に手を動かしてみないと身にならないんです。受け身でいるのではなく、自分で勉強し、実際に作ってみて相談することも出来るんだよ、という可能性を提示しました。

レクチャー②内で使用したスライド〜参考にしたモノゴト・本

受け身でなくさらにその先へ

ーー途中でデザイン相談会を設けていましたが、どんな意図で場を設定していたのでしょうか?
開催する日時枠だけ設けて、参加するかどうかはメンバーのみなさんの自主性に任せた時間として設定しました。ある人には「ライオンの子育て方式」とも言われたのですが、先ほども話していますが、デザインは受け身だけだとスキルは向上しないんです。自分で実践し、過程を経験してみて取得できるものがある、と考えていて。

この研修は、全部受け身で終わることもできます。ただ、「その一歩先に進みたい気持ち」や「研修を通して、もっと自分が変わりたい」といったメンバーそれぞれの自主性を引き出せる余白を、この時間で設けたのかもしれません。

ーーデザイン相談会を通じて、参加者にはどのような変化が見られましたか?
この時間に参加してくれた人には、明らかに考えが変わったり視野が広がったのでは、という印象を受けました。今回の研修に参加したYELL FORメンバーのほとんどがデザイン初心者。とりあえず素材を配置したけれどこれで良いのか?もっと良いデザインにできるのではないか?といった相談が多く、中には自分が制作したデザインを見せることが恥ずかしいという人もおられました。
それでも、任意の時間に参加する、という自主的なアクションを起こすこと自体が次のステップに進んでいるということですし、制作物に対して他者からのフィードバックをもらい、各自が気づき改善する、という制作物をブラッシュアップするフローが生まれている。受け身姿勢のレクチャーだけでは得られない、自主性や向上心をこの時間に感じました。中には、2、3回相談にきてくれた参加者もいましたよ!

また、この時間に参加してくれたメンバーには、最後のフィードバック会で、制作物のビフォーアフターを紹介してもらいました。一人で作るよりも、他者とのやりとりを経た方がより良いものになることを、相談会に参加出来なかったメンバーにも伝えるようにしたかったんです。

フィードバック会でのGood(良いところ)とMotto(改善できるところ)

ーー最後のフィードバック会では、どのようなことをしたのでしょうか?
この時間は、作成したバナーと、制作意図や制作する上で大事にした点などをまとめたデザインプロセスシートを、メンバーそれぞれに発表していただきました。それぞれの制作物に対してGood(良いところ)とMotto(改善できるところ)の視点で、参加したメンバー同士で意見を出し合いました。

制作物に対して意見を出し合うということは、レクチャー①の対話型鑑賞を通して事前に行っているのですが、この時間は、制作者が場にいるため、逆に意見しづらい人もいたかもしれません。ただ、それぞれの制作物に対して意見を出し合うことは、デザインの制作現場でも実際に行われることなんですよね。

相手に遠慮して意見を言わないことは、良いものを作ることには繋がらないことではないかと。制作物の否定ではなく、より良いものを作るためのコミュニケーションが大事だということを、実践ベースで伝えたかったのです。

YELL FORメンバーが取り組んだ制作物〜鳥取県IJUターンをテーマに
YELL FORメンバーが取り組んだ制作物〜YELL FOR新メンバー募集をテーマに

考えや行動を見つめなおすきっかけになった「デザイン研修」

このレポートを制作している著者自身、はじめは現場で使えるデザインツールを学べると思っていたため、実際に研修に参加してみて、いい意味で肩透かしを食らった張本人でもあります。
しかし、届ける先を常に意識することや、良いものを作るためのコミュニケーションは、デザインの現場だけでなく、他のどんな仕事やプライベートにも応用できる大切なこと。「デザインする過程」には、スキルやセンス以上に考えるべきことがあるのだと教えていただきました。

また、参加者のほとんどがデザイン初心者だった今回の研修。バナー制作の実践を通して、「デザインって楽しい」、「自分でもやってみるとできるんだ!」という声も上がりました。
最後のフィードバック会は、作品に対する作者の考えや完成までの過程を共有し、とても刺激的な時間に。参加者からも、GoodとMottoの様々な意見が飛び交いました。
全員で集まって、何かについてディスカッションする場って貴重!良いものを作り上げるための、この時間こそがとても大切ということを、身をもって学ぶことができました。

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