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加速するESG経営~聴く力なくして実現なし~|聴き合う組織をつくる『YeLL』のnote

こんにちは。エールの篠田真貴子です。

ESG経営やESG投資、最近新聞やビジネス誌でよく目にするようになりました。ESGとは Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字をとったものです。ESG経営とは企業経営は単に利益をあげるだけでなくこの3つの要素を重視する考え方であり、ESG投資とは投資家の方も財務面に加えてこの3つの要素を考慮して投資判断をする方針を指します。

世界は勿論、日本市場においても重視されるESG経営

ESGがなぜ大事なのか。
それは、端的に言えばSDGsを達成するのに必要だからです。*

SDGsとは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のことで、「環境」「経済」「社会」の3つの面からなっています。2015年9月の国連サミットで採択されました。企業経営は社会状況に左右されますから、SDGsの目指す持続可能な社会・経済開発が実現しなければ、企業も長期的に繁栄することが難しくなります。

株主の利益を上げつつも、環境や社会に配慮し、長期的な繁栄を目指すようなガバナンスをしようという考え方が、ESGです。ですから、企業や投資家をSDGsにつなげるフックがESGだ、と言えます。

ESGは、欧米では2004年ごろから少しずつ広まっていましたが、日本で注目されるようになったのは2015年からでした。国民の年金を運用するGPIFが「ESGを重視した投資活動を行う」方針を明確にしたのです。さらに2020年3月、金融庁は、機関投資家の行動原則を定めた「日本版スチュワードシップ・コード」で、機関投資家の投資活動に対して、ESGの要素を含めたサステナビリティ(持続可能性)を考慮するよう盛り込みました。こうした動きが、日本でいま、ESGに注目が集まる背景となっています。


ESG経営の実践において不可欠な「聴く力」

ここで私は、企業がESG重視の経営を行おうとするとき、「聴く力」が不可欠である、ということをお伝えしたいと思います。

『ESGのようなマクロな話題と、「聴く」というパーソナルでミクロな行いに、なんの関係があるの?』と不思議に思われるかもしれません。でも、これまでこの話を、何人かの大企業のESG責任者や経営者にしてみたところ、みなさん「そうですね」とわりと当然のように賛同してくれるのです。そんなに的外れな議論でもなさそうですので、ちょっとお付き合いください。

ではまず、ここで言う「聴く力」とは何か、確認していきましょう。
皆さんにはきっと、仕事やプライベートで「相手の話を聞くことを意識した」ことが良い結果をもたらした、そんな経験があるのではないでしょうか。その時、「相手には相手の事情があるはず」という前提に立ち、その事情を理解しようとしていたのではないでしょうか。

こちらにとっては困った言動を取る相手であっても、その言動の背景には、何かしらその人が良いと思っている、あるいは満たしたいと思っている「肯定的な意図」があります。「相手の話を聞くことを意識した」時には、皆さんは、相手の「肯定的な意図」を理解しようとしていたのではないでしょうか。そのために、皆さんは、自分の都合をいったん横におき、相手に対して「肯定的な」態度で話をきいていたはずです。

「聴く」とは、このように相手の肯定的な意図を信じ、相手が見ている景色や感じていることを理解しようとする態度で受け取ることです。自分とは文脈が異なる相手と、建設的なコミュニケーションをとるには、「聴く」が欠かせません。

次に、ちょっと回り道になりますが、「組織の内と外の断絶」について見ていきます。一般的に、組織の内側ではメンバー同士で様々な文脈を共有しています。それと比較すると、組織の外とはそうした共有は少なく、お互いの背景や事情があまり分かりません。組織は定義上、世の中と自分たちの間に境目を作り、内側に人材や資本、情報を囲って占有し、組織の目的のために活用するものですから、組織の内と外に断絶が起きるのは、仕方ありません。

「聴く」ことは、組織の内と外の間に、いわば「橋をかける」**ことです。投資家、地域社会、行政など、社内とは文脈が異なる社外の相手と、建設的なコミュニケーションをとることです。別の言い方をすると、「聴く」ことなしに、社外のステークホルダーと対話することはできません。

ではここで、ESGの目的をもう一度確認してみましょう。はじめにお伝えしたとおり、ESG経営を通してSDGsを達成したいわけですが、そのSDGsの趣旨は、持続的な社会経済開発のために、公的部門だけでなく、企業も貢献しよう、というものです。

しかし、近代の企業のふるまいを振り返ると、18世紀に産業革命時に煙をもくもく出してロンドンの大気汚染がひどくなったり、児童労働・長時間労働が問題になったり、石鹸や小麦粉などの生活物資に粗悪品が出回るなど、社会的に「悪」をなすことがけっこうありました。当時だけではありません。現代にいたるまで、企業は公害や労働問題や品質問題を繰り返し起こしてきました。つまり、「社会悪」と言えるような、SDGsに反する企業行動が繰り返されてきた、と言えます。

しかし、こうした企業がどれも「悪いことをしてやろう」と初めから意図していたのでしょうか。このような問題が繰り返し起こるのは、偶然なのでしょうか。私はそうは考えていません。

企業が「社会悪」を起こしてしまう要因の一つに、企業という組織体の構造上、組織の内側で起きるコミュニケーションの比重が大きく、組織の内と外の間のコミュニケーションが少ないことがあると、私は考えています。
先に見たとおり、組織の定義上、内と外が断絶しているので、相当意識をしないと、組織の外部と「肯定的意図」を前提に聴くコミュニケーションが、なされないのです。そして、知らず知らずのうちに、視野が狭くなり、独りよがりになってしまう。企業が自然体で活動してしまうと、意図していなくても、結果として、企業活動の副産物として「社会悪」を進行させてしまう構造的なリスクがあるのです。

そこで、組織の各部署が各階層で、「聴く」を意識したコミュニケーションを外部と行っていくと、この構造的な課題が解消される方向に動き始めます。会社の直接のステークホルダーと、それを取り巻く幅広い社会の声をキャッチする体質に企業が変わっていく。インプットが変われば、アウトプットも変わります。キャッチした声を企業の意思決定にいかすことで組織の各所で、SDGsに沿った判断がされるようになるでしょう。
SDGsの専任部署が単独で頑張るのではなく、企業が主体的かつ具体的に、SDGsに貢献できるようになる。つまり、企業が社会から「善き存在」と認められるようになる方向に歩み始めることができます。

まとめると、組織のスキルとして「聴く力」を育成することなしに、真のESG経営の実現は難しい。私はそのように考えています。


(脚注)
* ESG とSDGsに関する説明は、渋澤健氏の「ESG投資で資本主義を再構築する」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2021年1月号)を参照しました。
** この「橋をかける」という表現は宇多川元一氏の著書『他者と働く』から引用させていただきました。


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