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感情や価値観を扱うー組織の自律性が高まる改善アプローチとは|櫻井将さんと考える「組織の体質改善」

今回、エール代表取締役 櫻井将さんと考えるテーマは「組織の体質改善」です。

組織改善への取り組みを続ける経営者・リーダーの方々に向けて、「感情や価値観を扱う重要性」「感情や価値を扱うと、社員はどのように自律的になっていくのか」について、考えます。【編集部 奥澤】

まとめ

・社会の流れは、自律的に働く人を増やす方向
“いつまでに何をどのぐらいやる”など、行動や思考を管理する「KPIマネジメント」から、一人ひとりの感情や価値観を扱って組織を束ねていく「パーパス経営」「DE&I」を大事にする方向へと、社会全体が変化。「個」を扱わざるを得ない状況がある。

・「感情」や「価値観」を扱いにくくする、4つの誤解
「聴いた」ほうがいいと分かっていながらもできない理由。そこには4つの誤解がある。「 聴いてしまうと叶えないといけない」「指摘/指導すると聴くは両立しない」「自分が若い頃は聴かれてなかった」「聴くは上司が部下にするもの」

・「感情」や「価値観」を扱い、キャリア自律につながった事例
「自分の感情を扱い、他者の感情にも敏感になれた(40代・課長)」「フタをされていた価値観に気づき、一歩を踏み出せた(50代・管理職)」など、感情や価値観を扱うことで、キャリア自律につながるケースが増えている。

・「感情」や「価値観」を扱うと、エンゲージメントスコアも向上
「感情」や「価値観」というと、ビジネス社会において“そんな人間的なことをいっても…”と思われる方もいるだろうが、実はそうではない。メンバーのエンゲージメントスコアが上がることがデータでも証明されている話であり、これからの組織においては切り離せないテーマ。

自律的に働く人を増やしていこうという社会の流れ

今回は「組織の体質改善」をテーマにしていますので、最初にどこを目指して組織を改善していくのか?について少し触れておきたいと思います。

個人的な見解ではありますが、僕はいまの社会は、「感情」や「価値観」を扱い、内発的動機で、自律的に働く人を増やしていく流れだと捉えています。図にすると以下です。縦軸が、行動・思考・感情・価値観といった「扱うテーマ」について。横軸が、外発的・内発的といった「動機付け」を表しています。

これまでの組織においては、“いつまでに何をどのぐらいやる”などの行動や思考を管理する「KPIマネジメント」が主流。左下の状態ですね。そこから、一人ひとりの感情や価値観を扱って組織を束ねていく「パーパス経営」「DE&I」を大事にする方向へと、社会全体が変化。右上を目指している状態です。このような社会においては、組織としても「個」を扱わざるを得ない…そんな風に感じています。

「感情」や「価値観」を扱いにくくする、4つの誤解

多くの方も「感情」や「価値観」を聴いた方がいいことは感覚的に分かっていらっしゃると思うんです。けれど一方で、組織としてはうまく扱えないという声も多くいただきます。
なぜなのでしょう?

聴いたほうがいいと分かっていながらもできない理由。そこに4つの誤解があると考えています。


「聴く」の誤解(その1):聴いてしまうと叶えないといけない

部下の希望や要望を聞いてしまうと、叶えないといけないと思われてる方がとても多いんです。しかし「聴くこと」と「叶えること」は同意義ではありません。あなたはそういうふうに感じているんだね、こういう価値を大切にしている人なんだね、なるほど、分かった…と丁寧に感情を受けとめる話と、仕事において「その希望は、会社の状況をみても難しい」と伝える話は両立すると思っています。

「聴く」の誤解(その2): 指摘/指導すると聴くは両立しない

次に、その1と少し似たケースですが、話を聴いてしまうと、指導や指摘ができないと思われている誤解もあると思っています。たとえば、部下が作成した資料についてフィードバックする場面。なるほど、こういう考えでこの資料を作ったんだね、お客さんと話をしたとき、そう感じたからこうなったんだね、と部下の意図を受け取ると同時に「でも、イマイチだな、こことここは直したほうがいいと思う」と伝えることは両立する話だと思っています。

「聴く」の誤解(その3):自分が若い頃は聴かれてなかった

上司の方が抱く“感情的な話”でもあると思うのですが、「自分は若い頃、話なんて聞かれてない」「甘いこと言わず、とにかくやるべき」と考えていらっしゃる方もいます。

昔の組織を振り返ってみると、とても「均一的」。終身雇用の概念で、たくさんの同期と入社して、みんなで同じ寮に住み、同じようなキャリアを歩んでいた。こういう組織においては、感情も価値観もわりと「均一的」だったと思うんです。だから、個別に話を聴いてもらわなくても、満たされていたんじゃないでしょうか。

ですが、今の組織は力の源が「多様性」です。「感情」も「価値観」もむしろ多様な方がいいとされていますよね。だから、それぞれに対して「聴く」をしていかないと、「自分の感情や価値観が受け入れられている」と実感できないし、それが理由でメンバーが離れてしまうケースも起きているのだと思います。

「聴く」の誤解(その4):聴くは上司が部下にするもの

話を聴くとなると、「上司が部下にするもの」みたいな認識が強いかと思うのですが、実は逆においてもとても重要だと考えています。「意図取り」という言葉があるのですが、これは部下が上司が言ってる行動や考えの“意図”を掴んでいく話です。なぜ上司はそのような考えに至ったのか?どのような気持ちで意思決定したのか?などを、上司の立場になって考えていく。つまり、「聴く」は部下が上司にするものでもあるんです。


「感情」や「価値観」を扱い、キャリア自律につながった事例

次に「感情」や「価値観」をきちんと扱えるようになると、どのような変化が起きていくのか? エールの『社外人材による1on1(YeLL)』『聴くトレ』といったサービスを多くの企業に利用いただく中で見えてきた事例を紹介していきたいと思います。

【事例1】自分の感情を扱い、他者の感情にも敏感になれた(40代・課長)

エールの『社外人材による1on1(YeLL)』を週1回・20週実施された40代・課長の方の事例です。

最初の3回目ぐらいまでは、なかなか手応えは感じられなかったのですが、そこから回を重ね、ある時、プライベートで感じたつらい気持ちを口に出したら少し楽になったとお話されています。自分の気持ちを話す効果を実感でき、さらには自分が感情を表に出さないようにしていると気づけたと言うのです。

ここまでくるのに2ヵ月ほどかかっています。日本のビジネスパーソンは行動を話すのは得意ですが、自分の感情を言葉にするのはあまり得意ではないんですね。ですが、ここから自分が変わってきていると確認できたり、周囲に良い影響を与えるようになりたいと思えたり…自分の感情に気づくことで、だんだんと周りに意識が向き始めています。最後には、自分が体験した「安心して話せる」「話を聞いてもらえる」という環境をメンバーにも提供していきたいと考えていらっしゃいました。

EQ(心の知能指数)では、ビジネスで成功している人の特徴として、「自分自身や相手の感情を理解できる」「自分の気持ちを上手くコントロールできる」「相手の気持ちに働きかけられる」と定義されていますが、まさにこの方の話とリンクします。自己を認識し管理することで、社会性や人間関係管理の力が高まっていくんです。

【事例2】聴かれる体験を通じ、1on1力が向上した(40代・管理職)

エールのサービス『聴くトレ』を利用された40代・管理職の方の事例です。

『聴くトレ』とは、聴く力の向上を目指すサービスで、スキル習得に必要な「関心」「理解」「実践」の3要素で研修プログラムが構成されています。まずは自身が良質な聴かれる体験から、聴くことに「関心」を持つ。そこから、聴く手段の一つとして1on1を体系的に学び「理解」する。そこから、1on1を「実践」して振り返る。このくり返しができる仕組みになっています。

いきなり部下に1on1をするのではなく、まずはエールの担当者相手に1on1の練習をするところから始め、フィードバックをもらい、ちょっとずつ実践に活かしていける。そんなサイクルがあります。

40代・管理職の方の変化は、『聴くトレ』を受けて体系的に学べただけでなく、自身の「聴く姿勢」に気づけた点です。1on1体験を通して「自分が、自分のやりたいことに引き寄せて、相手の話を聴いていると気づいた」とおっしゃっているんです。そもそも「聴く」は、自分の評価や判断を入れず、シンプルにその人の意志・意見を聴く行為を意味しているのですが、それができていないと認識されたんですよね。

そうすると、たとえば部下が困っている場合。“こんなのこうすればいいのに”と、自分の視点で考えるのではなく、部下は何に困っているのか、どう困っているのか…相手の関心事に立って考えられるようになる。自分なりの「聴く」方法が見つけられたそうなんです。聴かれた体験によって自身の1on1力が向上し、結果、組織の中で「聴く」が浸透していった事例です。

【事例3】フタをされていた価値観に気づき、一歩を踏み出せた(50代・管理職)

最後は、ミドルシニアの話です。これまでの組織では「同じ会社にずっといればいい」だったところから、社会全体の変化を受けて、急に「自分の人生を、どうやってチョイスしていく?」と問われている世代です。エールにも、いまさら言われても…と思われるミドルシニアの方が増えているとの声をいただきます。

そこに対して階層別の「集合型研修」を実施される企業が多いんですが、よく話を聴いてみると、研修をやって終わりになっているんです。けれど、考えてみてください。20年・30年といった社会人生をたった1日で棚卸しするのは、現実的じゃありません。そんな簡単な話ではありませんし、もっともっと複雑なもの。いろいろな角度から深く考えなければならないテーマなんですよね。エールの『社外人材による1on1』では、階層別の「集合型研修」で関心を持ったことに対して、個別でフォローアップ。1on1を通じて、本当に深めたいテーマを探っていきます

一部上場企業に勤める50代・管理職の方の事例です。まず最初にこれまでの社会人生を振り返る中で、夢中に仕事に向き合って満たされていた若い頃と、管理職になってからの10年ほどを比べ、悲しさが込み上げてきた、とお話されています。さらには、過去を振り返り、そのときの感情を丁寧に言葉にする中で、大切にしている価値観に気づけたといいます。

この方は、1on1で自身の「感情」や「価値観」を扱う前は、正直あと5年ぐらい粘れば終わりだ、リタイヤだって考えていたそうなんですね。ですが、人生100年時代、ここから仕事人生が30年あるとしたら“自分はどうありたいか?”を大事にしたいと思った。そして最終的には、自分のやりたいことにチャレンジしようと、会社を出る決断をされたんです。新たな場所を見つけられたことに喜びを感じたし、考え抜いた自分も褒めたくなったとお話されていて、感情や価値観を深く掘り下げたことで、「キャリア自律」された話だと思っています。

「感情」や「価値観」を扱うと、エンゲージメントスコアも向上

感情・価値観を深く掘り下げると、一人ひとりの「キャリアの自律」につながることが数値にも出ているので、それをご紹介したいと思います。たとえば、以下の図。YeLLのサービス利用/未利用でデータを集めたものです。「ミッション・ビジョンへの共感」「会社の方針や事業戦略への納得感」「経営陣に対する信頼」「事業やサービスへの誇り」…あらゆる項目において、スコアがアップしているんですね。

また、もう一つ、面白いのが以下のデータです。「仕事量は適切ですか?」「挑戦する風土はありますか?」に対してもスコアがグンと上がるんです。仕事量はYeLLのサービスを利用する前と後で変化があったとは考えにくいのに、不思議です。

一人ひとりが聴かれる体験を通じて自己理解を深め、自分の感情や価値観に気づく。そして、仕事に対する納得度や向き合い方が変わっていく、まさに「自律的に働く」という話なんだと思います。


「感情」や「価値観」というと、ビジネス社会においては“そんな柔らかい話をしても”“人間的なことをいっても…”と思われる方もいるかもしれませんが、実はそうではない。きちんとデータでも証明されている話であって、これからの組織においては切り離せないテーマなんだと考えています。

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今回の気づき・学び

今回の学びは、「聴く」の誤解について。4つの誤解が紹介されていましたが、私自身も「聴くこと」=「要望を叶えること」と捉えていたように思います。そして、同時にそれは部下のご機嫌をうかがうような、そんな印象を持っていました。

部下の要望を叶える、ご機嫌をうかがう…この姿は、これまでの組織で理想とされていたリーダー像とは相反するもの。上司は正解を知っている存在で、部下にとって尊敬される存在でなければならなかったからです。管理職はこうあるべきだ、と無意識に思い込み「聴くこと」をより難しくしているのかもしれません。

しかし、これからの組織で求められるのは「方向を示し、仲間と相互に支援しながら、試行錯誤するリーダー」。自身の中でもリーダー像を新たに再定義できると、思い込みから解法され部下に対してもフラットな視点で「感情」「価値観」を扱えるのかもしれないと思いました。

【4月5日(火)13時〜@zoom】エール主催セミナー
経営課題としてのエンゲージメント
〜人的資本が企業価値を左右する
https://yell-seminar220405.peatix.com
「エンゲージメント」と一概に言っても、そのカバー領域は広く
どのような打ち手や運用を講じたらよいのか、
号令だけでは「なかなか組織が変わらない」とお感じではないでしょうか。
本セミナーでは、経営課題としての「エンゲージメント」の理解を深め、
向上に向けたアプローチについて、『LISTEN』を監訳したエール取締役 篠田真貴子さんにお話しいただきます。
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日時:4月5日(火) 13:00~14:30
会場:オンライン(zoom)後日、録画アーカイブをお送りします。
※参加費無料 ※当日参加チケット/録画視聴チケットの2種の参加形式
詳細・お申込みはこちらへ。お待ちしております。


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