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読書メモ #17-18『冷静と情熱のあいだ』 江國香織・辻仁成

一つの物語を異なるキャラクター視点で描いた連作小説、ということを知って気になって借りてきた。
どうやら映画化もされているらしいけれど、ひとまずはおいておく。

Rosso(イタリア語で赤)とBlu(イタリア語で青)とで分かれていて、前者があおい視点、後者は順正視点。

私はなんとなく江國さんのRossoの方から読んだ。

前半から中盤にかけてのほとんどが、マーヴとの生活についてだった。順正という忘れられない元恋人がいる、ということだけがちらほらと書かれていて、でもそれがしっかり明かされないまま現在の生活についてこれでもかと続く。親友の結婚と出産や、仕事先での人間関係の描写は必要あるのだろうかと疑わしく読み進めていたけれど、いざ読み終えると、あれらすべてがあおいをフィレンツェのドゥオモに向かわせたのだろうなと思った。

恋愛ものはどうしても女性視点、つまり今回はあおい視点で読んでしまうので、マーヴに強く感情移入することはなかった。
それでも、「僕はきみの人生に、まるで影響しないんだ」と言って怒ったマーヴがあまりにも辛くて読んでる最中一旦閉じてため息をついた。普段のマーヴが冷静で大人びている(ように努めている)ので余計に。恋人の心の中にずっと別の人間がいることに気がついて、それでも一緒にいることを選ぶのは自己犠牲的だと思う。それにしても「僕はきみの人生に、まるで影響しないんだ」というセリフはやっぱりあまりにも悲しい。

読み終えてすぐにBluに移った。
Rosso とは違って、あおいの描写は最初から頻繁に出てくる。現在の恋人の芽実との比較があまりにも気持ち悪くて、Rosso で勝手にうっとりしていた順正を少し嫌いになった。(前述の通り女性側に感情移入するのでBluでは完全に芽実視点だった)
感情の起伏という点では、圧倒的にBluの方が上だった。
一番は電話のシーン。数秒間の留守電に雨の音が混じっていて、イタリアに住む友達にミラノの天気を聞くために電話してしまうところ。あおいからの留守電だと気付くためには他にもっとシンプルな方法があったと思うけど、たっぷりとロマンティックに描かれていて感動してしまった。内容、というよりかはこの展開自体に飛び上がった。
そして、Rosso では多く語られていなかったことがいくつも明らかになった。自分の父親があおいに子供を堕ろすように言ったのを、数年越しに知った順正。もっと早く知っていればこんなことにならなかったのになと思いつつ、恨むべきはどう考えても父親な気もする。母親を亡くして、父親もこんな人間で、そればかりは順正に同情した。芽実の前でやるべきではなかったけれど、父親に殴りかかった順正はかっこよかった。

再会を果たした2人は、結局お互いがお互いに今の恋人と続いていると思ったまま再び別れた。真実を伝えたところで2人が当時の関係に戻れるわけではないけれど。当時は明るいところでの行為を拒んだあおいが、再会して光の中で順正を受け入れて、それに喪失感を味わう順正が痛々しかった。修復士として過去に向かって生きることに意味を感じていたように、順正は記憶の中のあおいをただ閉じ込めておきたかっただけなのかもしれないと思った。その点で言えばあおいは違った、と思う。

結局、Rosso とBlu のどちらを先に読むべきとされているのかは謎だが、大半の人は私と同じでRosso から読んでいるらしい。順番が逆だったら少し違う感想を持ったかもしれない。

無事に感想も書き終えたので映画の方も観てみようかと思う。

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