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仕事とセクハラ

企業においてセクハラが問題視されるようになってから、私たちの働く環境は良くなったのだろうか?

私も社会人としてそこそこキャリアを積んでいるが、セクハラについて同性に相談したことがあまりない。だから、他の女性がどのぐらいセクハラを受けていて、自分がそれと比べてどうかということは分からない。

だってセクハラについて人に話した時、「そのぐらいで」とか、「大したことない」と言われたら惨めな気分になるだろう。

言動がセクシャルハラスメントに当たるかどうかは、それを受けた本人がどう感じるかであって、加害者やその他がどう感じるかではない。

例えば、「髪がきれいだね」と声をかけられた時、それがセクハラに当たるかどうかは、言った人物の清潔感や関係性、言われた方の性格や気分にもよるかもしれない。

にもかかわらず、やはりちょっとしたセクハラは人にも言いづらく、騒ぎづらい。おじさんたちは、「何でもかんでもセクハラって言うなら、怖くて何も話せなくなっちゃうよねえ」なんて嘯いている。その言葉の背景には、「大げさなんだよ」という意識が見え隠れしている。

セクハラになる可能性のあるような言葉しか出てこない己の口を恥じたらどうだ?

前置きが長くなったが、今日は私が今まで受けて来たセクハラ(だと私が感じていること)について話そうと思う。


体に触りたいと言われる

はじめてセクハラを受けたのは、社会人一年目の時だった。

ある日、取引先の課長がドイツビールの美味しいお店に連れていってくれると言うので、自社の先輩たちと共にご相伴にあずかった。その課長はもともと好色そうな男だったが、酔うとさらに話はシモにシモにと流れていく。

私はどちらかというと、男性と性的な話題を繰り広げるのに積極的な方ではない。女性としてはしたないとか大人げないという気持ちが先に立つので、赤裸々な下ネタは女性同士だけで話したい。だからこうしたシチュエーションでは、私に話を振るなよ、というオーラを出しつつ、適当に笑顔で頷きながらお酒を飲むようにしている。

だが何の話の流れか、その課長は私の方を見て、「俺はいつもYeKuちゃんの〇〇(体のプライベートな部分)を触りたいと思ってるよ」と言って手を動かした。

今思い出しても気持ち悪い……。

私は「ははは、やめてくださいよー」などと言って言葉を濁すしかなかった。

この時、嫌だったのは、その発言そのものもさることながら、同席していた自社の男性社員たちが縮こまって見ないフリをしたことである。

彼らは揃いも揃って借りて来た猫のようであった。取引先の課長だから忖度して、自社の新人女性社員を攻撃から庇うつもりは無かったらしい。それでも男なのか?

私が私の先輩女性社員だったら、話題を変えるなり、庇って矛先を自分に向けるなりするだろう。

書いていて気づいたが、今現在、私が不快なことをされた時、顰蹙を買っても毅然と物を言うのは、誰も守ってくれないから自分で対処するしかないと諦めていることが原因かもしれない。

とにかく、その課長はその後確信犯的に「俺のこと、セクハラで訴えないでね」などとのたまっていたし、場は冗談ということで流れて行ったのだった。

私は当時気にしないフリをして、大したことないと自分に言い聞かせて、本当はすごくショックで気持ち悪かった。だから今でも覚えている。

彼氏いるの? 料理はするの? と聞かれる

地味に嫌なのは、彼氏の有無や料理するかどうかを聞かれることだった。その質問は、潜在的に恋愛対象になりうるかどうかのスカウティングであることが多い。

なんでそんなこと聞くのか? 仕事に関係ある? どうせ休み時間に、フリーの男性社員向けに行う情報提供の一環でしょ?

そして、「彼氏がいる」と言った時や、「彼氏がいない」と言った時の驚きの反応、もしくは驚かない反応、どちらも失礼でおせっかいだ。

「放っておけ」と思う。

そもそも、彼氏の有無なんてしばらく話していれば何となく分かるものだ。

「料理はするの?」に至っては雑談の一環として行っていることもあるだろうが、もうあからさまに女性としての価値を値踏みされているのが分かる時がある。

なんで合コンでもないのに、偉そうにお前なんかにスペック評価されなきゃいけないんだよ。なんで女性が料理するのが前提なんだよ。ママが欲しいなら永遠に子ども部屋おじさんをやってろ

……失礼。

彼らはもしかして、彼氏がいないということが噂話として出回ることによって、独り身の女性たちがアプローチされやすいように配慮しているのかもしれない。

完全に余計なお世話。

奥手な女子のことは知らないが、私なら、気のある異性には彼氏がいないことを自分でアピールする。何かの節に、「彼氏もいないので、寂しい生活ですよ」とさりげなくアピールするのはそう難しいことではない。

料理?

こちとら、気になる異性がいる時限定で手作り弁当を持参して行くのである。こちらから助けを求めない限り、誰かの力を借りる必要はない。

とにかく、女子力スカウティングをするのはやめてほしい。これには長年苦しんできた。本当に、長年である。

派生で、「YeKuさんてエプロンするの?」と言われたことがある。気持ち悪い。私がエプロンをするかどうかが仕事に何の関係があるんだろう。彼は脳内で私のエプロン姿を想像しているようだった。まさかとは思うが、想像の中の私が(エプロン以外)裸じゃないことを祈るばかりだ。

お似合いだと言われる

しばらく働いていると、よく喋る同僚というものができる。

社会人3年目ぐらいだっただろうか? よく隣の席で仕事をするマルコメのような男性社員がいた。

マルコメのような男性社員とは何かと思うだろうが、まあ。マルコメとしか言いようがない(坊主で小さくて細いのである)。

彼とは仕事上、よく話すし、暇なときは雑談もする。私にとってはそれだけの相手だ。

うん、正直に言うと、私はマルコメが生理的に受け付けなかった。人としても異性としても、側にいると嫌な気持ちがして、少し吐き気がする。

だから彼と話す時は失礼でない程度に目線を外していたが、外から見ると会話が盛り上がっているように見えたらしい。

ある日、上司に

「お似合いだよ」

と言われたのである。私は所かまわずゲェェと吐きそうになった。

周りから見ると、私と彼は吊り合っているのだろうか? こんなやつと? 私はものすごいショックを受けて、プライドが傷ついた。こいつとどうにかなるぐらいだったら、一生独り身で良いと歯ぎしりした。

本当に嫌だったが、「やめてください」と言っても、上司はにやにやするだけだった。冗談ではなく吐き気がするので、本当にやめて欲しかったが、なんと伝えれば深刻さが伝わるのか分からない。今でも分からない。

ああ、哀れマルコメ君に何か悪い点がある訳ではないのだが、以降私の態度が劇的に悪化したのは上司のせいである。

抱きつかれる

同じく社会人3年目ぐらいの頃、私は取引先の部長に妙に気に居られていた。

年齢は60歳くらいだったと思う。彼は、私のお気に入りの上司のことを毎日のように怒鳴りつけながら、一方で私を見たとたん、ニコニコして猫なで声になるのだ。 

特別、彼に対して思うところはないが、マイフェイバリット上司を激しく攻撃するのでどちらかというと嫌いだった。

大きい企業にはたまに、こういう風にお気に入りの従業員を作って偏愛する役職者はいる。こうした人物の愛憎は急に入れ替わる可能性があるし、とにかく私のマイフェイバリット上司を(略)なので心は許せなかった。取り入って出世を目論むのが賢い戦略だったかもしれないが、私はどちらかというと自分の利益よりも好き嫌いを優先するところがある。

なので適当に機嫌を取って、愛想笑いでごまかすように接していた。

そんなある日、飲み会でこの部長が「わー」とか言いながら、私をあたかもテディベアのごとく抱きしめたのである。

私はびっくりして、どう反応していいか分からず固まったが、少なくとも嬉しくは無かった。変なところを触られたわけではないが、私の体は私のものだ。許可なく私に触らないで欲しかった。

部長はすぐに離れてフラフラと他へ行ったが、嫌な経験だった。

そして、もっと嫌だったのはこの後の後日談である。

私は自社の上司にその件を相談した。彼はうんうん、と私の話を聞いてから、ポンと私の肩を叩いて微笑み、
「でもさあ、もうおじいちゃんだから。多分そういう気持ちじゃないと思うよ」
とコメントしてくれた。

そういう問題じゃねーんだよ。

この男はクソだ。またしても、自社の人はいたいけな若い女性社員(だった)私を守ってくれなかった。大っ嫌いだ。

卑猥な単語を言われる

社会人五年目くらいの頃だろうか。かなりヤンチャな感じの取引先の男性課長がいたのだが、彼は酒癖がとても悪かった。

彼は新入社員に日本酒を一気飲みさせて救急搬送させるようなクソ野郎だった。

そして、ある日の飲み会で、彼は私の席の方に来てウザがらみを始めた。彼は周囲の人たちに、ここに書きづらい伝統的な特殊性的嗜好についての固有名詞を述べ、「〇〇って知ってる?」としつこく聞いて回った。

(えげつない、下品すぎるので口に出したくないその名詞が何なのかはご想像にお任せします)

そんなことを聞かれた時、開いた口がふさがらないと言うか……。官能小説でもよう出ないそんな卑猥な単語を、まさか実在する成人男性から浴びせかけられるとは思っていなかった私は、内心本当に気分が悪く、その場にいるのが嫌だった。

私が黙っていると、彼は「YeKuはさあ、バカなんだよ、バカ。本当にダメだよお前は。なぁ、みんなもそう思うだろ?」などと私を面罵し始めた。

その時私がどんな反応をしたかは覚えていない。何とも思っていないのではなく、辛すぎて記憶を失ったんだと思う。あまりにも悔しくて悲しくて、腹立たしかったんじゃないだろうか。

そして、お決まりのごとく、その件を半ば泣きながら自社の上司に相談した時、

「そんなこと言われてたの? 知らなかった。いやあ、でも、あの人の気持ちも分かるんだよね。あの人も、私生活が大変だからさ」

と言われた。

この時の絶望感はよく覚えている。

どうして、部下を守ってくれないんだろう? どうして、飲み会の席で部下が卑猥なことを言われて、面罵されているのに、気づかないんだろう? どうして誰も私の味方になってくれないの? 信じてくれないの? 見てくれないの?

あまつさえ、部下を傷つけた相手を庇うのである。

この後私はメンタルを崩し、休職から退職に至った。

書いていて思ったが、この会社の男性社員はみんなクソじゃない? もっと早く辞めて良かったのに。

まあ、とはいえ全員がクソということもなかった。何人かは守ってくれる人もいた。マイフェイバリット上司とか。とはいえ、みんなが自分のことばかり考えていて優しさが無い人たちの中で働くのは、本当に大変だ。

美少女ゲームのポスターを見せられる

在宅勤務になった後、カメラONで仕事をする時に、ある男性社員の背景が美少女ゲームのポスターでビッシリだった。

美少女ゲームというのは、いわゆる18禁のゲームだ。したがってそのポスターはだいぶ肌色だった。

私はそれを見るのが本当に嫌だった。

何もこの年になって、そういったゲームを見たことも触ったこともない、とか、恥ずかしい、という訳じゃない。

特定の男性社員の性的嗜好が垣間見えるのが嫌なのである。

彼が何をベッドの友にしているかなど、知りたくないのである。見せられたが最後、ことあるごとに「コイツこんなこと言ってるけどああいうのに喜んでるんだよな」と変な印象がついてしまう。

以前、男性社員の噂で、「彼は実家に暮らし、浮いたお金で風俗に全給料をつぎ込んでいる」と聞いたが、もうそんな人、何言われても「その指示もすべて下半身のためなんだな」としか思えない。

以前、上司の噂で、「彼は一人目の奥さんが妊娠中に、二人目の奥さんと浮気してその後再婚した」という話を聞いたら、もう尊敬できなくなった。そんな人、人格的に尊敬できる? そんな人に評価されて嬉しい? 否だ。喋りたくもない。

仕事とプライベートは分けて考えたいが、余計な情報があると仕事にも影響が出る。

それに、もっと前提の問題として、仕事中に肌色の美少女は見たくない。気が散る。

うまく隠して接していたが、私はその美少女ポスター野郎の無神経さが嫌いである。今は案件を離れたので一緒に仕事をしていなくて良かった。でも、向こうは私に(どういう種類にせよ)好意を持っていたと思う。なぜなら、全てのことに関わらず、私は彼に優しかった。

自意識過剰だと思われるかもしれないが、なんかそういうのは分かるものだ。

そういえば、前に話したマルコメと同じく、彼も坊主であった。髪を剃ると突然私への感情に目覚めるのだろうか?

ああ、神様! なんで嫌ってる人にばっかり好かれるんだろう? それなのに、好きな人にはあまり好きになってもらえた記憶がない。私が上司に告白して玉砕した話する?

とにかく、リモートワークによって生まれた悲しいセクハラだった。

最後に

仕事だけに集中したいのに、セクハラはいつまでも付きまとう。

私は20代の頃、30歳を超えたらこうしたセクハラや、恋愛事件に悩まされることも無くなるだろうと思っていたのに、まだ悩みは尽きない。もっと年齢を重ねれば女として見られることも無くなるのか?

なんとなく、そうじゃないような気がしている。セクハラを受けるのは女性だけに限らないが、結局女性は生まれた時から性的に搾取され、死ぬまでそうなのではないだろうか。

セクハラぐらい我慢しろと言う方の気持ちは分かる。それが何だ? 耐えれるだろ、と。

耐えられるだろう、もちろん、嫌な気持ちを飲み込み、自分の尊厳を切り売りすれば。

でも、仕事と関係ないところで苦しめられ、自分の体や意志が尊重されないと感じるのは、本当に不幸なことだ。

それが防げるなら防いで欲しい。私だけでなく、これから働く全ての人、今働いている全ての人がこうした苦しみを覚えず、周りに理解され、守られるような社会であって欲しい。

セクハラを受けた本人が笑っていると大丈夫だろうと思ってしまうが、本当はそうではないかもしれない。私自身も苦しみたくないが、自分が苦しんで来たからこそ、苦しんでいる人の支えになれれば良いと思っている。


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