明治生まれの日本語話者の発音リズムを機械で計測している人がいた
中学時代はパソコン部にN88-Basicを使ったゲームやちょっとだけデータベース作り(データを入れるのではなく,データベースそのものを作る)をしていました。そのおかげでひとまずスクリプト言語にはほとんど抵抗感がありません。
また,この副産物なのかもともと好きなのか,ざっくりと機械関係にも関心があり,学部時代からコンピューターでの音声分析を独学で勉強していました。この分野は日本でもだいぶ進んでいる印象があります。思いつくところだとやはり杉藤美代子先生の一連の研究はとても有名です。
さらに戦中の1942年に公刊された千葉勉・梶山正登による母音の生成・知覚に関する研究では,X線や電磁オシログラフ(音声を波形表示する機械)が用いられており,この研究は世界中で引用されています。
さて,この千葉・梶山の研究とほぼ同時期の1933年に日本語のリズムに機械計測(録音)を使って研究している人がいました。著者は土居光知です。
土居光知は英文学者ですが,日本語のリズムに関する研究も多く残しており,著作集の1つはまさにリズムがテーマになっています。
少し日本語のリズムについて簡単に説明すると,日本語はモーラ(拍)と呼ばれる仮名1字に相当する単位がリズムを作る単位として重要だと言われます。しかし,2モーラのまとまりも音声の単位として非常に重要であることが指摘されています。例えば,名前を縮めてあだ名を作るとき,サチコ→サッチャン,ユウタ→ユークンのように元の名前を2モーラ分残しますが,サチャンやユクンのように1モーラのものは認められません。
この単位(フット)の重要性を指摘したものとしては別宮貞徳(1977)『日本語のリズム─四拍子文化論』がよく引用されます。
別宮は日本語に1モーラ語が非常に少ないことや,「夏草や つはものどもが 夢の跡」という句を声に出して読むと「夏草や」の後に休符が入り,2モーラ×4拍子を基本とすることなど重要な指摘をしています。
土居光知は1933(昭和8)年に録音によって2モーラがリズムを作っている点を明らかにしようとしました。土居がやった実験の概要を引用しつつ書いていきます。
要するにレコードに声を録音してそれを再生して自動で音波を書かせ,もう一度再生して文字を書き込んでいます。中略していますが,そこにはどう記録すべきかかなり細かい注意書きがありました。なお録音は小学生と著者によって行われています。
著作集では結果の図をきれいに書き換えていますが,もとの論文には音波の書かれた図があります。
右端からカタカナが小学生,平仮名が著者(土居)の録音です。論文によるとそれぞれの時間は次のとおりです。
土居はこの録音から2モーラ単位での発音が基本にあることを主張しています。
録音の正確性など,今の目で見れば厳しいところもありますが,この時代に機械を使った客観的な方法で研究していた人がいることや,それがどう可能だったか分かったのは個人的には大きな収穫でした。
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