キャンパスことばをざっくり紹介
一定の集団,地域でしか用いられない言葉というものがあります。まずまっさきに思いつくのは方言でしょう。これは地域による違いですが,他にも社会集団による違いもあります。例えば,警察の中では犯人を「ホシ」と読んだり,聞き込み捜査を「地取り」と呼んだりします。
こういったある集団内で使われる言葉はジャーゴン(隠語)のひとつとされます。私が学部で勉強していた90年代後半には大学のキャンパス内で使われる隠語としてキャンパスことばの研究がそこそこ盛んに行われていました。ちなみに私は漢字でキャンパス言葉と書いた方がしっくり来るんですが,どうも検索でも「ことば」の方がヒット件数が多いのでこちらを使います。
先日,ツイートでこれに言及したものがあって思い出したのでちょっとだけ記録をしておこうと思います。
キャンパスことば研究の今
すでにこのツイート(今は「ポスト」か)への反応で出ていますが,「大学方言」というのはキャンパスことばが該当します。ちなみに英語は campus slangやcampus jargonがあり,定まっていないように見受けられました。
キャンパスことばに関する総括的な論文としては中東靖恵(2004)「キャンパスことば研究のこれまでとこれから」がよさそうです。
https://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/53813
研究史を見てみます。中東論文にも書かれているようにキャンパスことばの研究は「1980年代の末あたりから1990年代にかけていっそう高まった」ものです。中東論文に言及されている研究では1988年の『現代若者コトバ辞典』がありますが,同時代だと1984年の次の文献があります。
越野一汀「国文学ロビー みんなで喋れば怖くない キャンパスことばの今昔」『国文学 : 解釈と鑑賞』49(3),p198~199
中東論文は2004年の公刊なので,その後の研究を国立国会図書館オンラインとCiNii Researchを使って補充してみました。
※ 「中日大学〜」は中国と日本の大学の対照研究でした。ご指摘ありがとうございます。
見やすいように表にします。一部論文が混ざっていて,『キャンパスことば集』の類とは違うかもしれません。
これを見ると,日本以外の大学や高専にも広がっているのがひとつの特徴と言えそうです。
研究点数を見ると,次のように1990年代がピークと言えそうです。
1980年代 4本
1990年代 25本
2000年代 15本
2010年以降 8本
何をキャンパスことばとするか?
中東論文でも言及されているキャンパスことばの定義はちょっと議論がありそうです。私が気になるところを2つ挙げると,ひとつは他大学では使われていないものに限定するかどうか,もうひとつは単なる縮約の類でないかということもありそうです。
他大学で使われていないかというのは,例えば北海道の大学では授業時の「時限」のことを「講時」と呼びます。なので,「1限目」ではなく「1講時」とか「1講目」とかになるわけです(どの大学で使うかに関しても面白いのですが今回は割愛)。それではこれって「キャンパスことば」でしょうか?キャンパス内部で使われる言葉であることには間違いないですが,使用範囲はけっこう広いです。同じことは関西地方の「学年」を表す「回生」にも言えそうです。
単なる縮約というのは,例えば大東文化大学の東松山キャンパスにある広場はキャンパスプラザと呼ぶのですが,これを学生はキャンプラと呼んでます。キャンパスプラザそのものは単なる施設名ですし,キャンプラという略し方も日本語としては非常にありふれています。
こう書いていてたぶん私としては「他大学で(わりとすぐに)通じるかどうか」ということ,「日本語の造語法としてどれくらい一般的か」というあたりが気になっていそうです。ただ,「大学のキャンパスで使われている特徴的な言葉」という点ではこれをキャンパスことばとして集めることは一定の意義があるとも言えそうです。
いずれにせよ,その言葉の使用範囲,理解範囲を合わせて記録することは大事なように思います。
北星学園大学のキャンパスことば
勤務している北星学園大学にもキャンパスことばと呼べそうなものが少しあるので,備忘録として少し記録しておきます。
ジョ\ーホー(情報入門、情報活用という科目をまとめて。ジョーホー ̄の人もいる)
支援課(教育支援課,就職支援課など事務をとにかくまとめてそう呼ぶ)
ナンパチ(南郷18丁目。大学外でも使われているが,かなり地域限定的な略し方の様子)
ニッ\ピョー(日本語表現のこと。かつて文章表現だったときはブンヒョー ̄)
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