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自閉症と精神医学的問題

(8,930文字/個人差はありますが、約14分~22分程で読めると思います)
こんばんは!夜分遅くの更新となりすみません。今回はこれまでの臨床経験の中で勉強してきたことの備忘録として残しておこうと思います。テーマは「自閉症と精神科医学的問題」です。医療従事者にとっては当たり前の知識かもしれませんが、そうでない方には馴染みないことかもしれませんので、お付き合いください。

自閉症とカタトニア

自閉症の方では、「カタトニア(catatonia-like deterioration)」という症状が併発することがあります。この現象を報告したのは英国のローナ・ウイング先生です。2000年のデータですが、15歳以上のASD(知的障害があってもなくても)の17%にこの症状が見られたと報告されています。

具体的には、

  • 動きがフリーズする

  • 「どうぞ」などの促しがないと動き始めないなどの症状が思春期以降に出ることが多い

とされています。もちろん、フリーズだけではなく、「行動が止められない」という現れ方をすることもあります。例えば、自閉症の方に見られる常同行動(同じ行動を繰り返す。例えば、ジャンプを繰り返すとか)でも、カタトニアの場合には「止められなくなっている」こともあります(見極めるのは難しいですが)。
   
精神科領域では、「カタトニア」は統合失調症の運動異常として知られています。うつ病や脳炎の後遺症としてもみられるようで、無言・無動。蝋屈症(まるで蝋で固めたように固まってしまう)という症状がでることも知られています。

ただ、ASDにもこれと似たような症状が見られ、これを「カタトニア(catatonia-like deterioration)」と、ウイング先生たちはよんでいます。生活上ではどんな困難としてでるのか、いくつか例を出しながら整理したいと思います。

・促しがないと行動を始めるのが遅くなったり、困難になる。
→(例)「どうぞ」と促さないと食事を取れない。いつも促しがないと行動が止まってしまう。
・途中のフリーズ
→(例)一緒に外を歩いていても、急に立ち止まってしまう。お風呂に入る時に入浴しようとしたのにその姿勢で止まってしまう。階段を登る一段目の足が出る時に止まってしまう。
・境界線を越えることが困難
→(例)歩道の割れ目や段差を越えることができない。敷居を越えるのにうまくいかない。
・活動終了ができない
→(例)いつまでも同じことを繰り返してしまう(常同行動とは別)
・明らかな発話の減少
→(例)自分から話し始めることが極端に減る
・完全緘黙
→(例)本来、人とやり取りする能力もあるし、していたのに全く喋らなくなる
・衝動的な行動
→(例)普段は動きがスローだったり、固まりがちなのに、急に自分の目指す方に走り出す

これらが全てではありませんが、こうした症状がみられたりします。特に目立つのは、促しがないと動けない、なかには直接触ったり、介入しないと歩けない、食べ物を口まで持ってこれないなどです。  

自閉症支援を見直すとはどういうこと?

こうした時にどうしたらいいのでしょうか。かつては、食事が取れなくなってしまう、どんなに周囲が頑張って促してもトイレで排泄ができず失禁につながるなどの重いカタトニアが多く報告されていました。ただ、近年では「スムーズに歩いていると思っていたら、急に止まってしまう。促せばまた歩いてくれるが、また止まる」などのカタトニア症状がみられる自閉症の方にお会いすることが少なくありません。
         
そうした時に考えることは、「薬物療法」が最初ではなく(もちろん、使用することもあります)、最も大切なことは自閉症支援の見直しです。まずはご本人の特性をあらためて評価し直すことです。例えば、
・知的水準
・自閉症特性
・コミュニケーション
・生活スキル
などを、「本当に今の見立てであっているのか?」と見直してみることです。

見立てと今の支援の理由を客観的な理由で説明できるか

個々の得手不得手や、スキル、特性を「多分〇〇だと思う」ではなくて、「座ってくださいなどの日常的な指示ではなくて、教材を持ってきてくださいなど馴染みのない指示を出したら理解が難しいようでしたが、指差しをしながら再度指示をしたら応じてくれました。だから、口頭での指示は2~3語文では不確実で曖昧な理解です」など、ある程度根拠を持って説明できることがどれくらいあるでしょうか?
  
よくあるのは「前はできていました」「いつもはできます」というものですが、そうした環境によって発揮できる力が異なること自体が「不確実」「環境に左右される」という特徴でもあります。それ以外にも、どうしてこのスケジュールなのか、どうしてこのコミュニケーション支援なのかなどをどのくらい説明できるでしょうか。
    
もし、こうした根拠を持って説明できることを増やすことが、「自閉症支援の見直しをする」ということです。

その他カタトニアへの対応でいくつかの大事な視点

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