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SPELLにおける5つの価値観

3,128文字あります。個人差はありますが、5分〜8分ほどでお読みいただけると思います。

よこはま発達クリニック・相談室の佐々木です。
英国自閉症協会(National Autistic Society;NAS)が掲げている支援の原則的な考え方として、SPELLというフレームワークを紹介してきました(SPELLについては、下記をご参照ください)。今回は、SPELLの価値観について簡単に紹介したいと思います。

Individual Person Centered

1つ目の価値観は「Individual Person Centered」です。これは、「個々に合わせて」というような意味です。TEACCH Autism Programでも、同じASDであっても、障害特性や個人の性格、興味関心などは一人ひとり違うため、支援はマニュアル化するのではなく、個人をより良く観察しアセスメントを行う、そして個々の特性に沿った支援計画・教育計画を立てること、つまり個別化することを大切にしています。

ASDの方々の特性は共通するものがありますが、その現れ方は多様です。同時に、ASD特性だけでなく、人としての特性も尊厳もあります。だからこそ、「一律に」「みんないっしょ」ではなくて、個別の調整が必要なのではないかと思います。

文部科学省でも、「個別最適な学び」について以下のような考えの重要性が指摘されています。

全ての子供に基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させ、思考力・判断力・表現力等や、自ら学習を調整しながら粘り強く学習に取り組む態度等を育成するためには、教師が支援の必要な子供により重点的な指導を行うことなどで効果的な指導を実現することや、子供一人一人の特性や学習進度、学習到達度等に応じ、指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供・設定を行うことなどの「指導の個別化」が必要である。
基礎的・基本的な知識・技能等や、言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力等を土台として、幼児期からの様々な場を通じての体験活動から得た子供の興味・関心・キャリア形成の方向性等に応じ、探究において課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現を行う等、教師が子供一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで、子供自身が学習が最適となるよう調整する「学習の個性化」も必要である。

文部科学省HP「育成を目指す資質・能力と個別最適な学び・協働的な学び」より

「〇歳だから」「みんなもやっているから」ではなくて、それぞれの方に合わせて必要な調整をすること、これがIndividual Person Centeredの考え方だと思います。

Hopeful

2つ目の価値観は「Hopeful」です。これは「できていないところではなくて、できていることに目を向けて」というような意味でしょうか。そのためには「自閉症特性から考える」ことが大切です。ご本人たちの持っている特性は、環境によっては強みにもなる一方で、不得手さとして出ることもあります。

例えば、ASDの方々のイマジネーション特性は、「イレギュラーに弱い」というのは不得手さかもしれませんが、「先行きが分かっていれば安心して力を発揮できる」という良さにもなり得ます。したがって、良さがよさとして発揮されるような環境を、可能な限り調整していくことが大切です。そのためには、やはりASDに関する知見を深めていくことが必要になります。

同時に、保護者の方々との協働関係もHopefulでは価値観の一つにしています。保護者の方と一緒になってお子さんのことを考える、そして「やりようはあるんだ」と感じていただけるような、育児や対応のコツを一緒に考えていくことが重要なのです。

Honest

3つ目の価値観は「Honest」です。これは「正直に、誠実に」という意味だと理解しています。これは、我々の理念の一つである「Evidence basedー根拠のある支援」と共通するものがあります。

例えば、現在の医学ではASDなどの発達障害が「治る」というような治療法はありません。そのため、治癒を目指す疾患ではなく、環境調整と心理教育によって生活の質を向上させることを目指しています。そのための有効なアプローチが多くの研究によって明らかになっています。その中でも、世界的に支持されているのが英国自閉症協会やTEACCH Autism Programの考え方です。

ですから、「〇〇をすれば治る」「〇〇をしないと将来大変になる」などの誇張や誤解、脅しになるようなことはしない、これがHonestの考え方です。

Respectful

4つ目の価値観は「Respectful」です。これは、「当事者の方々、保護者、支援者それぞれを尊重する」ということです。発達障害は脳機能のあり方、すなわち認知(ものごとの捉え方や感じ方)に偏りがあるといわれています。つまり、「違い」があるということです。でも、それはただの違いであり優劣ではありません。
  
当事者の方々の違いや、違いがあってもいいことを認める、それがリスペクトする(尊重する)ことの第一歩です。その上で、必要な支援を行うことで、特性から生じる不利益・不都合が減らせるような対策を一緒に考えていくこと、その方を変えるのではなくて、その方にあっていない方法や環境を変えることが大切ではないでしょうか。

こうした考え方は、保護者や周囲と連携していく際にも、それぞれの立場に敬意を払うことは重要です。連携は”とれて当たり前”ではありません。 ”なんとなく”はチームはできません。 ”チームを作る視点”で動く 批判・非難では一緒に考えるチームは作れないのではないでしょうか。

Ethical

5つ目の価値観は「Ethical」です。これは、「倫理的に、倫理観を持って」という意味でしょうか。例えば、今のお子さんの発達段階以上のことを強いることは、倫理的でしょうか。よく支援現場では、実物、絵カードや写真、文字などのさまざまな視覚情報を活用します。でも、ただ視覚的に提示すればいいわけではなくて、それぞれの方にとって理解しやすくなるような提示が大切です。つまり、評価に基づいた支援をすることが大切であり、そのためには繰り返しですが、「特性から考える」という視点が欠かせません。

それぞれの方にあった方法を考えず、特性から考えず、周囲の力技やマンパワーだけでなんとかしようとすること、これは倫理的でしょうか。

特性から考え、それぞれの方にあった支援を考えていくことも倫理観の一つだと思いますし、同時に専門性だけではなく、我々の態度、品行、考え方も倫理的であり、そうしたことも高めていくことも一つのEthicalです。

まとめ

今回はSPELLの価値観について、簡単にですがまとめさせていただきました。

  • Individual Person Centeredー個別化

  • Hopefulー特性から考える

  • Honestー根拠のある支援を

  • Respectfulー違いを認め、尊重する

  • Ethicalー支援としても、人としても倫理観を持って

今回の記事が、少しでも皆さんの暮らしのヒントになれば幸いです。

よこはま発達相談室
佐々木康栄

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