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菓子を食い散らす犬。(2020年5月25日(月))

学び舎の発案者は、老若男女多数の人たちが教師も生徒もなく全て対等な立場で共に学びあう居心地のいい場をつくりたいと考えていた。確かにそこはそういう場であって、私の愛する場だ。

しかし愛しているにも関わらず、そこへの正式再参画について、二の足を踏む自分がいた。

「なぜ?」そう考え続けているうちに、ついに私は、自分の抱える「トラウマ」を直視せざるを得なくなった。

合理的に考えて「いいことしかない」ような場所になぜか二の足を踏む時、そこには「トラウマ」が根を張っている。学び舎にはかつて私にマウントを仕掛けてきた人がたった2人だけではあるが、関わってくる可能性があった。

数百人の集まりの中の、たった2人。
その2人以外は、一緒にいたい人たち。

実際のところ、その2人から「のみ」、気ままに距離を置くことはできるだろう。そうわかりつつ、自分の心がその2人に強く反発しているのだ。私には「好きなものを諦め、それを全部をひっくるめて、そこから距離を置く」以外の術を…

とその時、はたと、リダの武術仲間であるキースの言葉を思い出した。

「リラックスは技術だ」。

私はリダの元に走った。
突然現れた私にリダは一瞬驚きながらも、少しならいいわよと迎え入れてお茶を出してくれて、「キースは今外国にいて当分こちらには来られないけれど」と言いつつ、次のことを教えてくれた。

「心と身体は自分自身ではなくて、犬ぞりの犬なんだってキースは言ってた。犬をうまく操って行きたいところに行くには、まず、自分が犬の上にいてコントロールする立場なのだとわからせること。その上で犬をよく見てあげて、犬にこわばりがあるなと気づいたら、それを解きほぐしてあげればいいんだって。たぶんリラックスってそういうことなんじゃない?」

リダの元から部屋に戻って目覚めた翌朝、目覚めのさっぱりした段階では、「トラウマ」という犬を御して、愛する場所に行けそうな気がした。

しかし、エントリーシートに記載をしようとした瞬間、その犬がギュッと立ち止まった。手当たり次第に部屋中の菓子を食べちらかしはじめた。

「すまなかったね」。私はその犬の傍にしゃがんで、「よし、一緒におやつを食べるか」と笑いながら、しばらくその頭を撫で続けた。

#エッセイ #小説 #日記 #memento