見出し画像

愛もなければ、生き延びられない。(2020年5月17日(日))


今朝は霧雨が降っていて、いつのまにか街路樹が黄緑色の葉を茂らせている様が窓の外から見えた。

私はコーヒーを飲みながら、この前の酒場での武人のやりとりを思い出し、改めて「距離のとり方」の習得が生き延びることの本質だということを思った。

考えはじめは「いかに敵の視界に入らないか」「予想外の動きするか」というところからであった。例えば、相手の視界に入るところで相手に怒りを見せたり逃走の気配を見せたりするのは、相手が敵であった場合には相手の思うつぼであるし、そうでなかった場合には、不用意にその人を敵に変えかねないといった具合に。

そんなことを考えているうちにふと、「我々は辺境と呼ばれるこの郷で、したたかに生き抜く存在だ」という長の言葉を思い出した。

「歴史を紐解けば、かつて中心と呼ばれた地が、何かしらのきっかけで魔法が解けたかのように瓦解した様を随所で見ることができる。そんな中で、我が郷もまた他の郷も、外に閉じたり開いたりをうまく調整しながらしたたかに生き延びてきたのだよ」という長の言葉。

ここからさらに連想が広がって、私は急に、自分が「閉ざす人間だ」と言われがちであることを思い出した。

私はずっと、自分がなぜそのようなことを他人から言われるのか理解できずにいた。ずっとわからずにいたのに、なぜかしらこのタイミングで一気にわかったのだ。私は「閉ざしている」のではなく、「誰にも甘えてはならない」という呪詛を、若き日に自分自身にかけていたのだと。

そしてその「甘えを捨てた」ことが、結果的に、自分の「ワタル」としての強さを損ねてきたのだということに気づいたのだった。変わりゆく世界に対し、それを恐れて距離を置くだけでは、生き延びられないとわかったのだ。

#エッセイ #小説 #日記 #memento