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人を思いやることが、どういうことか分からない

人の気持ちと行動を記憶していく

「足、揉んであげようか?」
先日、立ちっぱなしの仕事で疲れ、ソファに倒れこんでいる私に、娘が言った一言でした。「え、じゃあ、お願い」と言うと、本当に揉んでくれました。
まるで夢のようで、私はひとりドキドキしていました。

というのも、娘はいつも自分のことでいっぱいの人で、人のことなど考える余裕がないというか、そういう頭がそもそもないというか、私はそれまでムスメからこんな優しい言葉をかけられたことがなかったのです。

数年前「人を思いやるって、どういうこと!?」と怒鳴ったり、泣いたりしていたムスメでしたから、喜びはひとしおでした。

ムスメとモトオは、特性がそっくりのASD(自閉症スペクトラム)ですが、ADHDとLDの特性も合わせ持っています。普通の人と見分けはつかず、周りからは天然とか、ちょっと変わった人と思われているタイプです。

ですが、このふたり、自分の気持ちも含め、人の気持ちが分からないと言います。気持ちが分からないということは、つまり、人を思いやることも、自分にとって大切な人が誰なのかも分からないということで、家族である私にとって、これほど厳しいことはないのでした。

放っておけば、とんでもなく自分勝手な人間が出来上がってしまうという訳です。特性が重度で幼い時からはっきりしている人は、療育などで、思いやりなど人間関係の暗黙ルールを教えてもらったりしますが、そういう機会がないまま大人になってしまうと後で大変になるのです。

恐らく彼らは、人の気持ちというものもAIのように一つ一つ読み込ませないといけないのかもしれません。気が遠くなるほど大変ですが、見方を変えれば苦手な人付き合いも経験を積めば、なんとかやり過ごすことが出来るようになり、それは生きやすさに繋がるのではないかと思います。

発達障害で有名なアメリカ人のテンプル・グランディンは、著書「自閉症スペクトラム障害のある人が才能をいかすための人間関係10のルール」の中で、人の感情と行動はハードディスクに記憶していくような感じだと言っています。

感情がない訳ではなく、単にアプローチの仕方が普通の人と違うだけ、とも言っていて、初めて読んだ時はなんとも言えない寂しさを感じましたが、今はその通りだと思います。

ムスメは先のことを想像することも、他人の視点で考えることも苦手なので、彼女に分かるように伝えるのは、言うほど簡単ではありません。

それでも、少しでも生きやすくする為に、できるだけ日常の暗黙ルールを言葉にしたり、書いたりして、説明するようにしています。時間は恐ろしくかかりますが。

「人を思いやることが分からない」と、ムスメから言われた時も、驚き過ぎて「え、そんなことも分かんないの?」と うっかり口に出して言ってしまい、「そうやって、バカにする!」とまた怒せて、それだけのことで落ち着かせるのに何時間もかかった、なんていうことは何度もありました。プライドがとても高く、自尊感情がとても低いせいで、彼女は過敏過ぎる最近よく聞く「繊細さん」でもあるので取り扱いは厄介なのでした。

ついでに書くと、離婚する前は、モトオにも家族仲良く暮らすため、負の感情を家でばら撒くのをやめて欲しいと、彼が理解出来るようノートに書いたり、言い方を工夫したりしましたが、彼が変わることは最後までありませんでした。

発達障害の人で困っている人は、手を差し伸べれば、変わることができると思っていますが、自覚がなく困ってもいない人は変わることはまずないと思います。

赤の女王なムスメ

ムスメがどんな娘かというと、家では「めんどくさい」が口癖で、自分がしたい事以外は、基本何もしないという、とんでもない娘でした。

親の言うことには、ことごとく口答え(すべて減らず口)し、絶対に従わないという生意気過ぎる子供。「手伝って」と頼むと「なんで、私が!?」と言って断固拒否。子供なら当たり前に手伝う家事も、手伝わせるのに、どんなに手こずったことか。今も基本はそんなに変わっていませんが、私との闘いを経てきた今はその頃に比べたら、ずっと人らしくなったと思います。

私からすれば、ムスメは、まるで映画「アリスインワンダーランド」に出てくる「赤の女王」のようです。すぐに怒ったり、威張ったりしてきますから。

その赤の女王なムスメが、いまでは「立ちっぱなしは、疲れるよね」と 気遣う言葉をかけ、足を揉んでくれるのですから、苦労は報われるということです。

今も何か言われるとすぐ怒るのはまだ変わりませんが、以前のように長く激怒することは大分少なくなりました。人の行動や感情の分析、暗黙のルールなどを話しあうのは大変ですが、やる価値はあると思います。

因みに、彼女は耳からの情報が苦手な視覚優位タイプなので、特に怒っている時は、できるだけノートに書いて話しを進めるようにしています。

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