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「咳」について

  Twitterのbotにしてあるもので、いつまでもちょいちょいいいねをつけていただけるものがある。そのうちの一つがこれ。
蜂蜜は咳にいいけど、夏はだめ

 夏はだめ、湿気がたまる日もだめ、と書いてあるんですが、そんな時期でもいいねがつく時がある。いいねするということは、そのタイミングに「お!ハチミツかー」と思ってる人がいるわけですよね。
 よく読んで!今日はだめだよ!と思うわけですが、届ける術もなく。
 そこで、咳というものについてもう少し詳しく書いておこうと思いつきました。

 咳はなぜ出るのか

 咳は、気道(ここでは、喉の辺りから肺までの意味で大体使います)に何か変なものが入ってきた時に、それを出すために体が起こす反応ということになっています。何か変なものが入ってきたことを何で感じるかというと、粘膜の触覚的なものです。
 なので、実際に何かが入ってきていなくても、例えば炎症が起きたり、気道に傷がついていたりすると、粘膜はそれを異物がそこにあるせいと勘違いして咳を繰り返します。また、この反応は、「気道粘膜→(異物あり)→脳→(咳をしろ)→横隔膜や喉の筋肉→咳」という流れなので、隣を通っている食道に何かがあって食道から信号が来たとしても、脳がたまに勘違いをして、咳をさせることもあります。
 ここまでは、反射的に出る咳のイメージです。
 もう一つ、気道に何かあるのを自覚していて、自分の意識で喉の筋肉や横隔膜を動かしてゴホン、エヘンとやることもありますよね。これも信号の流れとしては同じ感じではありますが、仕組みは少し違っています。
 これが科学サイドの咳の仕組みです。

 では、中医学ではどうなっているか。ここから先は、自分の体に文章を投影して、想像しながら読んでください。
 中医学では、咳というのは「気が逆に流れている状態」とされます。
 本来なら肺から先の気の流れというのは、気道を通って出てくるものではなく、「宣発粛降」というはたらきを使って、全身に散布されるのです。肺よりも上や表面に向けてスプリンクラーのように撒くのが宣発。肺よりも下(これは五臓六腑も含まれます)に流すのは粛降。(宣発粛降のはたらきはこれのみではなく、他のこともしているのですが、今回は割愛。)気道を通して捨てているのは、その時に吸った空気ではなく、そのタイミングまでに肺に溜まっていた悪いものです。
 この宣発粛降がうまく行かない時、肺よりも上や表面に撒くはずの気が内に篭り、下に流すはずの気も上部にとどまる。あまりにもこれがひどいと、とどまるのみならず、逆流し、しかも鼻からじゃなくて口から出てくる。その方が出しやすいから。

 咳というものの基本的な仕組みはこんな感じです。なので、気の流れを正常にするもの、特に本来なら下に向くはずの流れが上向きになってしまっていることが多いので気を下に降ろすもの「降気」のものを使うのが、第一になります。
 また、全般的な気の巡りをスムーズにするための「理気」も使えます。
 表面に向かわせる宣発を強化するなら「発散」「解表」なども。
 宣発粛降のはたらきそのものを強化する「宣肺」という力をもつものもあります。
 そしてそもそも肺のはたらきが弱ってしまったことが大本だったりもするので、肺を元気にするために「補肺気」「潤肺」をするのもありです。

 ここで出てきた「補肺気」「潤肺」の力を持つ食べ物の代表がハチミツなわけで、「ハチミツは咳が出る時に食べるといい」という話になるわけです。

ハチミツの長短

 ところが、ハチミツは咳にいいけど、咳が出るからこそ使ってはいけない場合があります。それは「タンを伴う咳」の時です。
 「タン」はいわゆる、咳をすると出てくる、どろっとしたあれです。でも、タンのない咳の時もありますよね。
 ハチミツは、本来、タンのない「乾いた」咳の時におすすめなのです。

 ハチミツは潤いを与える食べ物です。「潤肺」です。この「潤い」も度が過ぎればただの煩わしい液体です。梅雨時の湿気、結露、換気の悪い押し入れや地下室などを思い出してみるとわかるかと思います。あれを産むのも元は「潤い」です。
 タンがある時というのは、喉元に要らない煩わしい液体の固まったものがあるということです。既に、潤いが度を超えて存在している。
 そこへ、更に潤いを入れたらどうなりますか?
 タンが大きく、増えるだけです。
 そして、体はタンという異物が出ていってくれるまで、咳をし続けます。
 咳にいいと聞いてハチミツを食べたのに、咳が止まらない!という事態になりますね。

タン・痰のある咳

 タンのある咳の場合は、ハチミツではまずいぞ、と分かっていただけたかと思います。タンという余分な水の塊がある場合は、「化痰」というタンをほぐす力を持つ食材を使います。これでタンを出しやすくし、しばらくは意識的な咳でそれを排出したりして、徐々になおしていきます。
 そして、中医学ではタンは「痰」の一種として捉えます。

 痰というのは、体の水分の流れが悪くなって澱みどろっとしてきたもの全般を指します。喉元になくても、例えば、頭蓋骨周りにこびり付いたり、関節の中にいたり、皮膚の下にいてむくみを起こしたり、いわゆるセルライトみたいなものとして存在していたりします。
 痰が常日頃から溜まっている体質の人は、タンが絡む咳が出やすいとも言えます。
 また、雨の日や日本の夏のように湿気が多い時、海や湖のそばに住んでいたり地下にいることが多い人なんかは、湿気が体の中に溜まりやすいので、痰が溜まりやすい状態になりやすいです。この場合もタンが発生しやすいです。
 この場合も、ハチミツを咳に対して使ってしまうと、結局痰が増えて咳が長引く、ということになりかねません。

 だから、「夏や雨の日はハチミツだめよ」なのです。

 また、「甘いもの」も湿気・痰の素になります。
 シロップや甘い飲み物をこぼしてそのままにしておくとベタベタします。くりきんとんやカラメルシロップを作る時、砂糖にほんの少しの水を加えて加熱すると、その水とは別に大量の水分が出てきます。
 甘いものの中には、実はたくさんの水が含まれているんですね。
 なので、甘いものを食べすぎると、体内にそれが余分な水分「痰」として溜まりやすくなります。
 ですから、甘いものも夏や雨の日は避けたいですし、湿気の多い日に体調が悪くなりやすい人は甘いものを減らす方がいいです。
 砂糖を避ける傾向がありますが、その代わりにハチミツを使う方、要注意です。薬膳的には、砂糖もハチミツもアガベシロップも人工甘味料も「甘い」ですから、このベタベタ湿邪を生み出すことに関しては全て一緒です。果物ですら、甘味の強いものは同じと思ってください。

 今これを書いているのは2022年の立夏に入ったばかりの日です。
 日本は夏の前に梅雨がきます。湿気の多い季節の対策をまずはしていきましょう。
 咳の話でしたが、結論はそっちになりました。症状が出てからの対処ではなく、症状が出ないようにするための養生に意識を向けられる仲間が増えますように。
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→「痰・水・湿邪・津液
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