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お酒を”詩”だと言うと、酔っ払ってると君は思うかしら。

「色に例えると透明じゃない?」

遠くに引っ越した知り合いが手土産で持ってきたバーボンウイスキーを飲みながら、そんな矛盾した事を呟いていた。

それなのにも関わらず。

「でしょ。ほんとに。そうだね。」と、その人は、頷くのだった。

「まるくて、透明。」
琥珀色の液体を飲みながら、味をそう表現する。

お酒を飲む事が好きなのは、例えばそんな言葉を分け合えるからなのかもしれない。

味に硬さやまるさや色や景色、香りに空の色や海の空気。

異国の地で生まれたお酒は、確かにそういうものを届けてくれる。

液体に綴られる手紙。

お酒を”詩”だと言うと、酔っ払ってると君は思うかしら。

だけどお酒は
簡単に人を詩人に変えてしまう。

そうしていつの間にか酔っ払っている。

言葉は、熱を帯び、レールを外れ
翌朝、結局何を話していたんだっけ?と二日酔いで重たい頭を抱える。

きっと宇宙に行っていたんだと思う。これは、時差ボケに似た何か。
そんな事を考える頭は、まだ酔いが残っている。

バーで一番美味しい飲み物は、水だねぇ。

そんな言葉が、フラッシュバックする。矛盾する事ばかりを口にする。

お酒を”詩”だと言うと、酔っ払ってると君は怒るかしら。
だけどそんな風に
簡単に宇宙旅行に出掛けてしまう。

曖昧になっていく”世界”
矛盾の中にある”真実”

そんな事を饒舌に語り出す。
お酒を飲む時間だけに許されているものがあるような気がする。
分け合えるものがあるような気がする。

だけど
そんな”真実”は、いつも”曖昧”なのだ。

琥珀色の液体が空を海を潮の香りを。
硬さやまるさや優しさを。
そこに映し出す事なんてないのだ。

いや。
そうだろうか。
そんなはずは、ない。
どうしよう。
お酒について語るとお酒を飲んでいないのに
酔っ払っているよう。

人類が発明したもので最も厄介なものがお酒だ。
そう誰かが言っていた。
いつかのバーカウンターで。
ねぇ
お酒を”詩”だと言うと、酔っ払ってると君は思うかしら。
曖昧な真実に酔っていたい。
「まるくて、透明。」
手土産のウイスキーを飲みながらいつかの言葉がフラッシュバックする。

お酒を”詩”だと言うと、酔っ払ってると君は思うかしら。



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