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アーケードのバスケットを思い出すだろうか。

9月。
残暑が残る夕暮れ時に
気付けばシャッター街になったアーケードを歩いていると

どこからかバスケットボールの軽やかな音が聞こえてきた。

シャッターの閉まった店々が並ぶ。
この通りは、昼間ですら人影はまばらで
どこか寂しげな雰囲気が漂っている。

汗を拭いながら
下を向いて歩いていた。

ふと視線をあげると
通りの先に小学生の姿が見えた。
五人ほどの女の子たちが
活発に
バスケットボールで、ドリブルして遊んでいる。
ボールがアスファルトに当たるたび、シャッターの閉まった店の壁にその音が反響し
リズミカルに響き渡る。


子どもたちは楽しそうに笑い声を上げ
互いにボールを奪い合ったり
シュートの真似をしたりしている。

バスケットゴールなどあるはずもないこの場所で
想像力だけを頼りにその女の子達は
はしゃぎながらゲームを続けていた。

そんな光景を眺めていたら
気づけば
フラッシュバックする。

夏休みの校庭で
サッカーボールを持ち込んで
暗くなるまでサッカーをした事。

他に生徒もいないから
独占して走り回った特別感。

普段なら怒られるのに
自動販売機で買ったファンタグレープなんかを持ち込んで、渇き切った喉元に炭酸が駆け抜けていくあの爽快感。

校舎の時計を見ると20時前。
それでも明るい空に
無限大のわくわくを感じていたあの日の事。

そんな事が一瞬にしてフラッシュバックした。

女の子達は、アーケードを走り回る。
ボールが地面に叩きつけられる音。
靴が地面を擦る音。
そのどれもが商店街の静寂を打ち破り
街が、一瞬の活気を
取り戻しているように感じられた。

僕はその光景を、眺めながら
自動販売機でファンタグレープを買ってみた。
喉元を駆け抜けていく炭酸。

あの日の友達は、今何をしているだろう。
あの頃に帰れは、しないけれど
あの頃の事を覚えている。
その感情やその心の形を。

そんな事が嬉しくなった。

ボールがはじける音がさらに遠くへ響いていく。
子どもたちは、汗だくになりながらも楽しそうに遊び続けている。

いつか彼女達も大人になった頃
このアーケードを通って今日の事を思い出すだろうか。

そうやって続いていく町の毎日の1ページに触れられた気がした。

ぬるくなっていくファンタグレープを飲み干して、歩き出す。
気付けば日が暮れ始めている。
夕暮れの空気をすっと胸に吸い込んだ。


最後まで読んでいただきありがとうございます。